第32話・急転直下の結末
「司令。緊急です。起きてください」
「……エル。何があった?」
「冒険者ギルドのギルド長が、捕らわれていた傭兵や海賊を連れ出してマーチスの屋敷に向かってます!」
たくさん食べて飲んでと、夜更けまで騒いでいたボルトンさん達に付き合いオレ達が寝たのは真夜中だったはずだが、すぐにオレはエルに起こされるがその内容に愕然とする。
この日は人が多いのでオレ達も少し部屋を空けようと、ジョニーさんも一緒の部屋でソファーで雑魚寝していたんだけど。
オレに続き起こされたジョニーさんも、正直何が起きたのか分からない様子だ。
「何が起きた?」
「ギルド内の内紛です。ギルド長が私的に殺害依頼を所属する人員に強制したことを、本部に報告した副ギルド長が殺されました。ギルド長はその足で牢を守る兵士を殺して、牢から海賊と傭兵を連れ出して報復にマーチスの屋敷に向かってます」
「クズが潰し合うなら構わねえが……、それだけじゃ済まねえよな」
我慢比べしかないと考えたオレ達だが、最初に音を上げたのはギルド長だったか。
「さてどうしようか? 代官と兵士は?」
「傷を負いながら生き残った兵士が人を集めてますが、ギルド長と海賊達は三十八名ほどです。しかも飲まず食わずで弱ってはいますが、海賊と手練れの傭兵では兵士の手に負えません。代官は兵士も信用してないようで、知らせすら届いてなく寝ています」
状況は良くない。
やけになったギルド長と捕まれば死しかない飢えた海賊や傭兵は何をするか分からないし、報復したらそのまま町を出ていくとは思えない。
「ボルトンを起こすしかないね。人を集めさせてアタシ達も加わって、もう一回捕らえるしかないんじゃない?」
「ジュリア。流石にオレ達がそんな情報を知ってるのは不自然だぞ?」
「あの旦那ならそれでも信じるだろ」
「司令。一刻の猶予もありません。ジュリアとジョニーさんの案しかありません」
選択は幾つかあるが、放置すれば恐らく報復後に町が襲われるのは明らかだ。
ジュリアとジョニーさんがボルトンさんを起こして動くしかないと考えると、エルとセレスもその意見に賛成した。
「よし行こう」
確かにここでオレ達だけで動くのは、不自然以上の疑念を生む。
オレ達は意見が一致したことで、すぐに支度をしてボルトンさんの寝室に向かう。
「ボルトン起きろ! ギルド長が暴発したぞ!」
「何だって!?」
「捕まっている海賊と傭兵を連れ出して、マーチスの屋敷に向かってます」
「クッ。あの馬鹿が。悪いがうちの連中を起こしてくれ! すぐに向かう。町に火でも放たれると大惨事だ!」
ジュリアがボルトンさんの寝室のドアを叩き単刀直入に現状を伝えると、ボルトンさんはすぐに起きてきて、オレ達の話を疑うことなく信じてくれた。
最早一刻の猶予もならないと、もうすぐ夜明けの屋敷は騒がしくなる。
みんな叩き起こされてオレ達とボルトンさん達は、ノーマン商会に向かう。
「ボルトンさん! 大変だ! ギルド長が!」
「分かってる。オレ達も手伝う!」
途中二十人ばかりの兵士の集団と会うと、オレ達は総勢六十人ほどに膨れ上がり、一路ノーマン商会のトップであるマーチスの屋敷に急ぐ。
「火だ!」
「火事だ!」
「火を消せ! それと周りの家の者を起こして避難させろ!」
オレ達がマーチスの屋敷にたどり着いた頃には、すでに屋敷からは火の手が上がっていて、屋敷の入り口では警備の人間が殺されて息絶えていた。
ボルトンさんは兵士と協力して避難と火の消化をしようとしているが、魔法を使っているのだろう火の回りが早い。
「ジュリア。セレス。ジョニーさん。ギルド長だけは生かして捕らえて下さい」
「あいよ」
「任せろ」
ボルトンさんを始め腕っぷしに自信のあるメンバーがマーチスの屋敷に踏み込むと、エルはギルド長を確保するよう指示を出して連れてきたロボット兵に消火を始めさせる。
火の手はすでに周囲から見えていて、幸いなのはマーチスの屋敷が庭が広くすぐに延焼しないことだろう。
「来たぞ!」
屋敷の出入り口は表と裏の二つでオレとエルは表口に、ケティはロボット兵と裏口で海賊と傭兵を逃がさぬようにと、ボルトンさんの部下や兵士達と一緒に待ち受ける。
するとすぐに興奮したり慌てた様子の海賊と傭兵が、屋敷の中から逃げてくる。
「司令!?」
「射撃だけは得意だからね。目の前に味方が居ないし、オレもこのくらいしないと」
一人また一人と門を越えて逃げようとする海賊と傭兵を、エルは門で待ち受けてレーザー仕様のナイフで倒そうとしていたが。
オレは護身用に持ってきた唯一の武器のレーザーガンで、足や肩を撃ち抜き無力化していく。
見てるだけってのもなんだからね。
流石にエルには驚かれたが、兵士達はオレの武器を魔法の杖かなんかだと思ったようで歓声を上げると、エルもまた護身用のレーザーガンに切り替えて迫りくる海賊と傭兵を無力化していった。
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