第11話。地上の拠点・その一

 結局初日は島を視察して回り終わってしまい、オレ達はベースキャンプとなっている南部の砂浜に戻ってきていた。


 治安維持用の戦闘ロボット兵と拠点設営の工作ロボット兵は二十四時間働くが、エル達を除く八体のアンドロイド達は同じベースキャンプに戻ってきてる。


 彼女達もアンドロイドなので、その気になれば二十四時間無休で働かせることも可能だ。


 しかしAIとはいえ自我が存在するため、無理をさせることは今一つ好きになれない。


 それにアンドロイド達も扱いにより忠誠度が変化したので、基本的には一日八時間程度の労働に昔から決めている。


 現在輸送艦と護衛の駆逐艦は再び宇宙に上げていて、明日の朝一で再び物資を積んで降下する予定になっている。


 オレ達が今夜寝るのは小型の核融合炉と反重力エンジンを搭載した、エアカー仕様の大型キャンピングカー二台になる。


 見た目は日本では見掛けないような大型のキャンピングカーであるが、外見は流線形に近い近未来的なキャンピングカーといったところか。


 これ自体は完全に普通のキャンピングカーで何の戦闘能力もないので、ギャラクシー・オブ・プラネットの中でも趣味の乗り物に分類される。


 ただしアンドロイド達の疲労回復には効果がある。


 内部は下手な日本のホテルより断然広く豪華で、バス・トイレ・キッチンと完備した一台で十人は泊まれる仕様だ。


 水は大気から作るし、排水やトイレの排泄物は完全に分解してしまう近未来のキャンピングカーになる。


 この日の夕食は天気がいいので野外でバーベキューでもやろうと、料理が出来るエルとケティとオレで準備していた。


 ジュリア? 彼女は料理なんてやらないらしい。食べる専門とかで。


「司令。料理が上手」


「リアルだとアラサーだったしな。酒もタバコもギャンブルもしないから、料理くらいは自分でしたんだよ」


「寂しくなかった?」


「最初の数年はちょっと気になったけど、慣れると楽だったな。だからこそ暇さえあればログインしてたし」


 肉や野菜を切り分けていき、バーベキューならカレーも作ろうと煮込んでいるけど、ケティは珍しくオレの身の上に興味を持った。


 もしかすればゲームの中では、リアルについて触れられぬ何かしらの制限が彼女達には掛かっていたのかもしれない。


 実際リアルのオレとギャラクシー・オブ・プラネットのアレックスは、性格まで違うとは言わないが、必ずしも同じように生きていた訳ではない。


 リアルだと社会に出てからはあまり他人に深入りせずに生きてきたし、家業の農家を継いで細々とやっていただけなので、人付き合いはかなり限定的だった。


 なのにゲームの中でアンドロイド達ときちんと向き合い、素顔の自分を出せていたとも思う。


 正直リアルさが現実に匹敵したフルダイブ型VRは、話題と共に様々な社会問題を引き起こした。


 一例を挙げると危険で言葉が通じないリアルの海外旅行の代わりに、VRで全く同じ海外旅行体験を出来るようになると庶民はそちらに流れた。


 旅行業界や特定の観光に外貨獲得を頼っていた国は騒いだけど、そんな国は余計に人が行かなくなるとか本当いろいろあった。


 だがまあ働くだけの人生に嫌気が差したり、オレのように何かしらの理由から人付き合いが嫌になった人などを救ったのも確かだ。


 日本の問題だった自殺率を下げた、最大の要因とも言われてたっけ。


「この世界には神と呼ばれる、世界を管理する何かが居るのかもしれない。司令と私たちはその何かに呼ばれた気もする」


「神様か? 日本人的な感覚から言わせてもらえば、神様やら宗教は胡散臭いとしか思えないけど」


「仮想世界から司令ばかりか私たちまでもが現実に来られたのは、神の御技と言っても不思議じゃない」


「呼ばれたか。そういえばこっちに来る前に、亡くなった両親に会った気もする。あれも夢じゃない?」


「私たちは真実を解明する為に、この銀河を世界を知らねばならないと思う」


 リアルの話をしたせいか、エルやジュリアに他のアンドロイド達も静まり返りオレを見ていた。


 そんな中でケティは珍しく口数が多くなり、神様が存在するかもしれないとアンドロイドらしくないことを口にした。


 この時オレはふと昔誰かが、進化した科学は魔法と見分けが付かないとか言っていたことを思い出す。


 もしかするとエル達アンドロイドは、何者かにより呼ばれたことにより、命ある人工生命体とでも呼べる存在になったのかもしれないと思えてくる。


 確かにオレ達は知らなければならないだろう。


 自分達の身に何が起きたのか。


 オレはこの惑星での目的に一つ気付いたのかもしれないと考えていたが、その時にケティのお腹が盛大に鳴り笑ってしまい料理の支度を急ぐことになる。


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