第147話・宰相閣下の胃痛

side・帝国宰相




「宰相閣下。大変です! 街のマフィアが空の勇者を襲撃しました!」


「ブフォ!! ゴホゴホ……。どっ、どこの馬鹿だ!!」


「スラムのベリム一家かと思われます」


 溜まった仕事を片付け遅い昼食を取っていたら、とんでもない報告が。


「馬鹿が! 何故勇者を襲った!!」


「それが……どうも闇で勇者に懸賞金が掛けられてるようです。金貨三百枚ほどですが」


「すぐにベリム一家を捕らえてこい!」


「はっ、はい!」


 勇者に懸賞金だと? 一体何処の馬鹿が掛けたんだ?


 しかも金貨三百だなどと、ドラゴンバスターの勇者を馬鹿にしてるのか!


 勇者は確かイースター商会に居たはず。


 あそこは理性的な商会故に報復などさせぬと思うが、これ以上の問題は御免だ。


 先に犯人どもを捕らえさせねば。





「宰相。まだミレーユは見つからんのか」


「はっ。申し訳ありません」


「女子供すら見つけられないのか? 帝国軍は」


「比較的安全な森にでも隠れられたら、探すのが難しいのは申し上げたはずです」


「とにかく早く探し出せ」


 勇者だけでも胃が痛いのに、今度は第一皇子殿下に呼ばれるとは。


 この御方は自身が出来ることを、部下が出来ぬのが気に入らぬ御方だ。


 されど広い帝国領で、子供一人探すのがどれだけ大変か理解されてない。


 こちらの見立てでは助けた者が居るようだし、町や村に寄らなければ何処に行ったかなど探せるはずがないではないか。


「殿下。もうミレーユ様に拘るのはお止めになられては?」


「父は未だに帝位をミレーユに継がせる気なのだ」


「ミレーユ様が戻られぬ以上は、帝位継承の儀式は出来ませぬ。さすれば法により陛下がお亡くなりになれば、殿下が即位出来ます。まさかあの子供が帝位を求めて戻るとは思えませぬ」


「貴様は帝国の将来に禍根を遺したいのか?」


「ミレーユ様が戻られるとすれば母に会いたいが故に。帝国の将来など興味はありますまい」


 正直、わしはもうミレーユ様の件は放置でいいと思うのだが。


 幼い子供の命をわざわざ奪わなくとも、帝位など欲しがるはずはなかろう。


 この御方は何故こうもミレーユ様に拘るのだ?


 他の兄弟や姉妹も誰も帝位など欲しがっておらぬ。


 みなそれなりに自由な立場を楽しんでおられるのに。


「とにかく探し出して確実に殺せ。これは命令だ」


「はっ。畏まりました」


 確かに殿下は貴族や王族の支持はある。


 だが今回の件は流石にやりすぎだ。


 殿下のあまりに残酷な一面に、貴族達による殿下への支持が揺らいでることに気付かれてないのか?


 明日は我が身なのだ。例え亜人とのハーフとはいえ、血を分けた妹なのだぞ。


 これが自分に向いたらと思うと、貴族達は恐ろしくてならないというのに。


 気に入らぬからと殺されては、たまったものではない。


 血で血を洗う争いを、初代様が禁じた意味を殿下は理解されてないのだ。


 貴族ですら罪を犯しても命までは奪わぬのに。


 このままではまずいかもしれぬ。


 しかし殿下を抑えられる者は居ない。


 何よりこのままではわしは、殿下と一蓮托生にされてしまうではないか。


 何故、適当な金と地位で納得させることを嫌うのだ?


 こんなことならば宰相など引き受けなければよかった。


 何か、何か手はないものか。

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