第60話・襲撃再び
「オーガが来たぞ!」
ベッドに入ると疲れていたのかすぐに眠りに落ちたが目覚めは最悪の知らせだった。
誰かも分からぬ村人が大声で知らせに走っているようで、今何時かも分からぬがとりあえず起きて一階に降りていくと休んでいた者達が続々と起き出してくる。
「何があったんです!?」
「旅の商人がオーガ二体を含む魔物の群れに襲われて護衛の一人が助けを求めに来たんだ! このままだと村まで来るぞ!」
伯爵様もエル達も居なくオレは近くにいた兵士に事情を聞くもそれは悪夢としか思えない状況だった。
せっかく奇襲を受ける危険性が減ったのに旅の商人が襲われて敵性生命体を引き連れて逃げて来てるなんて。
「よいか! 直に討伐隊が来る! それまで耐えるのだ! ワシは少しばかり数を減らして来よう!」
村の入り口では伯爵様がすでに集まった人達に檄を飛ばしているが変だ。
せっかく防衛陣を敷いたのに村から迎撃に出るなんて。
「司令。敵はオーガ二体にオーク・ゴブリン・コボルトその他動物型の敵性生命体が百八十八体。このままでは村が持ちません」
理由はすぐに分かった。
遠くに見える敵性生命体、魔物の群れが見えたのだから。
「司令。本気で行くよ」
伯爵様はちらりと不安そうな村人とその中に居るクリスティーナ様を見てあの中に騎士とたった二人だけで向かっていく。
命を捨てる? いやそんな後ろ向きな覚悟じゃない。
何がなんでも村を、自身の孫娘を守るという前を向いた覚悟にオレには見えた。
「そうだな。やるか」
伯爵様はジュリアに来るなと言ったのだろう。
ジュリアの表情がらしくないほど穏やかになっている。
エルとケティもすでにやる気だ。
この場で力を見せることはいいことも悪いこともこの先のオレ達に降りかかるだろうが、見捨てて後悔するよりはマシだろう。
「お前ら!」
「大丈夫だよ。アタシ達に任せな!」
ジュリアが伯爵様の後を追うように防衛陣地を越えるとエルとケティとオレも続いた。
防衛陣地の指揮を任された兵士はオレ達の行動に驚いたようだがジュリアの一言でそれ以上何かを語ることはなかった。
彼も死にたくはないし伯爵様を殺させたくもないのだろう。
「司令。私達は伯爵様の元へ」
ジュリアは走り出した。
そのスピードに後ろの村人から驚きの声が上がる程のスピードで。
オーガの力は昨夜見たが戦闘型のジュリアに足手まといは不要だ。
ジュリアはそのまま伯爵様達をもあっさりと抜き去ると、レーザーを纏わせたバスタードソードで魔物の群れに真正面から突っ込む。
伯爵様の槍が雷撃を纏ったようにレーザーを纏わせたバスタードソードが、ファンタジーの聖剣のように見えるのはオレだけではないのかもしれない。
「何故来たのだ!!」
「オーガと中央のやつはジュリアが倒します。あとはここで魔物を食い止めればいいだけです」
ジュリアが敵の先頭に激突する時、オレ達は伯爵様達に追い付いたが初めて見るほどの怒りで怒鳴られてしまう。
それは盗賊達に見せた怒りではないだろう。
本気でオレ達を案じた故の怒りであり、オレ自身これほど怒鳴られたのはいつ以来だろうかと考えてしまった。
ただジュリアといえど、剣一本ではあの数を全て村の前で食い止めることは難しい。
オレ達と伯爵様達五人で食い止めねばならない。
「クッ!!」
悔しそうに睨む伯爵様だが、すでにジュリアは魔物の群れにレーザー纏わせたバスタードソードで一払いして、何体かの魔物を切り裂いている。
伯爵様にはここで魔物を食い止めるしか出来ることがない、自分の無力さが悔しいのかもしれない。
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