第8話・仮想とリアル
惑星内の拠点設営が始まるのを見届けたオレは、中央司令室から人工農園に来ていた。
こちらに来て一週間が過ぎたけど、オレの仕事は報告を受けてエル達アンドロイドの提案を聞きながら決断するだけになる。
それが上に立つ者の仕事と言われるとそうなのだろうが、高度に発達したアンドロイドと量子コンピュータがあるギャラクシー・オブ・プラネットにおいて、極端な言い方をするとプレイヤーは馬鹿でも司令官になれる仕組みであった。
ファンタジー物のようなスキルでもあれば違うのだろうが、それが存在しないギャラクシー・オブ・プラネットにおいて、専門的なことはプレイヤーにはやれることがあまりない。
結果としてオレはリアルで家業だった農業をわざわざゲームの中までやって暇潰しをしていたのが、ここに人工農園がある訳になる。
ただ何事も無駄にならないなと思ったのは、オレが趣味で集めていたギャラクシー・オブ・プラネットに存在した様々な植物と作物の種や遺伝子に家畜と動物の遺伝子が、こうしてリアル現実になると途方もないほどの価値が出てくることか。
数少ないフレンドにギャラクシー・オブ・プラネット内で銀河商人をやってた奴が居て、そいつに頼んで集めて貰ったものも多い。
アイテムをコレクションするプレイヤーは何処のゲームにも居るが、十五年も歴史があるギャラクシー・オブ・プラネットにおいてアイテムをほぼ全てコレクションしていた奴はオレを含めて一握りだろう。
特に作物の種や遺伝子などは惑星開拓の際に使えるアイテムであったが、無ければ無くても困らない部類に入るので持ってないプレイヤーが大半だ。
作物ですら工場で計画的に自動生産される世界なだけに、畑まで作ったのは物好きとしか言えないのだろうけどね。
「司令。ぶどうがそろそろ食べ頃」
この日は収穫を終えたサツマイモ畑の後始末をしながら人工農園管理ロボットと共に汗を流していると、現れたのは医療部のケティだった。
医者だし有能な無口っ子をイメージして作ったケティは、何故か食いしん坊になったんだよね。
オレの人工農園に一番遊びに来るアンドロイドだろう。
「ああ、そうだったか。収穫してみんなに配るか」
「手伝う」
人工農園は大きく分けて四区画あり、春夏秋冬それぞれ違う季節の農園がある。
要塞シルバーンは重力はもちろん、気温や湿度は完全にコントロールされているんだ。
人工農園はそこに人工太陽による日光とスプリンクラーによる水やりをコンピュータ制御で自在に出来る。
なので四区画をそれぞれ違う季節に設定して春夏秋冬の順に変化させていくだけで、常時どの季節の作物も育てることが可能になってるんだよね。
「もうリアルな身体と変わらんから、お腹も普通に空くんだよなぁ」
「私達もトイレに行くようになった」
「それもあるか。トイレって無駄なオブジェだったのにな」
オレはケティと今ちょうど秋になってる区画にて食べ頃のぶどうを丁寧に収穫していくけど、見てるとつい食べたくなりケティと一緒に一足先に完熟したぶどうを味見する。
ぶどうの濃厚な甘さと瑞々しさに、改めてここがゲームの中ではないと実感しちゃうな。
ギャラクシー・オブ・プラネットとの変化は割と早い段階で気付いた。
変化したのは空腹がゲームでのシステムではなくリアルな空腹になったことと、オレは元よりアンドロイド達までもトイレに行くようになったことか。
プレイヤーは人間だしアンドロイドは有機体なのでエネルギー源は食べ物から得る仕様だったが、共にゲームなので排泄までは再現されてなかった。
宇宙艦から要塞シルバーンに至るまで一応トイレはあるが、それはリアル思考な運営がトイレがないのはリアルじゃないとわざわざ使えるようにしていたオブジェだ。
ただ当然プレイヤーもアンドロイドもトイレには行かないので、一部のプレイヤーの安らぎの場所としてしか意味が無かったはずなのに。
まあそれも今のオレ達には有りがたいことであるが。
それと余談になるがもう一つの問題は、ギャラクシー・オブ・プラネットでは排泄と同様に全年齢推奨のため有り得なかった、セクシャルな欲求が普通に出てくることか。
好みの美女や美少女アンドロイドを揃えたせいで、ここ数日少しそっちの意味でドキドキしてしまってる。
一応設定では有機アンドロイドは肉体は人間と変わらぬとあるので恐らくそっちの行為も可能なのだろう。
しかし長いこと信頼関係を築きせっかく家族や仲間のような関係のアンドロイド達に、今更セクシャルな要求をするのもどうかと思うので自重してるけど。
言い方が適切か分からないけど、オレはお店が一番簡単で後腐れもなくていいんだよね。
一時期彼女が居たこともあるけどさ。
惑星に降下したらエル達と別行動にして娼館にでも行きたいところだ。
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