序の2 「印税が無いのなら不労所得を得ればいいのよ」


 つーかそもそも最初から普通のおっさんなのだ。


 一時期、創作や執筆に夢中になっていただけのこと。

 その熱量は若干減少したものの、やはり想像と創造は楽しい。

 自分はぼんやりしている時間が一番好きなのもよく知っているから。


 なのでカクヨムさんや執筆そのものから完全引退宣言ではない。

 現にこうやってエッセイを書いてるわけだし。

 いつの日かエタった作品もキチンと完結させないといけないとは思っている。

 それはむしろ自分に対するケジメと言った方がよろしかろう。



 じゃあプロ志向をやめたのか、お前は自分の才能の無さに気づいたのか、執筆に対してその程度の熱量で取り組んでいるのかと言われたら、申し開きのしようがない。

 ただ趣味で創作を始めて、折に触れていろいろ評価頂けるので、ズルズル来てしまったというのがひとつ。

 そして自分の中で人生における創作と作風の向き合い方に気がついた途端、腑落ちしたというのが正直なところ、というのがもうひとつだ。


 そりゃ若い子みたいにポンポンと作品が浮かぶという訳ではないの。

 しょうがないのさ。

 おっさんはキミたち若者みたいに、割ける体力と気力が根本的に違うから。加齢という時間軸を受け入れてその時その時を存分に楽しむというものだよ。


 でもそんな私だって、執筆はこれからも続けたいと思える趣味に育った。

 じつは高校生から三十代半ばまで20年間ピアノを習っていた。

 クラシック、ポップス、そして大好きなビートルズ、アニソンといろいろ弾いているうち当然のように作曲ってものを試してみる。

 執筆ほど上手くはいかなかったけどね。

 私は内に秘めたモヤモヤをこねくり回して、何らかの形として外に出すという作業を好む、常にクリエイトしていたい人間なのだろう。


 それに旅行好きなので、またどこかの町にふらっと寄ったら、そこの景色に一目惚れして創作のアイデアが湧いてくるかもしれない。

 私が良くやるモチーフお借り系の作品だ。

『神まに』は京都、『あのすき』は群馬といった具合に。

『おやき』も旅行エッセイではあるものの長野県。

 それを書いてる間は楽しいし、公募に出せば選考期間中もソワソワできる。

 自分で自作を聖地化すれば、そのうち日本じゅうを旅できる。

 いわば自分でワクワクの燃料を投下し続けるマッチポンプだ。



 あとは、私という人間は決してメジャーではないというのが自分でよくわかった。


『おやきエッセイ』も公式がレビューしてくれたので、まだ皆さん勘違いしてくれたが、あんな旅をガチでしかも独りで敢行してしまう狂気を私は孕んでいる。

 だから、公式レビューされるまでは数十PV、星もハートもフォローもほぼ皆無。 

 そういう意味では、レビュー以前に既にエッセイを応援頂いた方はお目が高い。

 インディーズ好きな方は、やはり一定数いらっしゃるのも頷ける。



 まぁそこはともかく私のメジャーではない問題に話を戻す。

 それはエッセイ以外の作品にも顕著に現れている。



 つまるところ、長編を投稿する際にカクヨムさんで最初に悩むのが作品のジャンル分けだ。

 そもそもラブコメなのに地の文三人称を当然のように選択したり。

 現代ドラマというほどゴリゴリの現実感もないし、現代ファンタジーと言いたいところだが登場人物はごく普通の市井の人々であり、主人公の高校生たちが不思議な目に遭うだけ。

 だったらSFかと言われると違うような気がする。

 それなら主人公が少しでも怖い目に遭えばホラー、申し訳程度に謎解き要素があればミステリーかと言われたら「いわゆる」王道ものでもないので、それを期待されているファンの方はガッカリするであろう。

 けっきょく自分はどこにもカテゴライズできないし、どのジャンルにも分類されない微妙なものを書いてるだけのやつなのだ。

 これで評価されようなんてのが私の勘違いだということよ。



 売れ線のメジャーである必要は無いし、ソリッドヒットを放つ必要も無い。

 敢えてレッドオーシャンに行く無謀さも要らない。

 わかる人だけわかってもらえればそれで良い。

 それにプロならではのしがらみも関係ない。

 アマチュアでしか書けない私だけの作品でもあるのだから。




 いつの間にか私の執筆の動機は、夢の印税生活から逸脱しつつある。

 いや『常軌を逸していた』のがアマチュアらしく正しい道に戻ったと言うべきか。

 敢えてのカクヨム断ちを半年以上していたら、むしろ落ち着きを取り戻し、どこか逆に新鮮さを感じつつもある。


 それにしても夢の印税生活って、いったい幾らだろう?

