第108話・島の温泉
「本当に地面の下から温泉が出るのか?」
「出たらいいな!」
お昼が過ぎるとオレと村人達は、村の中心から少し外れた空き地に集まっていた。
事前調査と合わせて特殊な重機で掘ること一週間。
六百メートルほど掘ったみたい。
「まさか地面を掘れば温泉が出てくるとはのう」
「ここの人は掘らないんですね」
「うむ。井戸なら掘るが、地下六百メートルなど掘れんぞ」
村人や伯爵様が半信半疑なのは、地面を掘れば温泉が出るという知識がないらしい。
無論何処でも掘ればいいという訳でもないし、魔法も地中を深くまで掘る魔法はないようだ。
まあ魔法は、そんな魔法を必要としなかっただけの可能性もあるが。
「おーーー!!」
「なんか出たぞ!!」
ワイマール王国では水に不自由しないが、それでも沸かすのに燃料が必要なお風呂は贅沢品らしく、温泉は一生に一度行ければ幸せなんだとか。
おかげで村人達の期待のプレッシャーが凄い。
「試しにオレに入らせろ!」
「バカ! 汚ねえもの見せるな!」
「オレも混ぜろ!」
ボーリングしていた重機から何か液体が出てくると村人達のテンションが一気に上がり、チャレンジャーな若者が何人か服を脱ぎ捨てて出てきた液体に突撃する。
「アッ熱っつい!!! 死ぬ! 死ぬ!」
「ヒィィィ!!」
女性陣や他の村人達は呆れながらも笑っているが、そう言えば水浴びは普通に田舎だとすると言ってたからか、男の裸など見慣れてるのか非難はない。
但し温度も確かめずに突撃した男達は熱すぎる源泉に撃沈してしまい、近くの水道に慌てて素っ裸で走っていく。
「バカばっか」
「フフフ。いいじゃないのさ。アタシは好きだよ。ああいう馬鹿な奴ら」
微かに香る硫黄の匂いに温泉が出たと喜び男達を笑う村人達を眺めながら、ケティは男達を呆れた表情で見ていてジュリアは爆笑してる。
でも君達知ってたよね?
事前調査で源泉が熱いの。
黙っていたのはオレやエルも同罪だけど。
結局男達は我先にと争いながら水道で身体を冷やすものの。
温泉に触れた部分が赤くなっていた。
それを見て何を勘違いしたのか、誰かが大事な部分が使い物にならなくなるかもしれないと意味不明なことを呟くと、更に慌てて回復薬を取りに家に走っていく。
まるで熱いお風呂に入る昔の芸人を思い出す、ナイスなリアクションの良さだ。
「成分は問題ない」
「早く温泉施設完成させないとな」
念のためケティは温泉の成分を、簡易分析したけど大丈夫みたい。
温泉施設は男女別の内湯と、貸し切りの家族風呂が幾つかと露天風呂を造るみたい。
外観とかインテリアは日本風というか、オスカラの町の温泉宿みたいなのがいいんだって。
基本的に温泉と言えば、あそこのタクヤ温泉がみんなの憧れのようだね。
あとうちと伯爵様の屋敷にはお風呂があるから、個別に温泉を引く予定だ。
「温泉には卓球とか欲しくなるな」
「卓球ですか? 作ってみます?」
「うん。お願い」
村人達の話し合いで温泉には、みんなで集まれる宴会場のような大きな部屋を造る予定だから卓球も置いてみようか。
流石に宇宙要塞にもないけど簡単に作れるだろうし。
うん。夢が広がるな。
ジョニーさんが来たらどんな顔するか楽しみだ。
いっそ畳でも入れてみようかな。
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