第67話・伯爵さまと温泉

「どうじゃ? 温泉は」


「凄いですね。これほど気持ちいいとは思いませんでした」


 女性陣と入れ違いで温泉に入るとそこには伯爵様が一人で温泉に浸かっていた。


 宿は木造なのに温泉は石造りで源泉かけ流しのようだ。


 しかもこちらに来て一番大きくて透明な窓があり窓からは少し赤茶けた山が見事に見える。


 伯爵様の身体は貴族とは思えぬほど古傷があちこちにあり年の割に若々しい。


 温泉は無色透明だが微かに香る硫黄の匂いが記憶の片隅にある幼い頃に両親と行った温泉旅館を思い出させる。



「タクヤ様はな。王家に伝わる話では何処か遠い異邦から神に導かれて来たと言われておる。真相は定かではないがな。しかし歴史を紐解けば似たような噺が幾つかあっての」


 少し熱めの温泉に浸かると久々の湯船の気持ちよさに何をする訳でもなく景色を眺めていたが、伯爵様が突如独り言のようにタクヤという人の話を始めた。


 オレは伯爵様の顔を見てはいない。


 きっと伯爵様もこちらは見てないだろう。


 しかし何か確信めいたモノがあるように思える。



「我が国には遺言が遺されておる。いつか自分と同じ同胞が来たならばそっと見守り助けになってやって欲しいとな。決して私利私欲で利用しようなどとは思うなとな。残念ながら今では知らぬ者も増えたがの」


 いつ何処の段階かは知らないが気付かれたようだ。


 オレ達が異なる異邦から来たことを。


「あとで米酒飲みませんか? ジュリアが好きで持ってきてるんですよ」


「ふむ。それはいいの。風呂上がりに冷えた米酒がたまらんでのう」


 これは恐らく今のままでは他の誰かにも気付かれるぞという伯爵様からの忠告だろう。


 だが気付かれるならば気付かれてもいいのではと少し思い始めている。


 この銀河に来たのは僅か一月ほど前だが正直オレ自身変わったと自分でも思う。


 過去の経験から人との関わりを避けて厄介事を避けよう避けようとばかり考えて生きるのに疲れたのかもしれないし、その必要がないと思えるようになったのかもしれない。


 オレは一人じゃない。


 この旅でそれを学んだ結果なのかもしれないけどね。


「伯爵様。神は本当に実在するのでしょうか?」


「世の中には神の神託を聞ける神託の巫女がいての。かつて邪神が蘇った時に神託の巫女が勇者を導いたとの伝説がある。まあ世の中の神託の巫女も本物は一握りであとは偽者だとも言うがな。ワシも流石に神の声は聞いたことがないの」


 あまり取り繕う必要もなくなったのでオレはこの惑星で最大の疑問をぶつけるが、流石に確実な情報は無いか。


「ワシからも一つよいかの?」


「はい」


「ジュリア殿の剣は聖剣か? もし君達が何かしらの使命があるならば……」


「聖剣ではありませんよ。オレ達の武器はレーザーという魔法ではない科学という知識を積み重ねて造った武器です。大砲を発展させた先にある兵器の応用で造られた剣なんですよ。幸か不幸か神託も使命も受けてません」


「そうか。ならば良いのだ」


 オレが隠す気がなくなったのを理解した伯爵様は恐らく一番気になっていたことを聞いてきた。


 やはり勇者なんかと疑われていたみたいだね。


 伯爵様ならば世界の危機とあらば自ら戦わねばならないと思っていたのかもしれない。


 

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