 

 統計局が2021年に公表した世帯別支出金額の平均は約23万円であった。

 なので一年でおよそ三百万円を家計費の目安として仮に決めておく。

 希望小売価格680円のライトノベルから印税として10%を受け取るとすると、必要な刷りは5万部。なかなかのヒット作だ。

 でもこれ一冊で終わりじゃない。

 その年はそれで良いだろうが、これを何年も何篇も続けなければいけない。

 やっぱプロはすごいよ。


 しかしそういう意味では会社員っていうのも、なかなか強い。

 自己犠牲の精神で年間240日、身体を切り売りすれば、雇用されている間は給与が保証されるし、社会保険費も会社と折半。

 年一回、健康診断まで受けさせてくれる。

 オマケに国民年金に加えて、所得に応じた厚生年金が加算される。




 じゃあやっぱり会社員で充分だな。

 うん、良かった。


 完。



 という話じゃダメなの。

 おっさんはサラリーマンを続けることにぼちぼち疲れているのだから。



 だったら印税や給与に置き換わるものとして、不労所得を得られればよいのだ。

 すぐに思いつくとしたら、やはり投資だろう。

 投資なら仕事しながらのスキマ時間で出来るし、配当金や売却益は本業以外の収入となる。これなら実現可能だ。


 もちろん『FIRE(Financial Independence, Retire Early 経済的自立・早期引退=資産形成による仕事からの解放)』が最終目標ではあるが、それは往々にして実現が容易ではないことも理解している。

 でも投資を始めない理由にはならない。

 ならばやってみるしかない。



 今でこそ新NISA制度が始まり、総資産が億を超えるような著名な投資家も折に触れてインタビュー等で投資法を披露しているが、彼らは既に成功者である。

 いわば投資家としても完成されており、すごろくでは『ゴール』に居る人達だ。

 桃太郎なら鬼退治を終えて金銀財宝を持ち帰った『めでたしめでたし』の後の人達である。

 そんな元・桃太郎さんが鬼退治業で成功し引退された後の今の近況を語ったところで、これから蓄財にいそしむ予定の素人の投資家にはサッパリだ。

 今まさにFIREに向けて頑張っている同士の話を聞きたいのだが、どうにも世間でもてはやされるのは、そうした成功者のご意見ばかり。

 仕方ないので、自分でここに記録することにした。



 ちなみに本稿を最初に執筆したのは2024年8月11日(日)。

 日本銀行は追加利上げを発表し、対する米国では経済指標の弱さから景気後退局面入りを懸念。一気に株価は下落。

 2日(金)の日経平均は1987年のブラックマンデー以来、史上2番目の下落幅となるマイナス2,216円を記録したかと思えば、翌週5日(月)にはこれをアッサリ更新して史上最大のマイナス4,451円。

 かと思えば明けて6日(火)は大幅反発し、これも史上初となるプラス3,217円。

 ここから日経平均はゆるゆると戻り基調となった。


 ところが翌月の9月4日(火)には再び1,638円のマイナス。 

 そこから4営業日連続で下落し、本日8日(日)時点で日経平均先物はマイナス1,210円。

 まるで先月のデジャヴである。


 来週も波乱含みの展開となりそうだ。

 市場はまさにジェットコースター。


 じゃあ投資も危ないんじゃないの?

 不労所得なんて簡単に作れる訳がないんじゃない?



 そんなことはない。

 私は、市場の混乱など気にもせず田畑を耕していた。

 何故なら既に開拓は始まっていたから。


 カクヨムや執筆を始めるよりもずっと前。

 時間は2013年秋まで遡る――。

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