第34話・新しい夜明け

 いつの間にか夜が明けていた。


 闇夜の気配が消えて、朝陽は町に新しい一日の始まりを告げている。


 マーチスの屋敷の炎は未だに僅かだが燻り続けていて、消火が続けられているが延焼だけは阻止できたみたい。


「ケティ様。申し訳ありません。あちらの怪我人を」


「任せて」


 ギルド長とマーチスは、ジョニーさんが一人で担いで捕らえてきたので、兵士達や騒ぎを聞き付けて集まっていた町の人々を驚かせていたね。


 残りの海賊と傭兵も何人かは火事で焼け死んだが、残りは兵士達とオレ達で捕縛出来た。


 人手が足りないのでジョニーさんとジュリアとセレスは、そのまま兵士達と共にギルド長達を牢屋に連行して行き、オレとエルとケティは火事の消火と怪我人の手当てなどで先程まで忙しかった。


 今はもう火事もかなり鎮火に向かっていて、少なくとも延焼の心配が無くなったことで一段落しているけどね。


 重傷者の治療も終わったので、残りの小さな怪我や火傷をケティが治療しているくらいかな。


 まあそれも教会の神父やシスターに冒険者らしき回復魔法の使い手などが、次々に救援に現れたことでかなり負担が減っている。


 オレは初めてこの惑星の回復魔法を見たが、本当に呪文を唱えて淡い光とともに回復させる姿は、神の神秘かと信じたくなるほどだ。


 ケティのナノマシンでの治療はいわゆる無詠唱の回復魔法だと言われると、そうなのだろうと信じてしまうほどあまり違いはない。


 淡い光こそないが人々は涙ながらに感謝してるし、魔法でないなど神父やシスターすら疑う素振りもないね。


「残る問題は代官かな?」


「その心配はないでしょう」


「エル?」


「代官がしたのは、見てみぬふりをしただけのようですから。言い換えれば協力まではした形跡はありません。故に敗者が決まれば、何の迷いもなく処罰すると思われます」


 マーチスに関しては、ジュリアとセレスが助け出した執事やメイド達をケティが治療して事情を聞いたら、彼らは知っていることを洗いざらい話してくれたので兵士が一緒に捕らえていった。


 ただ明確な犯罪を起こしたギルド長ならばともかく、マーチスは代官が助けるかと懸念したけど、エルがそれをキッパリと否定した。


 確かに代官がしたのはマーチスとボルトンさん達の小競り合いを見てみぬふりをして、兵士や町の人が訴えても商人の問題は商人で解決しろと突っぱねただけだ。


 実はヴェネーゼに来てマーチスを追い詰める証拠を集めるように指示した結果、オレ達がパーティをしてる最中にマーチスの屋敷にうちのアンドロイドが忍び込んだみたい。


 そこで代官やギルド長に渡した金の帳簿を発見していて、それなりの証拠として使える可能性もあるんだけど。


 代官は本当に見てみぬふりをしただけなので、断罪するには少し弱かったらしい。


「じゃあ一件落着かな?」


「はい。マーチスの背後に更なる黒幕が居た可能性も否定できませんが、こうなった以上切り捨てて終わりでしょう」


 ギルド長の暴発が結果として、マーチスの運命を決める最後の一手となってしまったな。


 それでもオレ達があの時海賊船に襲われてるボルトンさんを見殺しにしていれば、少なくともギルド長の暴発はなく、町はマーチスの手に落ちていただろう。


「しかし、今回の一件は私達の問題も露見しました。やはりこの惑星の知識や情報が明らかに欠けてます。以後は情報収集活動の改善と強化が必要と思われます」


「どこまで何をするべきか難しいね」


 一方でエルはオレ達の側の欠点も明らかになったことを反省していたが、オレはそれ以上に何をどこまでするべきかについて、現実の難しさを感じずには居られなかった。


 困ってる人にほんの少し手を差し伸べるのは構わないが、オレ達には出来ることが多すぎることが、逆に判断を難しくしている。


 この惑星の文明に悪戯に影響を与えていいのかも分からないし、オレはジョニーさんほど思いっきりがいい決断は、なかなか出来そうにない。


「まあいいか。今は救えたことを素直に喜ぼう」


「……はい。それがいいかもしれません」


 そんな時、ギルド長達を連行していたジョニーさん達が戻ってきた。


 マーチスの屋敷の周辺に居た人々は、ジョニーさんを町の英雄だと称え感謝してる姿が見える。


 失敗を悔いることや考えることは必要だけど、町の人達に喜ばれるジョニーさんを見てると、今は救えたことを素直に喜びたいと思う。


 そして少し照れた様子で人々の声援に笑顔を見せるジョニーさんの姿に、エルとオレはついつい笑ってしまっていた。




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