第8話 狂乱の2015年

 この年はまさに私の前半生における、激動の年であったと言える。


 夏、生まれて初めて取り組んだ前向きな転職活動に成功して年収200万円台の企業を脱したこと。

 暮れ、実家の子供部屋を出て一人暮らしを始めたこと。


 そして邑楽ファームでの年間配当額が5万円を超えたこと。

 ついにシムが5万人。

 村は一気にシティ、そしてキャピタルへ――。


 まぁ以前も書いた通り、これが私の転落、終わりの始まりとも言えるのだが、当時はそんな気持ちは全く無かった。

 人生を自らの力で切り開き、村の開拓にもいそしむ村長。

 文字通りバラ色だったなぁ……今思えばホントにあの頃はね。メンタルも全然普通だったし、どうしてこうなっちゃったんだろうね?



 話を村に戻す。


 同年春。

 例によってサッポロさんから配当金が入る。

 優待品のビールも届く。

 たかが二回目なのに、もう小慣れたものだ。

 ゴリラは忘れるのも早い。

 最初のサッポロさんの含み損で強制的に鍛えられたせいでもある。



 この時点で保有する個別株は10銘柄。

 その全てが優待銘柄。

 もちろんその後に優待が廃止されたり改悪されたので売却した銘柄もある。

 それらの銘柄を諸々割愛させて頂いている点はお伝えした通りなので、ご承知置きを。


 その中でも、現在も保有を続けている実質『神』銘柄をご紹介する。



 芙蓉総合リース<8424>。


 私の保有銘柄の中で何がイチオシかと問われたら即座にこの子を回答するね。

 サッポロさんは無条件に好きだが、サッポロさんには申し訳ないけど投資先として一番魅力的なのはこちらだ。


 19期連続で増配を続け、配当利回りは4.0%(註:2024年9月28日現在)

 優待もカタログギフトを保有期間に応じて最大5千円まで貰える。

 要するに家族へのコメ用に購入したものだ。村はコメ畑ばかり広がる。



 なにより白眉なのは執筆時現在の株価は既に11,475円(今はもう少し安いよ)。

 4月には最高値となる14,310円を記録した。

 仮にこの会社がどれ程の優良銘柄だとオススメされても、必要資金が143万円だと言われたら躊躇してしまうし、今の私ですら、そうたやすくは手が出ないレベル。

 でも購入した当時は3,825円。

 まだまだ芙蓉たんは幼いヒロインだった。

 しかし今はハリウッド映画で主役を張れるくらいの東洋一の看板女優に成長した。


 上場済みの超大手企業であれば、発行株式数が数億株、数十億株も当たり前なのだが、芙蓉たんは業績や企業規模に対して、総発行株式が3,028万株程度と他の企業と比べても圧倒的に少ない。

 つまり少ないってことは一株あたりの利益や配当も相対的に大きくなる。

 業績拡大に伴い株価の高額化が進めば、上記の通り手を出しにくくなって株主の数も限られる、するとその旨味を享受できる人も限られる。



 最近はどの会社も余剰資金でするのは自社株買いばかりで、株主や従業員にいまいち還元されていないのではないか、という疑問も無くはない。

 一方、取得単価を引き下げて流動性を確保するための株式分割や、業務提携・協業にともなう第三者割当増資(新たに発行する株式を現物支給として、資金を調達すること)を行う例も多い。

 そうやって株の希釈化が進む中でも、頑なに高ギャラな大御所女優業に邁進されている芙蓉たんの姿勢にも好感が持てる。

 ちなみに私の購入時価での配当+優待の利回り換算は、既に12%に届こうかというレベル。

 余談だが、かの桐谷広人さんも8月初旬の暴落時に買わずに後悔した、となにかのコラムに書かれていた。なにせ投資歴40年、プロ中のプロである。以前も保有されていたのはその文面からわかるのだが、いまの桐谷さんは持っていないようだ。

 それだけで嬉しくなった。

 なんとなしに「お前も頑張ってるやんけ」と認められた気がした。



 まだまだある。


 新晃工業<6458>。


 こちらは百株でカタログギフトを3千円分貰える、同じくコメ用の優待として招聘した。ちなみに現在は2024年実施分より百株を一年以上保有して図書カード千円分になっているので注意。

 カタログギフトはあくまで2015年時点の話ですからね。

 なお図書カードではなく5千円相当のカタログギフトというランクもあるのだが、それを貰うには千株を保有する必要がある。


 新晃工業さんも大幅な増配を発表したことで、株価は一気に4,000円を超えてさらに5,000円の大台も見えてきた。

 私は1,249円で購入しているので、3バガー。

 つまり3倍株。いや、4倍になりそうだ。

 

 

 といった具合で、村も一気ににぎやかになった。



 いわゆる権利取り日(決算期に応じて定められた日に株を保有していることで正式に議決権や配当や優待の権利を貰える日)については以前ご説明の通り。

 この権利取り日から約2か月を経て議決権行使書が届き、株主総会が開かれ、そして念願の配当や優待が届くまでは最長で3~4か月ほど掛かる。


 なので、5月上旬にはだいたい2月期決算の会社が。

 そして6月上旬には3月期決算の会社の通知が郵送されてくる。

 


 日本では大半の企業が会計年度締めを3月末に設定している。

 なので6月は多くの会社から議決権行使書や配当通知、優待が届く。


 これを私は『春のパン祭り』と呼んでいる。

 いや、山崎製パンさんの株は持っていないが、シールを集めて白いお皿が貰えたりお菓子の詰め合わせセットを貰えるように、祭りのごとくある種の大規模なイベント、そんな空気を感じられるのが三月期決算企業の通知だ。


 世間的には梅雨に入ろうかという鬱陶しい6月。

 国民の祝日も無いし、徐々に気温も高くなっていって湿度も高くて不快だ。

 しかし、日を置くごとに各社から様々な郵便物が届く。

 これは嬉しい。

 ようやくサッポロさん一社という待ちの態勢から攻めの態勢へと変化していったのを実感した。


 もちろん春に対して、9月期中間決算の通知は『秋のパン祭り』。

 こちらはちょうど年末と時期が重なるのでなんとなくクリスマスプレゼントを頂戴したようで嬉しいものだ。



 そして6月下旬。

 待望の信金中央金庫さんの配当金(信金中金さんは分配金と呼ぶ)が入った。

 優先出資株6,500円を3口で、税抜き後の手取りは16,734円。

 シム(人口=配当金)はいきなりの1万円越えでシティ達成。

 続く目標は当然ながら5万都市、キャピタルだ。


 それからも芙蓉たん、新晃工業さん、KDDIさんと配当が続く。

 いや~、シムが3万人を超えたな。



 とはいえ、総額で3百万近い定期預金や貯金をブッ込んで投資をしたのに、まだ3万円しかもらえないだなんて。

 もちろん、銀行に預けている利子よりは殖えているけどさ。

 だけど、含み損で精神を消耗したり、売ったり買ったりのタイミングで一喜一憂したりといった投資特有の苦労にはまだまだ慣れないのも事実。

 こりゃ50万都市メガロポリスなんて何年かかることやら。




『複利は人類最大の発明である』

 かのアインシュタインの言葉だ。


 

 貰った配当金を原資にまた次の銘柄を買う。

 するとその子も配当を生む。

 そしてその配当でまた次の銘柄を買う。

 そしたらその子の子も配当を生んで……という作戦だ。

 が、3万円で買える銘柄なんて限られているのさ。


 今でこそ単元未満株(決められた取引株数じゃなくても端数から買えるもの。証券会社によってS株、ミニ株、ワン株等と呼称は様々)で百円ほどから気軽に株を買える時代となったが、当時はその単元未満株取引もなかなかの手数料だった。

 なので給与から余剰資金をコツコツと貯めては、また一銘柄まとめて買う、といった具合に非常に時間を掛けていた。

 

 雪だるまを転がしたら自重でどんどん大きくなってると実感するのは、まだ先。

 やっとこさ、細雪から本降りとなり、小さな雪玉を精一杯握っては、かき集めた雪を付着させて大きくさせていくといった感じだ。


 春のパン祭りを終えたあと、私はまた世を忍ぶ仮の姿に戻り、会社と自宅を往復する日々を続けた。


 もちろんそれだけではない。

 春から初夏にかけての最初のヤマ場、転職活動が控えていた。

 村を振り返れば私が盛大にメンタルを壊したその会社へと、でこぼこの畦道は進んでゆく――。

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