第33話・炎の中の黒幕たち
「悪いがギルド長とマーチスはお前達に任せる。俺達は逃げ遅れたやつを避難させる。 それとギルド長の奴は、火の魔法が得意の元A級冒険者だから気を付けろよ!」
「おう。任せとけ」
「いいか! お前ら無理に捕らえなくてもいい! 生きてるやつを助けるぞ!」
室内はすでに火の手があちこちから上がっていて、消火が間に合いそうもなかった。
ボルトンはジュリア達にギルド長の対処を任せると、自分達は屋敷に残る下働きの人達の救助を優先させるべく、部下達と下働きの人達の部屋があると思わしき裏に向かう。
そんなボルトン達と分かれたジュリア・セレス・ジョニーの三人は、ジュリアとセレスのセンサーにより二階に人が二人居るのを察知してそちらに急ぐ。
アンドロイドであるジュリアとセレスは元より、生体強化された上にパイロットスーツを着ているジョニーには、この程度の炎は関係ない。
とはいえギルド長とマーチスは生かして捕らえたいので、一刻の猶予もない。
「貴様のせいでワシは! ワシは!」
「煩い! 役立たずばかり使う無能者が! あんな女どもにやられる程度の役立たずを、貴様が使ったせいではないか!」
「貴様が責任を持つと言ったのだろう!」
「部下も抑えられん貴様の尻拭いまでする訳があるか!」
しかし三人が見たものは、成金趣味の豪華な寝室の中で火に囲まれながら醜い言い争いをするマーチスとギルド長だった。
「フン! こうなれば貴様をこの町ごと始末して、私は帝国に行く!」
「ぐぬぬぬ。誰か! 居ないのか!」
ギルド長は自身の身長程もありそうな長い杖をマーチスに向けていて、今にも殺す寸前だった。
ぶくぶくと醜く肥えた豚のようなマーチスには為す術がない。
「居るぜ。ここに」
「おお! 誰でもいい! こいつを! この無礼者をなんとかしろ! 金なら幾らでも出す!!」
さてどうしようかとジュリアとセレスは顔を見合せて一瞬考えるが、考える間もなくドアを蹴り飛ばして部屋に乱入したのは悪どい笑顔にも見えるジョニーだった。
「誰だ! 貴様!」
「クズに名乗るような名はねえよ」
「小癪な! 死ね! 盟約に従い我に力を貸せ! 我は……」
まるでマーチスを助けに来たような態度を取るジョニーに、流石のジュリアも呆れ顔だ。
二人はもうここはジョニーに任せようと、近くで倒れていた瀕死のメイドや執事を運び一足先に脱出していく。
「馬鹿な……ワシは元A級……冒険者の……」
「魔法なんざ使わせねえよ」
一方のジョニーは呪文の詠唱を始めたギルド長をなんと剣を抜くことなく、ただ拳でぶん殴って彼が使っていた杖をへし折り倒していた。
それはこの世界ではあまりに非常識なことであるが、ギルド長と同じA級いやB級クラスでも、やろうとすれば出来るだろう。
元々後衛職の魔法使いであるギルド長が、至近距離で人に接近された時点で不利だったのだ。
尤もギルド長は対接近戦用の魔法も使えて、ジョニーが剣を抜く瞬間にカウンターを狙っていたが。
元々ギルド長を捕らえねばならないジョニーは剣を抜く気などなく、ギルド長は予期せぬ攻撃に何も出来ず敗北する。
「さてと。あとはあんただけだな」
「おお! 凄いぞ! 幾ら欲しい!」
「まだわかんねえのか? 悪いが女子供を誘拐するクズに付く気はねえよ」
そしてジョニーは気を失ったギルド長を肩に担ぐように抱えると残るマーチスに視線を向ける。
マーチスはその瞬間助かったと思ったのだろう。
満面の笑みで喜びジョニーに報酬の話をするが、意地悪い笑みを全開にしたジョニーは、自身がマーチスの味方でないことをあっさりと告げた。
「なっ……そんな……」
「さて、任務完了だな」
絶望的な状況から助かったと思わせておいての再びの絶望に、マーチスは口から泡を吹き崩れ落ちるように座り込む。
ジョニーは足で蹴飛ばすように気絶させて、もう片方の肩に担ぐと火の中を足早に脱出していった。
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