第19話 乙女おじさん、執筆を始める

 前回、簡単に長編小説の下読みをしてくれる投資家仲間の話をしたが、ようやく私が本腰を入れて小説を書き始めたのも、この年だとお伝えした通り。



 その前に村の開拓をお伝えする。

 5~6月。いつもの春のパン祭りを迎えた。


 パン祭りよりも少し早い春には、新しい銘柄を購入している。

 

 フロイント産業<6312>。


 製薬用造粒機や医療添加剤、食品品質保持剤をつくる会社。


 決算は毎年2月で、配当も年イチだ。

 逆に8月の中間決算には、優待として百株を一年以上保有していると、クオカードが千円。三年以上持っていれば同2千円分に増額される。

 こちらもマツキヨさんで日用品を買うためのクオカード銘柄だ。


 株価も一単元7万円前後のお求めやすさ。

 新NISAで個別株を検討されているなら、手を出しやすいと思われる。


 いやまぁ普段の買い物なら高価なのかもしれないけどさ。

 投資を一回始めると、ウン十万円が「おっ、安い」となるのが普通だ。

 ただしこれで日常の買い物の金銭感覚まで狂わせないように、お気をつけあれ。



 そして7月初旬。

 とある銘柄が権利落ちを迎えて値をガクッと下げたところをチャンスと捉え、一気に動いた。


 ちなみに権利落ちというのはエッセイ初期にお伝えした通り、会社が定めた期末締めを迎えて正式に株主となるのが権利取り日。

 株の売買確定から名義変更には実質3営業日が必要となるので、単純に月末ということではなく、その3営業日前までに買い注文をしておかなければならない。

 だから月末から数えて3営業日目が権利取り最終日となる。


 そして翌日、月末から2営業日となると権利落ちと言って、もうその月内には名義を得る事はできない。

 なので配当や優待の権利だけ貰ったら必要ない。皆が売り払う。

 これが権利落ち日の手仕舞い売りと言って、値が下がる理由だ。


 むしろそこで値が下がるから買う。

 もちろん次に権利を得られるのにはまた半年を要する。

 そんなに待てないという人が権利取り直前に買うと、そこに向けて株価はみるみる上がっているから、それは高値掴みとなってしまう。

 なのでゴリラは権利落ち直後にお得に購入して、余裕で半年は次の決算を待つスタイルになりつつあった。



 JT(日本たばこ産業)<2914>。


 私はタバコも嗜むので、これを買わない手は無い。

 しかも食品加工事業も手掛けており、冷凍うどん大手の加ト吉(現・テーブルマーク)を買収。

 昭和の子供だった私と同様に、テレビCMで流れた加ト吉の冷凍讃岐うどんの歌に馴染みがある方も多かろう。

 また飲料事業は既に撤退されたが、かの有名な『桃の天然水』を憶えていらっしゃるだろうか?

 あれもJTさんである。

 こちらは6月・12月期決算でサッポロさんと同じだ。


 JTさんは高配当銘柄として人気だが、元は株主70万人を支えた株主優待銘柄。

 2022年12月期で優待を廃止したが、当時は一年以上保有していれば、テーブルマークのレンチンするパック米か、『ホームラン軒』のカップ麺のいずれかを4,500円相当くれた。これは私が持つ2百株水準なので、百株なら2,500円だったかな?



 私は朝食に自家ブレンドの雑穀米を食べていたのでレンチン米ではなく、ランチや夜の食費の節約のためにカップ麺にした。

 でも12月期決算を終えて3月に議決権行使書が届き、優待を申し込んでから到着するのはだいたい早くても5月中旬~下旬くらいだ。

 そうなるとちょっとカップ麵の季節ではない。

 汗をかきながら、夏場に向けて必死にカップ麺を消費するのは大変であった。


 それに大変失礼ながら、日清食品さんや東洋水産さんと言った、カップ麺大手と比べるとテーブルマークの『ホームラン軒』は正直、味もビミョー……。

 量販店なら100円くらいで買える代物だし。

 でも定価(希望小売価格)での優待なので、カップ麺はたったの24食のみ。

 この苦行に耐えてこその優待投資家であると信じて、食べ続ける。


 サッポロさんも、あの有名な『顔』の缶コーヒーでお馴染みのポッカを買収したというのに、正直やっぱりどこか微糖、じゃなくてビミョー。

 あまのじゃくな性格ゆえに、逆にマイナーどころを応援し過ぎて、自ら苦境に立つタイプの投資家になっている。


 別に構わないさ。私もマイナーでインディーズな物を好む人間だから。

 タダで頂けるものまでアレコレ言わないでおこう。


 JTさんは高配当株なので、優待終了後もそのままゴリラホールドしている。

 当時の取得単価は2,098円。

 最近は値を下げたが、こちらもだいたいバガー(二倍株)となった。



 この年はこれが最後の取引であった。

 私にしては珍しく、ずいぶんと村づくりを中断している。

 次に新しい銘柄の登場は2019年1月となる。


 もちろん『転がし枠』や『優待廃止組』の取引はしているが、そちらは割愛させていただくのは以前にも書いた通り。

 そして割愛したということは「全ての株主様への公平な還元策」という点に不満があるからで、悪い宣伝にはしないために、ここで敢えて文字数を割く義理も無い企業とだけ申し上げておく。


