第35話・代官動く

 代官の動きは早かった。


 この日のうちに焼け落ちたマーチスの屋敷やノーマン商会と冒険者ギルドには兵士が捜査に入り、海賊達や傭兵にマーチスの屋敷の下働きや使用人からも話を聞きギルド長とマーチスは後日処刑されると夕方には発表があり町の人々を沸かせた。


「変わり身の早さは見習いたいね」


「全くだぜ。マーチスの野郎は代官が動いたことに裏切りだと騒いでるらしいが、元々あの代官だと金貰っても貰わなくても町の商会の利権争いなんぞに首を突っ込む気が無かったのかもしれん。見てみぬふり以上の肩入れをした様子もねえし結果的に一番得をしたんじゃねえか? 貴族ってやつは怖いね」


 オレを含めた町の人々は代官の変わり身の早さに驚き呆れていたし批難もだいぶ集まっているようだが、金を持ってくるので受け取ったが何もしてないと言われるとその通りであり断罪するのは誰が考えても無理だった。


 それに代官が町の運営に口を出すのを嫌うのもまた町の人々の本音にはあり、基本的には自分達に任せて欲しいが、マーチスのようなやり過ぎた奴だけは処罰して欲しいという少し身勝手な部分も特に町を運営するボルトン達商会のメンバーにはあるので、あまり強く言えないというジレンマもあるらしい。


 圧政を敷いたりとんちんかんなことをやり始めたりされるよりは無関心が一番嬉しい町の人々からすると、今回の一件は少し複雑なものもあるのだろう。


 エルの調査では代官は任期を無事に終えて王都に戻れればそれでいいだけの人物であり、毒にも薬にもならない程度の木っ端役人だというしね。


「ギルドの方はどうしたんです?」


「動いてるよ。職員は無事だったしその日暮らしの多い冒険者を何日も止めておくとろくなことしねえからな。ただ町の衆は今回の一件でギルドと縁を切るって奴も少なくねえ。どうも海賊もギルド長が裏から手を回してどっかから呼んで来たらしいしな」


 そしてノーマン商会は財産を国に没収されてしまいマーチスは処刑を待つだけの身になったし、今回の一件で冒険者ギルドはその信頼を失墜させたが悲しいことにこの惑星の現状では危険な町の外で狩りや採取をする冒険者ギルドは町から追い出すことも不可能というかボルトンさんですら考えもしてない様子だ。


 オレ達はジョニーさんの話や傭兵であまりいいイメージがない冒険者ギルドだが中には真面目に頑張ってる者も居るようだし、それは今朝の火事の後始末にボランティアで参加した冒険者が居たことからも明らかだった。


 肝心のギルド長だが最早逃げられないと悟ったのかマーチスと仕組んだ悪行の数々を暴露していて、彼もマーチスと共に処刑を待つだけの身だが彼の場合はまだ冒険者ギルド長でもあるので王都の冒険者ギルド本部から調査する人材が来るまでは生かされるらしい。


「ああ、一つだけ。朝方にギルド長の動きに気付いたのはオレが見張らせていたからだってことにしといたぜ。余計なお節介かと思ったが代官に恨まれる可能性もなくはないんでな。これ以上迷惑はかけられねえ」


「いえ、助かります。ありがとうございました」


 更にボルトンさんは今後のことも考えてオレ達がギルド長の暴発を知らせた件を隠してくれてもいた。


 こういう細かな気遣いが彼をこの町の代表的な立場にしたのだろうし、海賊より海賊らしい厳つい見た目と違い少し可笑しくも感じてしまうが。


 しかもどうやって見張ったかなど何も聞かない男気溢れるボルトンさんにはオレにはない強さと優しさが垣間見える気もする。


「明日には死んじまった兵士達の葬儀がある。良かったら参加してくれ。町の衆もあんた達には本当に感謝してるからよ」


 海賊と傭兵からボルトンさん達と囚われて奴隷にされた人々を救ったオレ達と、誘拐からボルトンさんの妻子を守り暴発したギルド長とマーチスを捕らえたジョニーさんは、すっかり町の有名人と化していた。


 特にジョニーさんは町の英雄だと称えられていているが、本人はたいしたことはしてねえとあっさりしている。


 尤もそんな驕らぬジョニーさんが更に町の人々から評価されたのは言うまでもなく、若い女性なんかから娼館の娼婦までも人気で遊びに来てと詰め寄られて困ってもいたが。


 ああオレ達の中で一番注目を集めたというか人気なのはケティで、助けた人やその家族から涙ながらに感謝されたり時には拝まれたりしてケティも戸惑っていた。


 ボルトンさんの屋敷にはお礼をしにくる人が絶えなく中には貧しいながら治療費をとお金を持参した人も居たが、ケティはお礼の品物として持ってきてくれた魚や野菜なんかは受け取りはしたが現金は受け取らなく更に感謝されるというジョニーさん同様に好感度爆上がりで本人が一番困ってるけど。


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