第29話・ジョニーおにぎりを食べる

 ジョニーさんは裏表もなく、損得もあまり考えないタチなんだろう。


 こちらに来てからの話をありのままに語ってくれるが、本当に昔のラノベの主人公のようなことをしていた。


「たいして価値のある情報じゃねえと思うが、良かったのかい?」


「構いません。大変貴重な情報です。シューティングスター号はすぐに回収して、数日以内にお渡し出来るようにします。あと食料及び燃料も今後は必要な分だけ安価で提供します」


 細かい判断はエルに任せたが、エルは情報の対価として戦闘機の修理ばかりか、今後の補給までも約束している。


 これ多分本音はその場のノリでいろいろやらかしそうな、ジョニーさんの首に鈴を付けたいんだろうね。


 悪い人ではないけど、何かやらかしそうだし。


「おにぎり作ってきた」


「おっ!!!!! 飯だ! 飯だあああ!!」


 ジョニーさんはエルの提案を素直に喜んでいた。


 しかし白いご飯が食べたいとぼやく彼の為に、ケティが船に戻りおにぎりを二十個ほど作ってくると、興奮した様子で騒ぎだして涙ながらに慌てて食べ始めた。


「味噌汁もある」


「うめえ。うめえよ。ありがとよ。この恩は必ず返すからよ!」


 両手におにぎりを持ち口に詰め込むように食べて、涙ながらに感謝されちゃったよ。


 流石におにぎりと味噌汁の恩と言われても、どうしていいか分からない。


 ケティなんて珍獣でも見るかのように物珍しげに見ている。




「いや~。食った食った。やっと落ち着いたな。それで奴さんのこと、どうする気なんだ?」


「現在ノーマン商会及びマーチスの情報収集をしてますが、状況は芳しくありません。ヴェネーゼの代官と冒険者ギルドのマスターはノーマン商会に買収されてますが、彼らを捕らえるだけの証拠は未だありません。また証拠を押さえても代官が働かぬ以上は、それ以上の地位の者に動いてもらわねばなりませんが、ノーマン商会は貴族の一部とも繋がるようで簡単ではないでしょう」


 この人二十個ものおにぎり、一人でペロリと食べちゃったよ。


 しかも本当に米で釣れちゃったみたいで、食ったら働くかと言わんばかりに自分で止めた話を進めたし。


「もう強行策でいいんじゃねえのか? このメンツなら奴さん一人始末するの簡単だろ。下手に筋通して犠牲を増やしたら、元も子もねえと思うが」


「私達は問題ありません。しかしボルトンさん達はここで生きていくのです。今マーチスが死ねば、証拠がなくても確実にボルトンさん達が疑われます。マーチスの背後に黒幕が居るかはっきりしない以上は、迂闊に動けばボルトンさん達に迷惑がかかります」


 ジョニーさんはマーチスを始末すればいいとあっさり口にしたが、エルがそれを否定する。


 気持ちは理解するし、人の命も財産も奪うクズに情けをかける気はオレにもないんだけどね。


 ただ、ボルトンさん達のことを考えると迂闊なことは出来ないだろう。


 オレ達は必死に情報を集めてはいるが、まだこの惑星に来て日が浅いだけに情報収集も簡単ではない。


「現状では相手の策を一つ一つ潰していくしかないでしょう。被害が大きくなればなるほど、相手は苛立ち買収された者達との不和も誘えますから。今回の海賊の一件では町の人の怒りが向いてますし、冒険者ギルドでは四十名もの腕利きを失いますから、必ず綻びは出てきます」


 結局受け身に回らざるを得ないとエルは判断したらしい。


 傭兵に関しては虫型の超小型偵察機の情報による最新情報による盗聴で判明したけど、どうやら冒険者ギルドのギルド長が個人的に冒険者ギルドに所属する人間にボルトンさん殺害を依頼したらしい。


 傭兵達はそれを暴露してギルド長に助けを求めてるけど、ギルド長は知らないと突っぱねてると。


 海賊は基本的に死刑らしく、代官は海賊はもちろん傭兵達も海賊の一味として全員明日には処刑されるようだ。


 マーチスも代官もギルド長も、捕まった連中のことを切り捨てたのだろう。


「それにしても冒険者ギルドって、ゲームと違ってマフィアみたいだな」


「国や町によっても違うらしいが、一言で言えば金で動く便利屋だからな。それにそもそもこの世界じゃ、下手な倫理なんて通用しねえからな」


 ゲームやラノベでもギルドの存在は疑問があったが、ジョニーさんの話からもこの惑星のギルドはろくな人が居ない気がする。


 本当ブラックな派遣会社かマフィアかヤクザか。


 法が曖昧な世界なんで、最低限の倫理しかなくやったもん勝ちなんだろう。


 元々仕事を斡旋して貰うだけなのに、妙にしがらみが多いギルドなんか入る気はなかったけどね。



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