 その『優待廃止組』で一か所だけ、良い銘柄をオススメしておこう。


 ラサ商事<3023>。

 金属・鉱物、特殊ポンプの専門商社。


 当時は百株でクオカードを千円分くれた。

 優待はそれだけではない。

 同社の株主名簿に登録しているだけで、株主1名につき50円を緑の地球防衛基金に、60円を『世界の子供にワクチンを』日本委員会に募金してくれるという。


 つまり同社の株を保有していれば、慈善活動にも貢献できた。

 同社は2021年3月にクオカード優待を廃止。

 それでも私は社会貢献に賛同して同社株を保有し続けていたが、この募金も翌年には終了してしまった。

 そこで私は一定の役目を終えたのではないか、と同社の株を売却したが、「全ての株主様への公平な還元策」として増配傾向は顕著であり、株価もそれほど値上がりはしていない。事業の安定性もある。

 我慢してホールドしておけば良かったと後悔しているが、今でも配当利回りだけで4%は堅い。ラサさんは『買い』かもしれない。

 


 さて、ここで村づくりの話は一旦置いといて。

 ここまで商い薄なのは、私が株式取引と同じくらい楽しい趣味を見つけてしまったからでもある。

 それが小説執筆。



 この年の10月に、恒例となった大型休暇を取得した。

 夏休みは12日(金)~18日(木)まで。


 まず私は先行して愛車『ラク太郎』で静岡をゆるりと周遊した。

 明けて土曜日には、浜松駅で新幹線に乗ってやってきた仲間と合流する。

 そして彼らも有休を取得した月曜までの二泊を一緒に過ごし、別れた後半戦はソロパートの旅と決めた。


 さて、そこで今年はどこに行こうかと相談していたところ。

 私がたまたまピンと来た地名があったので、人生で一度は行っておきたいと提案した場所がある。

 それが京都・貴船である。



 三河湾を囲う伊良湖の先っぽまで向かい、フェリーで三重県・鳥羽へ。

 2016年5月に開催された伊勢志摩サミットの会場……が窓から見える別のホテルに泊まり、翌日は伊勢神宮を詣でる。

 そして高速に乗り、一路京都へ。

 念願の貴船に向かうのだ。

 

 もともと私はこの旅よりも少し前に、

「ところで、ちょっと小説を書いてみようと思うんだよね」

 と彼らに伝えていたのが始まりであった。


 昔、夢で見た不思議な光景がその時まで忘れられず、それをベースに小説を書いてみたいと思っただけのこと。

 当然、私の発言を彼らは生温かく見守り、聞き流していただろう。

 一過性でハマってしまうと夢中になる、私の性格をよく知る彼らの事だ。

 無論「シロートに小説なんて書ける訳ない」と思ったんじゃないかな。



 主人公は女の子。

 自宅が神社で、そこで巫女としても奉職する高校生。

 それは決まっている。

 ストーリーは昔見た夢の話をそのままでは使えないので、少し改変する。



 処女作で当然のようにヒロイン主人公を選ぶあたりが普通ではない。

 友人達もこのように驚いていたが、私にしてみたら普通のつもりであった。

 そりゃ確かに、僕も男なのだから男の気持ちの方がよくわかるよ。

 

 しかし母や妹の影響で、少年漫画だけでなく女性向けの漫画も見ていた。

 ジャンプやマガジンで胸アツになったと思うと、少女漫画を見て胸キュンする。



 生粋の男のおっさんだが創作に関しては、ややバイセクシャルな面は否定しない。

 事実、私がこれまで書いた長編小説の3割は女性主人公だから。


 当時は『ASUKA』『プリンセスGOLD』『花とゆめ』を良く読んだ。

 魔夜峰央先生、川原泉先生、CLAMP先生、森永あい先生、氷栗優先生、河路悠先生etc……。

 特にお気に入りは由羅カイリ先生の『アンジェリーク』コミカライズだ。


 アンジェリークと風の守護聖ランディの恋の行方には、毎回ドキドキしながら読んだものだが、私個人の推しは緑のショタ聖マルセルくんだった。


 

 それは置いといて、旅の続きである。

 伊勢神宮はやはりありがたい所であったが、ちょっと創作においてピンと来る点はなかった。それにお伊勢さんをモチーフだなんて畏れ多すぎる。

 仕方なく京都・貴船へ。


 生まれて初めて訪れた貴船の地は、その辺のパワースポットと比べても抜きん出ており、そこへ行った私は強い衝撃を受けた。

 それだけではない。

 巫女、鳥の舟、龍神……夢の中に登場したモチーフ達に似たものが、多数存在するではないか。

 ここだ。

 私が見た不思議な夢の物語を小説とするならば、舞台は貴船だ。


 そうと決まれば貴船で小説を書こう!

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