第5話・惑星降下の布石

 この銀河に来て早くも三日になろうとしていた。


 ログアウトもサーバーとの接続も依然としてなく、オレは寧ろこのままでいてくれと願うような三日だった。


 現在要塞シルバーンは有人惑星の月軌道に到着して、惑星から見えぬように光学迷彩バリアで落ち着いている。


 オレは宇宙から有人惑星を眺める日々を送っていた。


 この星系は星の配置や惑星内の大陸の配置から現実の太陽系に酷似しており、オレ達は第二太陽系と仮の呼称を命名して、宇宙では第二太陽系の他の惑星の調査と要塞シルバーンの防衛網の構築を続けていた。


 有人惑星に関してはすでに大気圏内に多数の小型のステルス無人偵察機を送り込み、惑星内の調査と降下に向けた準備を行っている。


「司令。惑星内部の最新情報です。惑星内の知的生命体ですが、やはり産業革命以前の中世の地球が一番近いと思われます。しかしこの銀河には未知の力が存在し、それを使う技術がある模様。いわゆる魔法と現地生命体は呼んでます」


「ドラゴンに魔法か。本当冗談抜きにファンタジーだな」


「はい。国家形態は中央集権以前の王政と一部宗教勢力による支配で、知的生命体の支配圏は国家の領地とされてるところでも三割か四割かと。現地生命体が魔物と呼ぶ敵性生命体が惑星の大半を闊歩する世界なだけに、都市や町村部との移動すら命懸けなため文明の発達が阻害されてます」


 昨日辺りから調査の報告が次々と舞い込んでいて、試しに採取した小惑星帯からの資源には未知の金属なんかが発見されている。


 今日は今日で有人惑星の報告をエルがしてくれるが、完全にファンタジー世界にしか思えない報告ばかりだった。


 未知の金属に関しては採掘量が少なく調査研究を開始したばかりなので何とも言えないようだが、ファンタジー惑星のある銀河なだけにファンタジーの金属ではないのかと思われるらしい。


「なお惑星内の拠点に関しては、航路や陸地から少し離れた場所にある無人島諸島を予定しております」


「所有者は?」


「現在は存在しませんが、百年ほど前は海賊と思わしき集団の拠点だった模様。真水が豊富で耕作に適した土地もありますが、どれほど頑張っても知的生命体が生活するなら三千人が限度です。それと惑星内の海にはやはり危険な敵性生命体が多いので、陸地から離れた小さな諸島など誰も開拓しようとしないようです」


「海賊に無人島の拠点化か。まさか財宝とかあったりして?」


「ええ。ロボット兵を調査の為に先行して降下させたところ、海賊の宝を発見しました。その際に朽ち果てる寸前の魔法関連の書物やアイテムが多数発見されましたので、文字の解読を含めて調査研究部に調べさせてます」


「海賊の島か。降下してみたいな」


「念のためロボット兵の調査完了までお待ちください。環境調査と安全の確保を含めて数日で完了しますので」


 宇宙は今のところオレ達以外の生命体は見当たらず、やはりオレの興味は惑星に向いていた。


 ファンタジー惑星はリアルに報告として受けると、なかなか生きるのが大変そうだけどね。


 ただ要塞シルバーン内部には人工重力もあって快適だけど、やはりファンタジー惑星があると、ちょっと見たくなるし旅もしたくなる。


 まあオレの場合は過去の経験からお世辞にも対人関係が良くないので、一人で行けと言われると間違いなくロクなことにならないけど。


「船は木製なの?」


「はい。ただ動力には極一部に魔法と思わしき技術によるものがある船も一部あるようですし、同じく魔法技術によるものと思われる空中船もあるようですが」


「空中船って凄いね」


「技術的には飛行船と大差ないかと思われますが、詳しくは国家単位の機密になるようで不明です。我々は大気圏内では主に潜水艦と、現地の外見に合わせて改良した海上船にて活動する予定です。空中船は国家と一部有力貴族しか保有してないようなので」


 オレが細かな指示をしなくても、エル達は着々と惑星降下の準備をしてくれてる。


 あまり社交的と言えないオレでさえワクワクするような、そんな日常が始まるのかもしれない。



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