第41話・最初の村
「ようこそ。あんたら商人か?」
その後森を抜けると再び敵性生命体に襲われることもなくなりのんびりとした旅路に戻るが、夕方になる前にヴェネーゼから一番近い村にたどり着いた。
村は周囲を広い麦畑に囲まれ、麦畑の周囲と麦畑と村の境の二ヶ所に丸太を組んだ柵があるのどかなヨーロッパの田舎の村といった感じか。
建物は石と木を組んだ建物でここの村はヴェネーゼに麦や野菜を売りつつ、ヴェネーゼとワイマール王国各地を結ぶ街道の最初と最後の村なのでそれなりに人の行き来があり賑わってる村だとヴェネーゼで聞いた記憶がある。
この惑星では一般的に旅は命がけなため町や村があればそこで夜を明かすのが鉄則であり、多少旅路の日数が掛かっても日暮れの前に町や村に入るのが普通とのこと。
ジョニーさんは生体強化されてることもあり常人より早いスピードで移動するのであまり気にせず野宿なんかもしたらしいが、一人旅でしかも野宿なんてするものだから訳ありかなんかだと思われて盗賊や冒険者にまで襲われたらしい。
「商人見習いですね。たいした売れる物はありませんが肉と薬なら少々あります」
村に入る前には当然のように槍と皮の鎧で武装した若い村人に調べられるとまではいかないが怪しい奴じゃないかと少し話を聞かれるが、オレ達は女性が多いこともあり商人か冒険者か迷うようでそこを尋ねられた。
「宿はそこだが、少しガラの悪い奴が何日か前から居るから気を付けな。昼間はいいんだが酒癖が悪いみたいでな。野宿するなら奥の広場使っていいぞ」
「ありがとうございます」
ただ若い村人も役目として聞いてるようで特にオレ達が警戒した様子もなく小声で宿と宿に居る酒癖が悪い客のことを教えてくれてと親切だった。
「どうする?」
「馬車でいいんじゃない?」
「そうですね」
「馬車でいい」
せっかくだから村の宿でもと思ったが時間がまだ早いにも関わらず街道の要所だからか混雑していて、借りられても一部屋のベッドが二つしか無理だと言われ村長さんのところならあるいはと言われたがエル達と話して村の広場を借りて馬車で休むことにする。
村の広場は土が剥き出しのただの空き地にも見えるが井戸もあるし宿からあぶれた行商人や冒険者が火を起こした跡なんかがあちこちにあった。
邪魔にならないようにと広場の隅に着いたオレ達は有機アンドロイドの馬達を馬車から外して休ませてやり、水とエサとなる飼い葉を与えるが飼い葉は村で売っていたのでそれを購入して与えた。
よく見ると火を起こす薪やら食材やら売っていてこの村では意外に野宿する人が多いらしい。
「あの、その馬車どうなってるんです?」
馬車の方もキャンピングカーのように横をせり出させる形で中の居住スペースを二倍程に広げると一気に中が広くなるが、それはここでは珍しいようで一人の若い男性が物珍しげに尋ねてきた。
「床を広げてやることで中で寝るんですよ。あまり重いものは乗せれませんけどね」
「これは凄い! こんな馬車初めて見ました!」
馬車の床がせり出す構造はシンプルでありSFでもなんでもないはずなのだが、恐らく行商人であろう若い男性はその光景に衝撃でも受けたような表情をする。
「貴方これを何処で買ったのですか!?」
「えーと、故郷で作ったんですよ」
「なんと! こんなからくり王都でも見たことありません!」
「そんなに難しくないですよ。床板と土台となる部分を予め作っておいて幌を多めにしておけばいいんですから」
「そんなアイデア話してはいけませんよ! 職人ギルドに申請して新技術と認められれば利益が出るんですから!」
ちょっとしたアイデアや技術とは簡単で日常の中にあるものだとは理解しているが文明が進めばそう簡単にはいかなくオレ自身も気にしてなかったが、この若い男性の様子から見るにもしかすればこのアイデアは商売になるのかもしれない。
しかも人がいいのか若い男性はオレに職人ギルドでの特許のようなものがあると教えてくれた。
興味はあるけどギルドのイメージが悪いんだよね。
とりあえず日本人らしい曖昧な笑顔で誤魔化しておく。
この若い男性がもしこの技術で成功するならそれもまあいいだろうし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます