第26話 福島と日本酒に注ぐ愛
福島県には並々ならぬ愛がある。
そもそも私が最初に福島にお邪魔したのは、22歳。
大学のお遊びサークルで、冬の会津若松に合宿に行った時だ。
お遊びといっても普通にテニスやスノボしちゃうサークルと一線を画していた私達は、いわゆる旅行や帰省のハイシーズンには各自バイトに専念して小遣いを貯めて、改めて皆が仕事や学業に戻った、少しズレた時期に合宿をしていた。
するとどうだろう、宿も列車も安いではないか。
大学生は休みが長いから若さゆえの特権だ。
苦労して貯めたバイト代で予算も潤沢に、少し高級な宿に泊まる。
平日料金なら、源泉かけ流しのそれなりのお宿が手に届く。
まだ20年以上前のこと。
一泊1万5千円も出したら、中々良いお宿にご案内して貰える。
たまには利便性や観光アクセスの良さから、学生のサークル合宿を受け入れる系のチープな宿を選ぶこともあった。
だけど、他の彼らが食べているのはハムエッグとサラダ。
私達は鮮魚の船盛りに地酒と、費用対効果として宿泊単価に糸目をつけない稀有な荒くれもの集団だった。
こういう事をしているから留年するのである。学生の皆様は真似しないように。
その時に出会ったのが、福島県耶麻郡磐梯町の
(註:その後、会津若松市のリオン・ドール子会社となり、現在はウイスキー醸造の天鏡株式会社の酒造部門として同一になっている)
こんなに日本酒が美味しいのは初めてだった。
いや、初めて美味しい日本酒に出会ったのかも。
風土と気候、水、大地、全てが最高にマッチしていた。
まぁその時に飲んだ榮川さんは、大学生の身分なのでそんな高級品じゃない。
ラベルは、青い空に白い樹氷でお馴染み『
福島県に行けばだいたいどこでも手に入る、300mlビンで400円弱の商品だ。
以来、私は福島に、そして福島の酒に惚れこんだ。
この村づくりの本家である日曜夜のアイドルグループの番組でも、福島をずっと見てきたので、愛着がある。
当然もっと福島に行きたくなる。
大学時代の連中とは異なる他の友達との旅行でも福島にお邪魔したし、ひとり旅でも旅程に福島を組み込んだりもしてきた。父親の還暦祝いにも東山温泉のオススメの宿まで足を伸ばした。
それが一変したのは2011年、東日本大震災の時だ。
ニュースを見れば、やるせない情報ばかりが流れてくる。
もちろん、関東とはいえ私が住む地域も震災の影響が大きかった。
今すぐに福島の現状を見に行こうだとか、支援しようとは考えられる余裕もなかったし、メディアのあんな報じ方では気軽に行ける状況でもない。
日曜夜のテレビでも、本家村づくり企画はストップしてしまった。
それから10年。
私は福島への愛を改めて確かなものにしようと、ある銘柄を購入した。
東邦銀行<8346>。
福島県福島市に本店を置く、お馴染み福島の地銀である。
私は決して、震災を経て福島が可哀想だとか、同情から支援している訳ではない。
もちろん地震大国である日本にはその後も各地で大きな地震が起きた。
それだけでなく豪雨や台風など、常に自然災害に晒されている。
日本は災害列島だ。
でも、ちょっと福島は別格なんだよなぁ。
最初の出会いが凄すぎたのよ。
私の人生を形成する上で、福島が寄与した部分は計り知れない。
言わば第二の故郷と言っても過言ではないのさ。
カクヨムでの私の代表作が『おやきエッセイ』になったために、もちろん長野県さんにも大変お世話になったし、ここカクヨムで活動する上では『おやきの人』として多少やりやすくなったものの、私の『旅先を聖地』の本家本流は福島である。
さらに時を経た2年後。
「栃木から車で20分」と自虐的におっしゃっていた南会津町を舞台として、2023年初夏に着手した長編作品が書き上がったときは本当に感無量であった。
福島、日本酒、震災、観光産業とコロナ禍、当時の私が感じて考えた、全ての要素を可能な限り盛り込んだ。
『岩魚ヶ姫』。
https://kakuyomu.jp/works/16818093085998445441
「いわながひめ」という音が気に入って決めたが、よく考えたら日本神話に同名の神がおられるじゃないのさ。貴船神社の祭神でもある。
なので本家の神は「いわ↑なが↓ひめ」。
私の作品は「→いわなが↑ひ↓め」と音読していただきたい。
これは私の聖地モチーフ系の集大成だ。
作品には東日本大震災やコロナ禍など、ややセンシティブな内容を含む。
下読みしてくれた友人達も懸念していた。
もう邑楽はシリアスな現代SF(少し不思議)路線で、ラブコメやファンタジーの看板を下ろしたのか、とも言われた。
しかし福島と日本酒を描く上で、これらは外せないと思っていたのだ。
『がんばろう東北』に始まる、以降の『がんばろう○○』ムーブは、私個人にはやや微妙なエールに聞こえる。もう被災地で頑張っている方が居るのに、他所から頑張れってのは違うんでは無いか?
このあたりの葛藤も新作に盛り込んだ。
本作は久しぶりにヒロインメインの作品だ。
やっぱあたしって女の子を描く方が楽しいのよね。
サブというよりはダブル主人公で、家が酒蔵である同級生の男子、彼のモチーフとしてお借りしたのは、南会津町に4軒ある酒蔵のうちの
でも、国権酒造さんの酒は辛口なんだよ。
私の未熟で愚鈍な舌には、少々辛いんだ。
群馬県みどり市がモチーフになった時は、イメージを膨らませるために同市にある近藤酒造さんの酒を飲んでいたのだが、こちらも少し辛い。
本当はフルーティで甘口な、まるで白ワインか果実酒のような日本酒が好みの私は正直なところ、国権酒造さんのオトナ向けの味に参っていた。
私がガチでオススメするのは、上記の群馬県なら館林市にある龍神酒造さんの『尾瀬の雪どけ』が甘口で美味い。
館林駅からのアクセスも近い。
工場隣接の直売所は金土日のみオープンするので、訪問の際は要注意だ。
あと、おやき旅の時に、おやきが買えずに仕方なく日本酒を買って退散した道の駅FARMUS木島平、こちらは田中屋酒造さんの『水尾』。
(註:田中屋さんは飯山市で、道の駅は千曲川を挟んだ下高井郡木島平村にある)
これも清涼感と透明感ある甘口の美酒だ。
なお南会津にある他の酒蔵のなかでは、花泉酒造さんが甘口で優しい。
それはさておき。
国権さんには取材と称して数度、お店にお邪魔して同店の酒を購入した。
その度に、女将さん(とおぼしき女性店員さん)にそれとなく、会津田島祇園祭や町の歴史、祭で飲む
この時の貴重な情報は、全て作品に反映させた。
こんなクセのある客、ぜったい顔をおぼえられているであろう。
「あの人、たまに来てあれこれ聞いてくけど何をしてる人なのかしら?」
まさかこんな作品を書いているだなんて申し訳ない。
その節は大変お世話になりました。また機会があればお邪魔します。
同蔵ならば毎年6月頃に発売する冷酒『Swallow Tail』をオススメしたい。
こちらはアルコール度数13%前後と、日本酒にしては控えめである。
そして辛口の多い国権さんの中では、かなり飲みやすい部類。
『記録的な空梅雨と高温』というフィクションで描いた拙作と同様に、猛暑の影響か醸造量が限られてしまい、2024年秋にお邪魔した際は、夏の終わりに早々に完売してしまったという品だ。
お求めの際は、ぜひ立夏の頃に会津田島駅の国権酒造へGO!
話が逸れたが、東邦銀行さんも株主優待があり、それには一千株が必要だが以下の三種類から選べる。
ひとつは特産品を用意したカタログギフト。
もしくは県内宿泊施設で利用できる割引券。
さらに地銀6行で形成される『TSUBASAアライアンス』共同企画品の選択(要するにこれもカタログギフトだ)。
そしてカタログギフトのタイトルは「ふくしまからの贈りもの」。
とても良い名じゃないか。
東邦銀行さんに出資することで県内への融資も強靭になり、かつカタログギフトで福島の地場産品をゲットできる。それも農家や地元企業への応援になる。
やはり震災や原発の風評被害の影響であろうか。
カタログギフトで選べる米も、他社の優待カタログギフトより若干、量が多い。
要するに卸値や出荷価格が安いから、たくさん配れるということだろう。
でも某アイドルだって今でも福島の地で畑を耕し、米を作り続けている。
だから私も福島の宿に泊まり、福島の酒を飲み、福島の地の物や米を食べる。
福島からたくさんの贈りものをいただくのだ。
という感じで、私と福島と東邦銀行さんについて語った訳だが。
これは決して無職こどおじが東邦銀行さんを買った訳じゃない。
それは私自身へのお祝いでもあった――。
年が明けた2021年正月、松の内。
実家の片づけも終わり、意欲的に転職活動をする私に書類選考通過と面接のご案内メールが届いた。
2024年12月いま現在、在籍している会社からである。
これまでのように後ろ向きに退職して、悶々と職務経歴書や志望動機を綴る日々とは違う。
確かにメンタル面では色々あったが、この時の私は過去を拭い去ろうと必死に動いていた。オマケに以前の私とは明らかに違う。
俺はキャリア7年の投資家だぞ?
資本も資産も、労働外収入もぼちぼちあるんだ。
こんなに世間を知り尽くした自分をお宅は買わないのか?
スキル? 経歴? そんなのどうとでも応用効くわい。
――という自信から来るのか知らないが、とにかく前向きだったのは良いことだ。
まだ世間はコロナのさなかだったので、面接はウェブ会議仕様で。
そうしている間に採用通知が届いた。
あらまぁ、なんてスムーズな。
実家の片づけをしたから神棚の神様も喜んでいただけたのかな?
この成功体験で益々自信を深めた私は、残った貯金と失業保険(内定が出たので、ここでは再就業手当が正しい)で懲りずに東邦銀行さんを購入したのだが、これが大学時代に端を発する私と福島の物語である。
ありがとう福島県。
そしてこれからもよろしく、福島県!
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