第10話・惑星拠点の視察

 ジュリアとケティの口喧嘩はともかく。


 無人島本島は南部の砂浜から中央部に向けて両側に広めの歩道と、大型の車がすれ違える幅のまっすぐな車道がすでに完成していた。


 地面には要塞シルバーンで製造された、人工石による石畳を敷き詰められている。


 この惑星の文化レベルでは小さな町や村レベルでは土が剥き出しのままの道路らしく、それなりの規模になると石畳を敷くのが一般的らしい。


 オレ達は南部の砂浜からエアカーに乗って、出来たばかりの道で中央部に向かう。


 森の木々がジャングルのような密林に近いので、景色はファンタジーというより密林開拓でもしてる気分になる。


 ただ島の拠点作りには木材も必要なのと、耕作地が欲しいので無人島の森は縮小する予定だ。


 景観と島の外からあまり見られないようにするために、南の砂浜からしばらくの森と外周には残す予定だが、あとは開墾してしまうらしい。


 そもそもこの島はあくまでも惑星内の拠点の一つにする予定なので、ここに定住する気はないし、必ずしも自給自足する必要もない。


 しかしこの惑星の知的生命体と接触して情報収集をするつもりなので、外と交流する以上は今まで自給自足しながら生活してきたと言える場所を作っておいて損はない。


 何と言っても現時点では唯一の知的生命体の存在する惑星なだけに、オレ達もここで生きていくことを考えねばならないかもしれないしね。



「主要な施設は全て地下に作ります。搬出する土砂で島を拡張出来て丁度いいですから」


 島の中央部に到着すると先日まであったオークの集落はすでに無く、複数の大型の重機が地下深くまで穴を堀り始めている。


 この惑星は危険なので島を包む防御バリアに対空対海中用の迎撃兵器も設置する。


 他には最低限だが核融合発電所と工場も地下に纏めて作るらしいので、島の地下はほぼ全てが何かしらの施設になる予定だ。


 まず有り得ることではないが、要塞シルバーンが万が一にも再び何処か見知らぬところに飛ばされても、最悪惑星に残ったオレやアンドロイドだけで再度宇宙に出られるようにするのだそうな。


 地上部分は百人から最大三百人程度は住める、この惑星の一般的な町か村のような見た目で作り、畑は多めにして外からの訪問者が来ても誤魔化せるようにする。


 まあオレ以外のアンドロイドは全部女性型なので少し不自然だろうが、流行り病で亡くなり人口が減ったとでも言っておけば多分問題ないだろう。





「麦や大豆は当然だけど南国だしな。バナナとかマンゴーとかパイナップルとかいいな」


「それらの植物はこの惑星にもありますし、バナナはこの島にもありましたが、我々の知る物より甘みが少ないようです」


「そうなんだ。じゃあまずはこの惑星のバナナの遺伝子を組み換えて甘いバナナ作って植えようか」


「バナナは素晴らしい」


 現状でオレが考えるのは島で何を植えるかくらいだが、そのうち交易をしたいと考えてるエルの助言に従い、植える果物を考えると本当に南国の楽園のようになりそう。


 ギャラクシー・オブ・プラネットでは遺伝子工学は成熟した学問とされていて、エル達のような有機アンドロイドも遺伝子工学により生み出されたとされてる。


 植物の遺伝子組み換えなど朝飯前で、ゼロから遺伝子を組んで植物や生命体の製造も可能だった。


 実はギャラクシー・オブ・プラネットでは様々なネタ植物から始まり、架空の生物や有機アンドロイドでさえファンタジーのような獣人やエルフに見えるアンドロイドが一部では造られていた。


 甘いものが好きなケティはバナナと聞くと瞳を輝かせていて、少しだけ卑猥な意味で聞こえたオレは思わず生唾を飲み込むなんてこともあるが。


 いきなり遺伝子をゼロから組んだ植物を植えるよりは、この惑星にあるバナナの遺伝子組み換えから入るべきだろうと考えて、耕作予定地の一部をバナナ畑にすることにしよう。


 ただ問題なのは島の北部にある小高い山であり、土壌が火山灰土壌なため少し植える物を考える必要があることか。


「サツマイモはあるの?」


「サツマイモですか? 申し訳ありません。現時点では発見出来てません」


「ううん。いいんだけど北部で植えるのに日保ちするサツマイモかなって。焼酎でも造れば売れるしさ」


「植物の生態系は似て非なるものなので、原種でよろしければあるかと思います。無人偵察機に探させてみます」


「お願いね」


 別に土壌改良してもいいんだけど、この前収穫したサツマイモを思い出して植えてみたいって思う。


 ファンタジー世界なら酒は売れるだろうし、下手な物を売って文明に影響を与えるよりは、酒が一番飲んだら無くなるしマシだろ。


 この島は少し暑いからブドウは本来不向きだし、ワインを作るのもあれだしね。


 遺伝子組み換えて植えることが出来なくもないけど、手間を考えたらサツマイモの方が手間が掛からなくて楽なんだよ。


 まあバナナの木とかは、途中まで要塞シルバーンの植物工場で育ててから植えた方が楽で早いからそうするけどね。


 麦や大豆もこの惑星の固有種を手に入れてから、 遺伝子組み換えて植える予定だ。


 なるべく波風立てぬようにしなくては。


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