第24話・夜明けの後始末

 翌朝の夜明けと共にオレ達の船とボルトンさんの船は、海賊達のアジトだった場所に来ていた。


 大砲や手榴弾で破壊された元漁村は、元々荒れていたのが更に荒れた戦場跡そのものだな。


  死体となった海賊や傭兵達は、一部バラバラにされた者以外は一ヶ所に集めらて山積みにされていて、この世界ではゾンビなどになるらしいので後で焼くらしい。


 血やバラバラにされた肉片があちこちに散らばる姿に、オレはここがゲームではないと再認識させられる。


 正直事前に偵察機の映像などで見てなかったら吐いただろう。


「巻き込んで悪かったな」


 ケティは人質に体調が思わしくない者が居るとのことで、回復薬などを持ち治療に向かった。


 オレは海賊と傭兵達の生き残りに尋問していたボルトンさんの下に行くが、流石に少し堪えたようで開口一番に謝罪された。


「いえ、明日は我が身ですから」


「事情を話そう。来てくれ」


 グロい光景に少し気持ち悪さはあるが、後悔はしてない。


 ボルトンさんも流石にここまで巻き込んだ以上は、事情を話してくれるようだ。


 元漁村で一番立派な元村長宅らしき建物に入ると、オレとエルに事情を話し始める。


「事のきっかけは二年ほど前だ。ヴェネーゼはワイマール王国唯一の王領の港町でな。代官は居るが、ほとんどは商人達で仕切ってる町だ。その中でも大手のノーマン商会の先代が、亡くなったのが始まりだ。どっからか叔父を名乗るマーチスって奴が来て継いだんだが、こいつが厄介な奴でな。先代の頃の人間を排除して、同じように得体の知れない連中を連れ込んで、商会をやり始めたんだ」


 やはり今回の海賊に襲われたのは仕組まれたことらしく、ボルトンさんは罠だと知りながら海賊退治に海に出たらしい。


 マーチスという得体の知れない奴がノーマン商会を動かし始めると、金と暴力で他の商会や町の人間を支配下に置き始めたらしく。


 本来ならばそこで動くべき代官は、金で懐柔されて見てみぬふりをするのが続いたんだと。


 流石にやりすぎだとボルトンさんは仲間達と立ち上がり対抗して来たが。


 そこに現れた海賊騒ぎにボルトンさんは仲間達の船ばかりがやられたことで、マーチスの裏工作だと知りながら海に出たんだからケティが単純と言ったとおりだった訳だ。


「早いとこ戻らんと、マーチスの奴が何するか分からん。後始末をしたら昼には出航したいが構わんか?」


「そうですね。早い方がいいと思います」


 話を聞いてみたらよくある話だったが、ボルトンさんは人望もあるようだし悪い人ではない。


 しかし正直このままでは、マーチスという奴に負けるような気がしてならない。




「エル。どう思う?」


「状況はよくありませんね。懐柔したのは代官だけではないでしょう。早急にノーマン商会を調べます」


 捕らわれ奴隷にされていた人達は五十六人とかなりの数だが、殺された人はその三倍は居るらしく、捕まった船は現在二隻ある。


 奴隷はもう少ししたら他国の奴隷商人に売る手筈が着いていたようで、恐らくノーマン商会が一枚噛んでいるのだろう。


 そして何より問題なのはマーチスが、かなり金をばら蒔いて根回ししてることだ。


 ヴェネーゼにはすでにアンドロイドを一体派遣して情報収集をさせているが、足りないかもしれないとエルはすぐに船に戻り追加の調査をするよう指示を出しに行った。


 もしかするとこの件は思ったより根が深いのかも知れない。


「あの連中も連れていくんだな」


「ヴェネーゼに連れていって処罰するんだってさ。思ってたより金目の物がなかったしね。アタシ達への報酬を確保する為にも連れていくんだろ。ボルトンは被害者にも一時金くらいは払いたいって、ぼやいてたしね」


 その後海賊や傭兵の死体を燃やしある程度燃えるまで待って、五隻に増えた船で一路ヴェネーゼを目指すことになる。


 うちの船には乗せなかったが他の四隻には生き残った海賊と傭兵を乗せたので、少しピリピリした空気での出発になってた。


 人質にされていた者達はあまり食べ物を与えられてなかったようで、ケティが回復薬とナノマシンで治療していて、更に海賊達のアジトにあった食材で食事をさせてる。


 海賊が捕らえていた二隻を彼らに運航させての船出だ。


 ただ同僚が殺された者も多く、彼らは海賊達に憎しみと殺意を向けていた。


 ボルトンさんが町に戻りみんなの前で処罰しようと言わねば、生き残った海賊達は殺されていただろう。


 問題は町に戻ってからだろうな。


 ボルトンさん相手にここまでする相手が黙っているとは思えないし、ボルトンさん達も我慢の限界を越えるかもしれない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る