第36話・街の散策

 翌日オレ達は亡くなった兵士と副ギルド長の葬儀に加えて海賊騒ぎで亡くなった人達の慰霊祭に参列した。


  町に平和は戻ったが亡くなった人は帰ってくることもなく涙に暮れる人達は多い。


 副ギルド長に関しては故郷も別にあるので遺体はそちらに運ぶらしいが町の恩人として葬儀をすることにしたらしい。


 ボルトンさんでさえ知らなかったが彼はギルド長のお目付け役として本部から来た人材で、密かにマーチスとギルド長の企みを調べ告発する機会を伺っていたようだった。


  結果的に町を救った一人になったことで信頼の失墜したギルドにおいて彼の存在は大きく職員や冒険者達が悲しんでいたのは印象深い。





「へ~、美味しそうですね。一袋ください」


「ありがとよ。あんた達には世話になったし、おまけしといたぜ」


「ありがとうございます」


 そして慰霊祭の帰りにはエルとジュリアとケティと一緒に町の港近くにある露天市を見に来ていた。


 一昨日に町に来てから昨日もマーチスの屋敷の騒ぎでゆっくり出来なかっただけに、今日ようやく異世界の惑星の文明の町を散歩がてら見に来ていたが意外に豊富な物が揃っていて見てるだけでも楽しい。


 多いのは魚介類だが香辛料に野菜や肉に穀物の他、ドライフルーツなんかもありつい一袋買ってみんなで食べてみる。


 流石に要塞シルバーンで作っている果物に比べると甘味が足りないが自然の素朴な味は美味しく、異国情緒漂う町並みを見ながらつまむにはちょうどいい物だろう。


「こういう町だと魚醤とか作れば面白い気もするな。サンプルと作り方をボルトンさんに教えてみようか?」


「それはいいですね」


 ただ日本人としてはやはり醤油がないのは少し寂しいがヴェネーゼには大豆は見た感じなく、魚が豊富なようなので魚醤とかが合う気がする。


 少し癖のある調味料だけど魚の種類とか作り方で味が変わるし町の名産品にでもなればいいと思う。


 もしかすると米や大豆でも植えるのを勧めてもいいかとも考えたけど、農業は気候風土で変わるし定着するまで苦労も多い。


 元々漁業と貿易の町なので魚醤くらいが町に合う気がするんだよね。


「いくら?」


「これはケティ様。お金など頂けません。どうぞお持ちください」


「ダメ。いくら?」


「では一山銅貨5枚で」


 オレ以外のみんなも露天市でいろいろ見てるけどケティは回復薬の素材となる薬草などを見付けては購入してる。


 ちょっとした稼ぎにでもなればとケティは拠点の島で作った回復薬なんかを幾つか持ってきたけど結局海賊のアジト襲撃で使っちゃったし、今後のことを考えて気軽に使えたりあげたり出来るこの惑星の回復薬を作るつもりらしい。


 ただまあ回復薬の素材をケティが買うとなるとみんなタダでと言うもののケティがタダなら要らないと突っぱねて、最終的に半額程度で購入するというやり取りを何度か繰り返してるけど。


 回復薬もこの惑星では安くはないし、まして無料で治療をしまくったケティはもう少しで聖女とでも呼ばれそうな勢いだ。


「なかなか種類がありますね」


「ええ。あちこちから来た商人なんかが持ってきた本なんで中には私に読めないものもあるんですけどね」


 エルの方は露天ではなく店舗を構えている本屋に興味を抱き入っていた。


 あまり広い店ではないが店内は本で埋め尽くされていて子供に読み聞かせする物語から貴族や冒険者の自伝に魔法関連の本までいろいろあるが、活版印刷という技術がないのか本はみな手書きであり一点物になる。


 少し話が逸れるがジョニーさんを含めたオレ達がこの惑星の人達と会話してるのは何故か翻訳機を通さぬ状態で最初から普通に会話が出来ている。


 調査研究部ではこの件についても調べているが、文字は解読しなくては読めないが言語を話す分には何故か理解して話せていた。


 原因はオレ達に宿った未知の力が関係すると思われるがやはり詳しくは不明で、もしかしたら本当に神の力による知恵を授けられたのではとすら思えてくる。


 まあ翻訳機も一応持ってるから万が一言葉が突然通じなくなっても困らないんだけどね。


 文字に関しては一応この大陸の共通文字は睡眠学習で旅に出る前に習得したのであまり難しくない内容ならオレにも読める。


 本は嫌いじゃないし少し高いけど何冊か買ってみようかね。


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