第59話・村の防衛戦の夜明け
「やれやれ。なんとか死者を出さずに済んだわい」
被害は少なくなかった。
畑は幾らか荒らされたし、兵士に重軽傷者が何人も出たが。ケティが作っていた回復薬とナノマシン治療で、多少の休息は必要だが後遺症もないだろうとのことだ。
盗賊達は半数が死に半数は生きていて、こちらもケティが治療していたが目的は助けることではない。確認されているもう一体のオーガが来たら再度おとり兼エサにするためだった。
決してまだ楽観視出来る状況ではないが、一体を倒したことで希望が高まったことは事実で村人の表情は明るい。
伯爵様はゴブリンにオークにオーガの死体は村人に渡していて、その素材で少しでも盗賊達に盗まれた作物や、オーガ達に荒らされた畑の補填をするようにと配慮したようだ。
いずれも食用にはならないようだが。特にオーガは骨や皮は高値で売れるらしく、村人の表情が明るいのはそのせいもあるのだろう。
「すまぬが報酬は王都に着いてからでよいか?」
「私達も当事者ですし報酬は不要です」
「そうもいかん。兵達にも戻り次第、多少だが臨時の報酬は出すのでな」
そしてオレ達の分の報酬に関しては特に要求するつもりもなかったのだが、伯爵様の配慮で王都に着いてからということになった。
巻き込まれたとはいえ、オレ達も当事者であることに代わりはないので、別に必要ない気もするんだけどね。
伯爵様の立場もあるのだろうし、一度辞退した後は伯爵様の言葉に従う。
「朝を迎えることが出来たか」
その後オーガの来襲以降は、村を襲う存在はなく朝を迎えていた。
人は闇夜を恐れ目に見えぬ故に恐怖する生き物だ。
村人達も兵士達も、この夜明けをどれ程待ち望んでいたかは想像に難しくない。
何より昼間ならば村の周りは見晴らしがいいので、大きなオーガに奇襲を受けることがないというのが大きいだろう。
一度目の襲撃で負傷した者は休んでいるし、兵士達や村人達も半数は休んでいたが。夜明けで視界が開けたことで見張りの人員を残して更に休むことが出来る。
「皆様、朝食ですわ」
そして夜が明けると村長さんの家に避難していた女達が朝食を作って運んできてくれたが、少し驚いたのはクリスティーナ様が村の女達に混じり自らそれに参加していたことだ。
「ロボとブランカは元気?」
「ええ。先程ミルクを飲んで眠ってますわ」
見た目は貴族令嬢そのもので、服が汚れぬようにと腕まくりまでしているが。伯爵様はその様子に何も言わぬところを見ると、そういう教育方針なのかもしれない。
ケティなんかは真っ先にロボとブランカのことを聞く辺り、意外に精神的に疲れてるのかもしれないな。
「お祖父様。もう大丈夫ですの?」
「まだじゃな。オーガの目撃情報はもう一体おる」
「そうですか」
「兵達を休ませたいし、出発して途中で襲われては敵わん。もう一晩はここに泊まることになろう」
状況は多少良くなったが、午後にオーガの討伐隊が来るまではやはり気は抜けない。
しかも討伐隊が来ても今日の日暮れまでにオーガを見つけて討伐出来なければ、また一晩オーガに怯えねばならなくなる。
伯爵様としてはオーガの討伐を見届けたいのだろうし、迂闊に村を出発して途中でオーガに襲われたら大変なことになるので、今夜も村に泊まることになるのだろう。
伯爵様自身もしばらく騎士にこの場を任せて休むようで、オレ達も宿屋の部屋で少し休むことになった。
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