第42話・村の夜・その一

 商売という訳ではないが村では大量にある猪モドキの肉と皮にケティの作った回復薬と毒消し薬を試しに少し売ってみる。


 先程の若い男性と少し話をして猪モドキは頭に赤い体毛がモヒカンのように生えてる敵性生命体でレッドボアーという魔物だと分かったが、森に生息する敵性生命体の中では美味で王都辺りなら高値で売れるとこれまた貴重な情報を教えてくれる。


 まあ若い男性と言っても二十代半ばくらいの男性で、見た目が十代のおれとケティや二十歳前後のエルやジュリアは駆け出しかようやく駆け出しを卒業した冒険者件商人にでも見えるのだろう。


 よく狩れたと驚かれた程だ。


「薬は冒険者ギルドにもあるんですけどこちらの方が安いですね。では二つずつ下さい」


「手作りなんで多少はね」


 ついでではないのだろうが若い男性はやはり商人のようで薬の品質をじっくり見極めて値段がギルドより少し安いことから購入してくれた。


 ヴェネーゼの町で物の相場はある程度見ていたのでそれほど激安という訳ではなくギルドを通さぬ薬の値段の範囲内で安めにしたが、旅先の薬は場合によっては高値で買わねばならない時もあるようでオレ達の値段は町の値段なのかもしれない。




 村の夜は早かった。


 ヴェネーゼは港町として栄えていたので夜でも酒場や娼館がやっていて町中もマジックアイテムなど明かりが大通りなどにはあったが、村では夕方になると村人は家に戻り早々と夕食の支度をする姿が見られて日が暮れると家の明かり以外は月と星明かりしかない。


 この日広場を今夜使うのはどうやらオレ達くらいらしく先程の若い男性も居なくなると静かな広場の隅での夕食となる。


「ほらミルクよ」


 慣れない環境にも物怖じしないロボとブランカにミルクをあげた後に、午前中から煮込んでいたカレーとレッドボアーの肉をカツにしてほかほかの炊きたてのご飯に乗せるとオレ達の夕食となるレッドボアーのロースカツカレーの完成だ。


「肉が柔らかくて美味いなぁ」


「本当ですね。飼育したい程です」


 レッドボアーの肉はギャラクシー・オブ・プラネットで品種改良した物に負けぬ肉質と味に少し悔しさを感じる程に美味しい。


 生パン粉を使っているのでサクッとした歯応えに柔らかい肉質を考慮して厚めに切ったロースは噛むと肉汁が染みだしてきて、香辛料のスパイシーさと野菜の甘みが煮込まれたカレーにはぴったりだ。


 カレーは何よりもご飯に合う日本らしいカレーで米の甘みと旨味が何よりも合う。


 それにあえて口には出さないが、やはり一人ではなく一緒に食卓を囲む人が居るというのも美味しく感じる一因かもしれない。


 こちらに来てからは一人で食事をすることが無くなったけど前は一人での食事が当たり前だったんだけどね。


「お代わり」


「カツも食うなら揚げるけど食うか?」


「食べる」


 多くは望まない。


 こうしてみんなで食卓を囲めればいいななんて考えながら食べてたけど、小さい体に人一倍食べる食いしん坊ケティは早くも二杯目のお代わりを要求してきた。


 フフフ。ちゃんとケティの食べる量を計算して揚げるだけにしてあるカツも用意しているのだよ。


「アタシはカツとカレーだけちょうだい」


「私はご飯少な目で」


 ケティに続きジュリアとエルもお代わりしたけどジュリアはお酒のつまみにするのだろう。


 キンキンに冷えたビールをグイグイと飲み揚げたての熱々のカツにカレーをつけて頬張っている。


 あまりお代わりしないエルもお代わりしたしレッドボアーのロースカツカレーは大成功だね。


 この肉体とかエル達の有機ボディってそう言えば太るんだろうか?


 ゲーム時代は太らなかったけど。


 まあ大丈夫だよね?


 オレも自分用の二枚目のカツを揚げつつ籠の中のロボとブランカがピクッと動いたのを見てエル達と一緒に笑っていた。


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