第1話 オラ銀座に山買うだ

 投資をすべきか。

 投資は危険な行為だから忌避すべきか。



 さて、そうやって悩んでいても仕方ない。

 やるか、やらないか。

 だとしたら答えはひとつ。



 私は既に投資を始めていた友人や親きょうだいのアドバイスをいくつも受けてようやく重い腰を上げて、投資を始めることにした。



 子達が次々と投資を始めることに母はあまり乗り気でなかった記憶がある。

 結果として私は母とは異なる金銭感覚を独自に養い、投資という道を選んだ。

 やはり親からのお金の教育があるか否かで子にも影響をするし、マネーリテラシーは環境に起因すると思う。



 一昨年に発生した東日本大震災の混乱も落ち着いて、日々の生活を取り戻していた頃だ。

 まだ世間には『老後二千万問題』『FIRE』といった言葉は無かった。

 あの有名な個人投資家でプロ棋士の桐谷広人さんもメディアに露出し始めた頃で、投資とはまだまだ一部の限られた裕福な人がするものという感覚だった。



 しかし、いきなり始めると言っても、何の知識も経験もない。


 なので私は短期売買で利益を狙う『投機』ではなく、細く長く資産を大切に育ててゆく、『長期投資』を実践してみることにした。

 毎日、細かい売買を繰り返したり、信用取引やFXで大きく儲けようなんていうセンスは私には無さそうだからだ。心の根っこはズボラだし。

 投資だけで暮らせる専業投資家は、当時はまだ夢のまた夢だろうって感じ。



 とはいえ安月給を補うなら、生活費の水増しをしてくれる配当金(業績や利益に見合った分配額を出資者である株主に還元するもの)や株主優待(自社の株を長く保有してもらい経営資金を安定させるために、株主に対して自社製品や金券類をプレゼントすること)をゲットしようじゃないか、と決めた。



 ご存知の方も多かろうが、某アイドルグループが番組内で東北・福島の地で荒地を開拓しながら、『日本地図に実際に村の名前を載せよう!』という企画を1995年頃からテレビで放送していた。

 私も特にこのコーナーが好きで視聴していた。


 何故だろう、開拓というのは男の血を熱くさせる。

 男はいつだって少年であり勇者であり海賊王だ。


 私も休職していた2020年頃や、執筆が全くできなくなった昨年は本気で社会的な引退を考えており、YouTubeで山の開拓や古民家再生に勤しむ動画ばかり観たり、各地の自治体が運営する空き家バンク、土地や建物の売買を手伝うフィールドマッチングサイトを閲覧していたものだ。

 今思えば、そこで焦って中途半端なFIREを目指さなくてよかった。

 急いては事を仕損じる、とはよく言ったものだ。

 私にはまだFIREをする環境や投資が不十分。

 じっくりと資産を育てて空気を醸成しながら、いつの日か高らかに宣言したい。

 仕事は辛いが、もう少し頑張る必要がありそうだ。


 なお、上記のアイドル番組では村の名前を地図に載せるという趣旨はいつの間にか消えたものの、番組名物の長期企画となったが、残念ながら先の震災で福島は原発事故に伴う甚大な被害を受けてしまい企画もストップしてしまった。



 いやいや、だったら僕が自分で村をつくるよ。

 自分だけの邑楽おうら村をつくるから。



 VR開拓おじさんは土地を購入することにした。


 ここで私だけの理想のカブ畑の村を作ることにしよう。

 そこにはたくさんの収穫物すなわち配当金や株主優待が届く私だけの邑楽ハウス。

 私はそこの村長になるんだ――と。



 当面の目標は、初代スーファミゲーム『シムシティ』になぞらえて、ヴィレッジ(村)から初めて、目指すはメガロポリス(大都市群)。

 ゲームでのメガロポリスは人口50万都市。

 シム1人は1円換算。

 つまり、配当金収入だけで年間50万円を目指す(優待は計算に含まず)。

 そんな村さオラ作るだ。


 人口統計によると、全国の50万都市は約52万人の東京都江東区、続く51万人台の栃木県宇都宮市、愛媛県松山市。

 都道府県なら鳥取県全域で約53万人。

 メガロポリスの首長はすなわち知事レベルだ、夢があるではないか。




 ところで余談ですが、投資を始めたばかりの方には、先日の歴史的な値動きの最中で相当不安になられた人もいらっしゃるでしょう。

『新NISA損切り民』

『損切り復活民』

『寝金増(ねきんぞう=寝ている間に資産価値が変動して利益を得ている)』

 なんて言葉も登場したくらいですから。

 

 これが投資を始めたばかりの私の身に降りかかったらと思うと、あまり偉そうな事は言えませんが。


 もしあなたが損を出している状態で仕事や家事も手に付かなくなったりしたら。

 いったいどうしたらよいのか?

 だったら放っておけばよいのです。

 一旦、投資を始めたら、もうそれは預金や家計費とは別モノの支出と考えておくのがベターでしょう。

 一朝一夕で資産は作れないし、株や投資信託の値段は動くのが当然ですので。


 売れば損も利益も確定してリセットされますが、そこで一度終わります。

 それを元手資金にしてまた次の銘柄を保有して、仮に利益が出た時に売れば、どんどん資産は増えていくでしょうが、中長期で資産形成するという視点においては、明らかな損失です。

 なぜなら売った瞬間にそれは単なる流動性資産と同じものになるからです。

 マーケット全体が既に値上がりしている状況で高値掴みをして、そこからさらに短期的な値上がりを狙って勝ち続けるとなると、もはや超能力の世界です。

 もちろん2024年8月上旬のような一時的な乱高下もあるでしょう。

 そう考えれば、短期売買はタイパと精神衛生が悪いです。



 こんな私ですら証券サイトや四季報、経済新聞などを読み込んでいます。

 桐谷さんや他の資産家の皆様も語られていないだけで、日々の大変な研究とご苦労があると拝察します。

 いずれにせよ、あらゆる場面で金融・経済に関する情報に接する機会を設けた方が良いかと思います。


 などとずいぶんな能書きを垂れましたが、何故なら私自身がしっかりと『お勉強』させられたからです。それは次回にでも。




 それはさておき。


 卑屈で怠惰で、自己肯定感も年収も低いダメ人間は果たしてメガロポリスの村長になれるのか。

 決して投資の失敗談ではない。

 かと言ってサクセスストーリーでもない。

 まさに『富裕層』や『億り人』や『FIRE』をナウ・オン・目指すおっさんがジタバタする丸裸のノンフィクションであり、カブ農家から村長へという開拓一代記でもある。




 私が立つのは、あたり一面見渡す限りの大地。

 しかし、雑草が繁茂する何もない荒廃した野原。

 視界の先には累々と居並ぶ急峻な山の頂と稜線。


 2013年11月。ネット証券口座、開設。

 ここが私の「村」の始まりだ。

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