第69話・夕食と貴族の話
「へ~、キノコのスープか」
「ここの名物なんですよ」
食前酒代わりに日本酒を飲んだオレ達は温泉宿の夕食を堪能していたが、メインは骨付き肉だがスープはキノコのスープで今までになかった物だ。
これは多分ポルチーニ茸かな?
味はコンソメに近くブイヨンをきちんと作ってるっぽい。
スープは長いこと煮込んだようでいい出汁が出てて口の中からのどを通り身体に染み渡るような優しい味だ。
キノコの歯応えと味もスープに合ってて美味しいし、それにここは白くて柔らかいパンなのがまたいい。
黒いパンも慣れたし悪くないけどこの優しくて深い味わいのスープには白いパンがよく合う。
骨付き肉が少し濃い目の味で食べごたえがある分、それを優しいスープがちょうどよくさっぱりさせてくれるので全体のバランスがいい。
「今までと違って手が込んでますね」
「ここの料理は王都仕込みじゃからのう。元王宮料理人の弟子だと聞いたことがあるわい」
今までとの違いは手間の掛け方だろう。
気になって聞いてみるとやはりここは特別らしいね。
周りを見てみると今までと違い貴族や商人や冒険者など様々居るようだが裕福そうな人ばかりだ。
伯爵様には挨拶に来る人も居るが、伯爵様はあまり仰々しい挨拶を好まぬようでみんな軽く顔見せ程度の挨拶ばかりだった。
まあ伯爵様は食事中だし邪魔をしてはダメだという当然の配慮もあるんだろうけど。
「やっぱりいけ好かない奴もいるね」
「あまり気にせんことじゃ。そういう輩はたいてい同じ貴族でも嫌われておるからの。自領の領民でもない者を相手に見下したり威張り散らすのは愚か者のすることじゃ。どこの誰かも分からぬ者。ましてワシの連れをそういう目で見る輩は特にの」
ただ中には長々とあからさまに伯爵様に媚びを売りつつ、ジュリアやエルをまるで娼婦でも見るような目で見ていた奴がいてジュリアが睨むと目を逸らして逃げて行った。
伯爵様は関わりたくもないと言いたげな表情でその人物とは言わなく、よくある話として貴族について教えてくれる。
正直何処の世界にもどうしようもない輩は一定数居るということだろう。
「もっと絶対的な身分差があるかと思ってましたが」
「身分差はあるが必要以上に見下していいことなど何もあるまい? 何処で誰と繋がってるかなど分からぬのだ。傲慢な貴族が住民に見捨てられて滅んだなどという話もある。それに平民の娘に乱暴をしたらその娘の恋人が冒険者で報復に殺されたなどという話もあるしの」
ただこの惑星の貴族の権力は絶対的なものではないのかもしれない。
案外日本の公卿なんかのように権威はあるが武力や財力は必ずしも絶対的ではない部分も一部はある気がする。
個人の武力が違い過ぎるし伯爵様のような力があれば並の力しかない貴族は恐れるということだろうか。
「あら、デザートはアイスなんですね」
「私アイス大好きなの。これを食べるためにここに来る人もいるのよ。貴族でも高級品でなかなか食べられないわ」
一方女性陣はデザートのアイスの話で盛り上がってる。
アイスはシンプルなバニラアイスだけど牛乳と砂糖やバニラに冷やす為の道具が必要なアイスは、流通が未熟なこの惑星では正に贅沢なデザートなのだろう。
チョコレートはあるのかな?
今度チョコレートアイスでも作ってあげようか。
どんな顔をするのか見てみたいね。
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