第157話・そして数日後……

 オレ達が帝都に来てから一週間が過ぎていた。


 新婚さんと家族のみんなは、帝都を満喫して二日ほど前に島に帰った。


 オレ達は皇女様の件で、もうしばらく帝都に滞在することになったんだけど、クリスティーナ様と侍女のメアリーさんも帝都に残ってる。


 クリスティーナ様は皇女様と姉妹のように仲良くなっているのでカモフラージュにはちょうどよく、本人もオレ達と一緒に帝都に居たいと言った結果だ。


 この数日は海竜の素材の行方が帝都で話題となったり、帝国貴族の第一皇子離れが加速したりといい話も悪い話もあった。


 あとジョニーさんに関しては、オレ達と会う前にも町を襲った竜を倒していたことと海竜の件で、懸賞金が金貨三千枚まで急にあがったみたいだけど。


 しかしこの一週間は狙われることもなく、帝都観光をしたりゆっくりしたりしてる。


 海から引き揚げた死神さんの船は、中まで海水が入ったので分解洗浄が必要で時間がかかるらしい。




「皇帝陛下は事実上の軟禁状態で、世話をする人すら配置されておりませんでした。現在世話をしているのはミレーユ様のお母様だけです」


 そしてこの日は皇宮に、虫型の偵察機がようやく潜入することに成功していて、皇宮の内情がようやく掴めた。


「陛下も母上も無事か。良かったのじゃ」


「内部はどうなってんだ?」


「魔法的なセキュリティの類いは、意外にもほとんどありませんでした。警備の兵士はおりますが、外敵と言うよりは皇帝陛下達の監視をしています」


 皇女様と侍女のロマさんは皇帝と母親が無事なことを喜んでるけど、問題はここからだよなぁ。


「妙だな。なんでそんなに無警戒なんだ?」


「こちらの調査では嘘か本当か分かりませんが、皇宮に侵入出来た者は居ないそうです。それに現在皇宮に住んでいるのは、皇帝陛下とミレーユ様のお母様に第一皇子殿下だけです。残りの皇族は別の宮殿に居るようでして」


 ジョニーさんは魔法障壁なんて代物がある割に、中が無警戒だと聞くと訝しげにしてるけど、確かに不自然だ。


 動けない皇帝陛下はともかく、皇女様のお母さんなら逃げ出せるんじゃ?


 それに正妃や兄弟すら居ないというのは、どういうことなんだろう。


「帝国には皇族の宮殿が、現在使われてる所だけで十五ヵ所あります。第一皇子殿下や姫様の兄弟や姉妹は、他の宮殿で暮らしてるはずです。皇位継承する気があるなら別ですが、ないなら兄弟は他の宮殿に移るのが慣例になってますから」


 ただ皇宮に関しては皇帝が寝たきりになった頃を境に、息子や娘達は別の宮殿に移ったらしい。


 ミレーユ様は皇帝の末の子供で、幼いのでまだ皇宮に居たらしいが。


 正妃は十年ほど前から体調が思わしくないということで、帝国の南部にある宮殿で静養してるとのこと。


 ただ実際のところは体調よりは、堅苦しい皇宮での生活に嫌気が差した別居らしいと噂があるみたい。


 これって、皇帝が何時までも老いぬダークエルフの側室に、いい歳して熱を上げてるのに嫌気が差したんじゃ。


「罠じゃねえよな?」


「その辺りを含めて調査してます。ただ第一皇子殿下は、こちらが思う以上に余裕がありません。幼いミレーユ様を暗殺しようとした件は、貴族の間では公然の秘密になってますから」


 ああ、図書館の調査は皇宮以上に難航してる。


 地下には禁書の管理区域を筆頭に何に使ってるのか分からぬ空間があるが、こちらは皇宮とは別の魔法障壁があり現在解析中らしい。


「潜入してみるしかねえか」


「もう少しお待ち下さい。皇帝陛下の体調など、まだ調査が必要なところもありますので」


 現状で判明したのは、皇帝が息子に実権を奪われて寝たきりになってることくらいか。


 皇女様のお母さん助け出すくらいなら多分難しくないけど、お母さんと皇帝が善良なら、見捨てて逃げられないから残ったんじゃないのか? 


 本当ややこしいなぁ。


 どっかの御隠居みたいに印籠見せたら即解決とか、簡単な方法ないもんかね?


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