別之華咲かす廻逢

彼方のカナタ

 別之華咲かす廻逢

僕は霊が見える。

そしてその霊は全て僕の周りで亡くなった人達である。勿論、人以外の霊もいる。この霊達が見えるようになってから二十年が経とうとしている。その、始まりを今回、この場を借りて話させて貰うとする。その少し前から語るので少し長くなっても怒らないで欲しい。

それは僕が高校一年生の時だった―――



高校の入学式。

噂通り校長の話が長い。

何より面白くないのが良くない。

やはり校長の話が(面白くない場合に限って)長いのは絶対に悪である。僕はそう思う。


僕が入学したのは県立高校。学力は高くもなく低くもなく、まぁ、偏差値が少し高めなだけである。同じ中学から進学してきた人は結構多く、不安は少ない。恐らく中学に続いてテニス部に入るのだろう。まだ、部活についてよく知らないから何とも言えないが、そうなる。中学テニス部の仲間は半分弱位この高校に来ているし、大会でこれまであってきた他中の人も少し見かけた。良いスタートが切れそうだ。


僕たち生徒は一度教室に戻り部活動紹介のビデオを見て、その後一週間は何処でも自由に参加して良い事になっているらしい。数十年前流行した感染症の影響で元々体育館等で行っていた部活動紹介を配信に切り替え、その後先に撮影して放映する様になったと親に聞いたことがある。

後は、クラスでの交流会が開催され親睦を深める的な事をする予定だ。突然、「クラスで何かしよう」とか言われても、できないと思う。だから自己紹介をやるのではないかとは思っているが…どうなるのやら。


校長の話が終わった。これで開放される!と思ったものの直ぐにPTA会長の話へと移ってしまった。これはまだまだ続きそうだ。


それにしても、やはり高校となると学年当りの人数も増えるみたいだ。正確な数は分からないが多くの新入生が各々話を聞いている。

勿論、普通科だけでなく他にも二つの学科がある。その二つは…っと話が終わったようである。


今度こそ本当に終わったようだ。

教室に向かう廊下。多くの人に疲れが見え皆それぞれ愚痴をこぼしている。



「おっと~、そこの君!余り疲れてないように見えるけど?」


うわぁ~、なんか面倒な奴に絡まれた。早く撒いて、もう二度と関わらないように気を付けよう。


「いや、そんなことないよ。ずっと座ってたからね。もう腰が…」


「へぇ~」


「おい、お前何やってるんだよ」


おっ、救世主登場。僕の友人D君(仮名)である。


「いやーすまんな。コイツ俺の従兄弟なんだけど、こういう所あるから。出来れば仲良くしてやってくれ。それより圭輔。お前、泉に迷惑かけるなよ」


圭輔って名前ね。あ~もしかしてコイツの家は「輔」が全員付くのか?D君こと大輔もそうだし、確か父親は浩輔だったはずだし。じゃあ面倒な輔は圭輔だから、K君か。確かD君が城島だからどちらかというとJK君かな?うん、普通に違和感。やっぱりK君はK君だな。


「分かったから。泉君ね、突然絡んでごめん。あ!『泉』って名字?名前?」


「名前、ちなみに名字は和泉」あ、K君全然反省してないな。まぁ良いけど。


「イズミが二つって珍しいね」


めっちゃ同意だわ。親のノリはやめてほしい本当に。自分の名前調べてみたら少し不吉な感じだったから、いつか名字か名前を変えたい。


「ところで、二人は何組だった?因みに俺は六組。六は初めの完全数らしいぞ」


あー、聞いたことある。確か完全数って五十一個しか見つかっていないんだっけ?


「ねぇD〜、カンゼンスウ?って何?」


従兄弟なのは分かったけど、どんな人間関係

なんだこの二人。いや、K君から見たD君はどんな感じなんだ?明らかにDはおかしいでしょ。せめて大輔〜位なのかと思ったら…


「え、それ俺に聴く?この数学大嫌いな俺に。というかそろそろDって呼ぶのやめろ?な?後数学は優秀生徒の泉に聴いてくれ」


ん?よく分からないけど優秀扱いされてる。中学のテストも模試も僕はD君より成績良かった事ないのにな。確かに数学と理科だけはいつも勝ってたけど。それだけで判断するのは悪いと思う。


「えー、完全数は自分自身が自分自身を除く正の約数の和に等しくなる自然数のことだよ」


ネットによるとね。数学大好きな友達に語られた記憶が…。


「うーん、分かんないや。あ、そういえば僕は八組だったよ」


思考放棄したな。けど、僕が完全に忘れていた話題を言ってくれた。K君感謝です。八も良い意味があった筈。思い出せない。


「僕は七組。三人とも違うクラスだね」


「そうだな。だけどクラス自体は近いから、良いじゃあないか」


D君、君は大事な事を忘れているよ。六組は二階だけど七、八組は一階にあることを。けどクラスが遠かろうが関係が変わることはそうないだろうから心配する事など無いのに。

教室が見えてきた。D君とはお別れの時間だ。と思ったが三人とも一階にいる。D君は自分のクラスが無いことに驚いているが、K君は教えなさそうだ。仕方ない、と思い教えてやると慌てて階段を登っていった。

