第68話・米酒とクリスティーナ

「ほー。これは美味い。今まで飲んだ米酒と全く違うわい」


 温泉から上がるとオレはエル達に伯爵様に気付かれていたこととそれを認めたことを話して、馬車から日本酒を持ってオレ達にクリスティーナ様達と伯爵様の部屋に行き飲むことにした。


「やはりここの物と違いますか?」


「違うのう。これほど透明ではなかったしもっと甘かったのう」


 東方がどんなところか知らないが宇宙要塞にて品質管理された日本酒には敵うはずもないか。


 オレ自身酒が好きではなかったので飲んだことはないが甘く色が着いてるということは恐らくは江戸時代くらいの技術の酒なのだろう。


 まあ部分的にはより優れた酒もあるかもしれないが遥か西にまで出回るとは思えないしね。


「しかし良かったのかね? 貴重であろうに」


「実は製造施設ごとこちらに来たので売るほどあるんですよ」


「なんと。真か?」


「はい。騒ぎになると困るので今のところは売る気はないのですが。こちらの米酒を調べて似たような物はそのうち少量ならば売るかも知れません」


「そこは難しいとこじゃな」


「伯爵様なら個人的にお譲りしますよ」


 伯爵様はこちらの世界の米酒も好きらしいが日本酒はもっと気に入ったらしく、売るほどあると教えると少し嬉しそうに笑った。


 実際売るのは商業ギルドという一種の既得権団体やら貴族などが絡み目立つと大変そうだから、お金には困ってない以上は様子を見ながらになるんだろうけど。



「ねえ? どういう意味かしら? 貴女達も東方から来たの?」


「いえ、実は私達はこことは違う世界。遥か異邦より来たんですよ。多分ここを建てたタクヤ様とおっしゃる方と同じ世界から」


 ただここでオレと伯爵様の会話と米酒に疑問を抱いたクリスティーナ様がエルにその疑問をぶつけたので、エルは率直に自分達の素性を明かしたけどそれには流石にクリスティーナ様とメアリーさんが言葉を失うほどビックリしてる。



「そそそれって……」


「確証はありませんが私達は神の使徒ではないと思います。御会いしたこともありませんし」


「クリスティーナ。メアリーもこの事は他言無用じゃ。よいな」


「はい」


「畏まりました」


「二人は知らんじゃろうが異邦から来た人は王国でも他に何人か確認しておる。ある者は貴族となりある者は商人となり、またある者は冒険者として名を残しておるのじゃ。必ずしも何かしらの使命もなくひっそりと生きた者はもっと居よう」


 伯爵様もそうだったけど異邦から来た者はこの国では神の使徒になるようでクリスティーナ様が慌てて姿勢を正してオレ達に緊張した表情を見せたけど、オレ達は神の使徒じゃないとおもうんだよね。


 何の任務も言われてないしチートみたいな力も貰ってないし。


 伯爵様はその言葉をすぐに信じたけど異邦から来た人間は意外に存在するのを知っていたからすぐに信じたのか。


「異邦から来たなんていうと格好いいけど、言い換えれば迷子みたいなものなのさ。帰る気はないけど」


「迷子ですか?」


「私達はちょっと特殊なんだけどある日突然この世界に飛ばされてきたんだよ。多分タクヤ様って人も同じじゃないかね?」


 少し緊張気味のクリスティーナ様とメアリーさんに日本酒をクイッと飲んだジュリアはそんな格好いいものではなく、ただの迷子だと割と的確な事実を教えて二人の緊張を解こうとしてる。


 堅苦しいのとか好きじゃないからねジュリアも。


「では何故旅を?」


「見知らぬ世界に来たんだ。旅をして世界を見たいだけさ。正直生きていくには困らないからね私達は」


「じゃあ邪神が復活とかしないの?」


「さあ? 私達はこの世界のこと知らないから」


 ジュリアの話に二人はにわかには信じられない部分もあるようだが、いい意味でいい加減なジュリアの態度と話に伝説なんてこんなものなのかと少しずつ理解しはじめたみたい。


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