第169話・皇帝とジョニー・その二

side・ジョニー


「邪魔するぜ」


 数日ぶりに帝都に戻ったオレは、呪いの解除が出来るかもしれないアイテムを持って皇宮に潜り込んで来た。


 一応試作品らしいが、呪いもこの世界の魔法の法則と変わらないらしく、解析は比較的楽だったって言うんだからすげえな。


「勇者殿か。まさに神出鬼没だな」


「まあな。呪いを解くアイテム持ってきたぜ。ただ、その前に一つ聞きたい。あんたあの嬢ちゃんを本当に皇帝にする気か?」


 皇帝とミレーユの母親は、相変わらず何もない部屋で、ただひたすら時が過ぎるのを待ってるかのような態度だ。


 正直気が狂うとまでは言わねえが、このおっさん治して大丈夫なのかは確認しないといけねえな。


「こうなる前はそのつもりじゃったな。ミレーユは神が選んだ次代の皇帝。それを皇帝に据えるのがワシの役目なのだ」


「神が選んだ? あんたは神様と話したことがあるのか?」


「言葉として聞いたことはない。だが代々皇帝が継承してきた、神との契約に関する情報にそのような事項がある」


「破るとどうなる?」


「分からぬ。それは記されておらぬのでな。代々の皇帝は魔族との闘いに備えて闘うことをする代わりに、神の加護を得ているのだ」


「で。嬢ちゃんのことはどうする気だ? 嬢ちゃんを皇帝にするには二十年は絶対に早い。神様との約束は守れても、国は守れなくなるぞ」


「詭弁となるかもしれぬが、次代は別の息子に継がせたい。今は南方の総督をしておる、サミラスという息子がおる。皇帝になる気がなくて早々に退いた男だが、息子の中では一番皇帝に向いている。ミレーユが大人になり皇帝に就くかは、本人にいずれ決めさせたい。となれば奴が皇帝に相応しいであろう」


「その言葉に嘘偽りはないだろうな。あれば魔族の前にオレが叩き潰すぜ。子供一人犠牲にしなきゃ保てねえ国なら、オレが滅ぼしてやる」


「今回のことでワシもよく分かった。ミレーユの人生を帝国に捧げろとは最早言わん。だがバルバドスだけはダメなのだ」


「なんでダメなんだ? 優秀なんだろ? 人としてはクズだがな」


「バルバドスが皇帝になれば世界が滅びに向かいます。それだけは私には感じるのです。勇者よ。ミレーユは貴方に預けても構いません。どうかバルバドスを倒す為に力を貸してください」


 皇帝も母親も恨みや憎しみで狂ってはないか。


 常識的に考えれば、嬢ちゃんに選択肢を与えるのは悪くはない。


 だが皇帝はともかく、サミラスって奴とか貴族連中が真相を知ったら、無理矢理にでも嬢ちゃんを皇帝にするんじゃねえだろうな。


 それに断れない状況に持っていくこともあり得るが。


 万が一の時にはオレが手を出すのを理解して、ならば預かれってか。母親の方は食えねえ女みてえだな。


 確かにバルバドスって奴はダメだ。ここまで首を突っ込んだ以上は放置もしたくねえ。ただし、サミラスって奴は調べる必要があるか。


「いいだろう。ほら、呪いの解除薬だ。飲み薬だから飲めばいい。ただし勝手に動くなよ。こっちにも準備がある。それとサミラスって奴に会いたい。紹介する手紙でも書いてくれ」


「すまない。恩に着る。サミラスへの手紙は書こう。ついでに奴に帝位を継がせることを書くので届けてくれぬか?」


「ああ。その方がいい。そいつがやる気もなくて拒否したら、他の策を考えなきゃならねえしな」


「これを一緒に持ってゆけ。ワシが幼い頃に父から貰ったナイフだ。サミラスもこれと手紙があれば、信じてくれるであろう」


 苦労したんだろうな。


 何不自由なくとも自由に外も歩けねえ立場の皇帝が、二年も寝室に閉じ込められればそりゃあな。


 あとはバルバドスとサミラスの二人を調べるだけか。


「おお、本当に身体が動く。まさかあれほど強力な呪いを解くアイテムがあったとは」


「出処は聞くなよ? しばらくはリハビリが必要だろうが、大人しくしててくれ。バルバドスって奴が、嬢ちゃんが見つからねえで神経質になってるからな」


 呪いの解除も上手くいったみたいだし、今日のところは帰るかね。


 要らねえ仕事増やしちまったがな。


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