余談だが、D君は少し恥ずかしかったようで階段を登り過ぎた。その後迷子になったらしい。心優しき先生が助けてくれたそう。



七月。今日も授業が終わり、部活へと向かっていった。あの時の予想通り、僕はテニス部に入った。


「お~。イズミ今日は早いね」


何時も通りK君が一番に着いている。今日は掃除当番ではないので、授業が終わってから直ぐ飛び出してきたが、それでも勝てない。K君は早すぎるのだ。もう自主練を始めている。授業をサボっているとしか考えられない。そう思いながら、返事をする。


「今日は、と言っても、また圭輔の方が早く来てるし、卒業までに勝てる気がしないんだが」


「へー、勝負してるんだ?じゃあもっと頑張らないとな〜」


そういう事ではない。それに勘違いはまた正さねば!と思う。


「あー、取り敢えず着替えてくる」


K君と話していたら時間を浪費してしまう。これでは、早く来た意味が無い。


「そっかそっか。僕に勝つ為に早く来たのに、ここに居たら普段と変わらないもんね」

………。


この高校は入部が六月なので、まだ一ヶ月。そろそろ高校での部活にも慣れてきた頃だ。一年生の部員は二十六人。しかし、そのうち二人は何時も不参加の幽霊である。うちの中学から来た部員は八名、なかなか多いほうだ。この八名の内女子は三名である。K君も今年からテニスを始めた。それなのに、上達が早い。まるで水を吸うスポンジみたいに、色々な技術を吸収していく。二、三年生の部員は合計12名とかなり少なく、もしこれだけ一年生が入らなかったら、廃部又は今四面あるコートの一部がが減らされていたかもしれない。

快晴。この頃は更に気温が上昇し、熱中症患者も増えている。まだ一ヶ月程気温は上がり続けるだろうから、危険だ。地球温暖化も進行し、今では四十度を超えることさえもある。滅多に無いことなので、そこまで…と思うが、結局最低気温も上がり、海水面が以前より数メートル高くなっているそうだ。島の一部は海に沈み、日本を含め多くの国が国土、排他的経済水域の一部をを失った。近年、地形の変化が多く、地図が一年で変えられることもある。これでは長くは保たないだろう。まぁ、今の僕たちにどうこうできるような話ではないので、置いておこう。

テニス部にはアイドルが居る。そのアイドルは猫。色は黒色である。正式には名前は無いらしい。けれども、先輩も「猫ちゃん」と呼んでいるので、全員が猫の名前は猫ちゃんである、という認識になっている。その先輩によると猫ちゃんは数年前からテニスコート横にある倉庫に住み着いているらしい。そこで当時の校長が「ここで飼えば良い」と言い、それ以来学校のマスコット的存在でもある。つまり、皆の癒やしと言うことだ。猫ちゃんの存在によって創られた珍しい規則がある。

『テニスコートに出入りする時は必ず猫ちゃんに心を込めて挨拶する事』

というものだ。今の三年生が去年創ったものであり、生徒だけでなく、顧問の夏野先生や外部コーチにも適応される、謎ルールだ。これによって猫ちゃん愛が育まれ、より猫ちゃんとの絆が深まるかもしれないと言われている。信憑性は全く無いが、全員が毎日行っている。


話を戻そう。それよりも大事な事が来週から始まる、三年生の最後の夏が始まる。三年生は四人と少ないが去年も全国大会ヘ駒を進めている程なので期待が持たれている。勿論、僕達も応援に向かうし、先輩に協力するつもりだ。



大会四日前。ここに来て、日本全国に衝撃を与えた、あの大震災が起きた。関東大震災、阪神淡路大震災、東日本大震災等有名な震災に匹敵する規模のものが…

それは『       』である。

近年、最も死者数が多い震災の一つとして知られている。それは、突然起きた。



この頃、一段と暑くなった。しかし、部活に向かう足取りは軽い。あれから少し経ったが、未だK君には勝てていない。勝負していると思わされているのは腹が立つが、仕方が無い。三週間程前から、ある女子も、この勝負に参加している。K君の小学校からの友人だそうだ。それは置いておこう。着替えを終え、シューズを履く。

っと、靴紐が解けてるじゃん。結び直そう。そう思い、しゃがみ、紐に手を伸ばした。

激痛。

「かっ…」

どうなって…。

世界が90度回転している、傾いている。落ちて、いる?そう錯覚した。しかし、落ちてなどいない。

何かが崩れる音がする。誰かの悲鳴が聞こえる。誰かの叫ぶ声が聞こえる。何かがぶつかる音が聞こえる。

あぁ、痛い。何故、体が揺れているのだろう。どうして背中側から熱を感じるのだろう。分からない。けど、危ないのはわかる。立ち上がらなければ、この場から離れなければ。ここは、危険だ。全身に力を入れ立ち上がる。ああ、どうして倒れそうになってしまうのだろう。そして、振り向いた。

