第16話・旅の支度とエルの本音

「これって昔のイベントのネタ兵器だよね?」


「はい。たくさんあったので、一台ならばよろしいかと。使用してはいけませんでしたか?」


「いいんだけど、これで大丈夫?」


 数日後にはエルが冒険の旅立ちの準備が整ったと言うので、無人島の拠点でお披露目となった。


 しかし輸送艦から現れたのは、なんと馬車だった。


 正確には見た目は一般的な中世ファンタジーの世界によくある木製の馬車に、布の幌を張ったごく普通の馬車だ。


 ただ、正式名は馬車型装甲車という、ギャラクシー・オブ・プラネットで昔行われたイベントで手に入れたネタ兵器になる。


  ジュリアが持ち歩いてるレーザー仕様のバスタードソードと同じイベントで手に入れた、ファンタジー世界の世界観に合わせたイベント限定兵器だ。


 SFのゲームでファンタジー仕様の馬車型装甲車など使い道がない上に性能も初期のイベントなので微妙で、イベントが終わると格納庫の肥やしとなっていた物だった。



「搭載装備及び車内は全面改修しました。まだ試験中ですが敵性生命体の個体識別レーダーを実験を兼ねて搭載しまして、兵器及び反重力エンジンと核融合炉とバリアも新型になってます」


 コレクターというか物を捨てられないタチなので、要塞シルバーンの倉庫や格納庫には使わない物で溢れていて、エルには常々せめて整理して下さいとは言われていたんだけどね。


 ちなみにこの馬車型装甲車は、何かに使えるかとイベント終了後に投げ売りしていた物をちょこちょこ買ったので、多分十台くらいはあるかも。


 なので一台くらいなら別に使ってもいいんだけど、エルは相変わらずコレクターの気持ちだけは理解してくれてないみたい。


 ああ。馬も普通の馬じゃなくエル達と同じ有機アンドロイドで、馬車本体には反重力エンジンも積んでるから一応空も飛べるエアー装甲車になる。


 改修する前で確か時速700キロは出たはずだけど、性能も見た目もギャラクシー・オブ・プラネットでは中途半端でSFゲームには合わないと言われたし、ファンタジーゲームのプレイヤーからはこんな馬車はねえと言われた微妙な兵器だったはず。


「中は……キャンピングカーにしたの?」


「はい。この惑星の旅は町か村以外では基本野宿なんですが。その私もケティも野宿はあまり…… それにトイレとシャワーがないのも……」


 本来の馬車の装備などは小型の物なので、車体の下に付いていて荷台は確か何もないはずだったのだが、改修した馬車はファンタジーの世界観に合わせて木製を中心の見た目にしていたものの、完全にキャンピングカーになってるよ。


 狭いながらシャワー付きトイレとキッチンが付いていて、小さいが冷蔵庫やオーブンレンジもある。


 それと要塞や拠点との通信が出来て、偵察機からの映像も見られる50インチほどの大きめのモニターにソファーベッドもある。


 しかも停車時は馬車の横がせり出して、内部の居住スペースが二倍になり四人が楽々寝られる広さになるみたい。


 準備に十日近くかかったのはこれの改修の為なんだろうな。


 もしかしてエルが冒険の旅に出るのにあまり賛成でなかったのは、この惑星の旅が過酷だからなのか?


 一応荷物置き場は馬車の天井の上に幌との隙間を作って、そことソファーベッドの下なんかに入れるらしい。


 まあ水は惑星内なら大気から作れるし、排泄物やゴミは分解しちゃうから、なんとか小さいながら荷物置き場は作れたみたいだ。


 少し申し訳なさげというか言いにくそうにモジモジするエルは、その大きすぎる胸が強調されて本当に若い普通の女性のように見える。


 正直ギャラクシー・オブ・プラネットの時代には野宿なんてしなかったし、仮想空間なのでトイレも行かなければ虫も居ないので気にならなかった。


 だけど突然リアルファンタジー世界に来て、野宿するというのは嫌なんだろうね。





「エル。今後は嫌なこととか意見があれば、ちゃんと言うようにみんなに伝えて。不満を溜め込まれるのも怖いし」


「了解しました。……そのワガママ言って申し訳ありません」


「いや、いいんだ。リアルになっても、今までと同じ感覚のオレも悪かったんだし。一つ一つ変えていかなきゃだめなのかも」


「それほど大きな不満はありません。ただ戸惑ってるのはみんな同じかと」


「生きてくって綺麗事ばかりじゃないからな。オレあんまりその辺気付かないから悪いけど頼むよ」


「はい。お任せください」


 ジュリアの思い付きによる冒険の旅は、奇しくも日頃は自己主張しないエルの本音が垣間見えることになった。


 運営も何もない自由な世界に戸惑っているのは、オレだけじゃないんだろう。


 もしかすればジュリアはあえて自己主張することで、オレにそれを教えようとしたのだろうか?



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