そこには、これまで見たこともない校舎の姿があった。半壊している。一部が燃えている。

その瞬間、理解した。これが「地震」なんだと。しかも、ただの地震ではない。普通とは何か違う。明らかにおかしい。

そして、走っていた。僕達の、大切な場所の一つに。そこにも、僕の心を傷付ける刃があった。倉庫が崩れていた。崩れた倉庫の前で泣き崩れる女子生徒が居た。僕は駆け寄り、声をかけた。

「何が、あった」

意外にも声はよく出た。それでも、ぎこちないと言うのだろうか、普段通りの話し方が出来ない。女子生徒からの返答はただ「圭輔が、猫ちゃんが」そう言って泣いてばかりである。僕にはこの返答だけでも、十分だった。直ぐに瓦礫をかき分け、探す。あぁ、まさかそんな事はないよな。何が起きているかは分かったとしても、それを信じることの出来ない自分がいる。改めて、人間は事実を知っても、自分の信じるものを変えない物だと感じた。それでも現実は非情だ。瓦礫の一部が紅色に染まっている。あぁ、どうしてこうなるんだろう。そこには猫ちゃんを抱いて守ろうとした姿の圭輔がいた。

「…イズミ、ライカ。ごめん。生きれそうにないよ」

力なく、圭輔が言う。

「そんな事、言うなよ」

「そうだよ!何で…何で…」

二人で反論するも、圭輔は首を振る。

「はは、…分かっちゃうんだよね。それに、守ろうとした者を全部は守れなかったよ」

え?猫、ちゃん。

猫ちゃんはもう、息をしていなかった。

「二人、とも。心配かけてごめん。後…これまで、ありがとう。皆にも、よろし、くね」

まだ、話せそうではあるけれども、苦しい状態の圭輔に無理をさせてはいけない。

「安心してくれ。そんなのっ。必要なんかない。」だって、圭輔が死ぬなんて、ありえないだろ?

「圭輔っ」

あぁ、止められない。そんな力はない。無力感しか、感じない。

その数分後、どうすることもできないまま、ある少年の生命の光は闇に墜ちて行った。


それから、僕とライカと呼ばれた女子生徒は校庭へと歩いて行った。少し前と違って足取りは重く、胸に大穴が開いている気がしてくる。


校庭では生徒や先生が負傷者の治療に当たっていた。そこには、大輔の姿もあった。

伝える、べきだろうか。いや、伝えなければならない。休むことなく働く大輔を呼び留め、圭輔の身にあったことを、ありのままに伝えた。大輔は素っ気ない返事を返し、作業を再開した。それでも、大輔を責めることは出来ない。大輔はその話を聞いてから、顔を歪め、泣きながら治療をしていたからだ。それに、僕にも攻める権利はない。助けられなかったのだから。



あれから一週間が経ったが、まだ水や電気はまだ復旧しない。そりゃあそうだ。

そして、生存者と死者がもう、はっきりと分かれたと言っても過言ではない。酷い言い方だが、生きる者は生きて、死ぬ者は死んだ。後は、餓死や脱水等での死者が出るか出ないか。その位である。

っ。

背後に気配を感じた。しかし、振り向いても、崩れた校舎と倉庫があるだけだ。ただ、普段と違うのは、そこから多くの人と一匹の猫が歩いて来ている事だ。その猫は猫ちゃんで、人の先頭を圭輔が歩いていた。

「圭輔っ」そう言って手を伸ばすも、届かない。ぼやけて、消えてしまいそうになる。また、悲しみの底に沈んで行った。

翌日もその次もそのまた次も同じ事が起こった。しかし、四日目、人が一人増えていた。熱中症患者かとも思ったが、それは間違いだった。圭輔が、最期に「ライカ」と呼んだ女子生徒だった。思考が停止した。直ぐにライカの居る筈の場所へ行くも、いない。彼女の友人に聞いても、分からないと答える。嫌な予感がする。校舎の方で騒ぎが起きているのに気付いた。そこでは、一人の少女が首を吊って、息絶えていた。彼女の姿はあの日と変わっていなかった。


その事件から二週間、水や電気が一時的に復旧した。しかし、一日の内、二時間と決められた中でしか使用できない。それでもありがたかった。そして毎日行列を二度見るようになった。

その後順調に復興が進んでいき、今に至る。


という話だ。長くなってしまい、申し訳ないが、これ以上語ると更に長くなってしまうのだ。詳しい話や復興の話は何時か誰が話すようになるだろう。それは貴方かもしれない。


「出逢いの数だけ、別れがある。別れの為に出逢いがあるのだ」


それは儚く悲しい物語。別れという花を咲かす為に、幸せというヨウブンを日々私達は注いでいる。

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