第12話 メトロポリスへの道
投資を始めて3年半。
そしてひとり暮らしを始めて3か月。
2016年5月~6月。
村は収穫期を迎えた。
待ちに待った春のパン祭り到来だ。
まずはそれに先駆けて2月期末決算である吉野家さん、きょくとうさん、ビックカメラさん。
(厳密にはビックカメラは8月期決算なので、2月はいわゆる中間決算ですよ)
村は大麦畑、米畑を経て畜舎を建築。
さらに水路と水車を造成し、それで脱穀や洗濯や発電までできるようになった。
そして翌月の3月期決算は、直前で畑に植えたニプロさんがデカい。
やはり一千株のインパクトは大だ。
さらにおなじみ信金中央金庫さんも強い。
芙蓉たんも徐々に増配していたが、まだこの年は税引き後4,144円だった。
それでも着実にキャリアを積み、芸能界でスターダムをあがる芙蓉たん。
現在価値を考えれば、これもある意味、先物買いなのだろう。尊い。
株主優待を導入している銘柄のほとんどは最低単元数、つまり百株持っているのが一番、利回りが良い。
保有数に応じて優待がランクアップする銘柄でも、比例的、趨勢的に優待額面までもアップする企業というのは割と限られている。つまりたくさん株を持てば持つほど優待利回りが低下するので、出資費用に対して見合う金額にならなくなる。
だけど、やっぱ株主として期末の議決権行使の際に権利行使「1個」っていうのはなんか申し訳ない。
多数決であーだこーだ言う議案に対して、1票しか保有していないのだ。
対するニプロさんは一千株なので、議決権は「10個」。
これなら、なんとなくドヤっと出来る。
そんな余談は置いといて、春のパン祭りが終わった時点での配当総額は55,229円。
まだ半年だというのに、あっさりキャピタルを抜いた。
こりゃあ年内にも10万都市、メトロポリスになるのではないか?
配当と優待に囲まれながら、私は一服の幸せを堪能していた。
さてさて。
それでもひとり暮らしは何かとコストがかかる。
なので少しでも生活費を切り詰めて、いくらかでも証券口座に回したい。
だから月々の生活費を決めた。
毎月、給料日になったら一括で生活費をおろす。
財布にお金が無くなるたびにATMに行ってては家計が管理できない。
だから食事もだんだん無頓着で節約的な感じになってきた。
それでも最初はきちんと調理をしていたんだってば。
ひとり暮らしあるある。
最初は実家の膨張気味だった家計にウンザリし、大量に作っては食べきれずに廃棄する母の料理にウンザリしてて。
勿体ないからと傷む前に食べきったら、また母は気を良くして大量に作る。
それに対して文句を言っても、
「ちゃんと食べてるじゃないのよ」
こうやって平行線の議論を辿る。
うーん、そういう意味じゃないんだけどなぁ。
なので、肥え太った食費と体形を戻すことから始めた。
お豆腐、ひじき、サラダという晩御飯で乱暴に6kgのダイエットに成功した。
それが終わったら少しは自炊をするようになったのだが。
たまに残業があったり仕事で疲れると、平日は家事がめんどい、ということでチンする冷凍蕎麦になり。
土日は少し調理するが、焼く、揚げる、炒めるといった行為はガスコンロの油跳ねが気になって仕方ない。
レンジフードの掃除も手間だ。
そのうちすべての料理は『煮る』で完結するようになった。
水を張った手鍋にお醤油とみりん。
そこに野菜をなにか一品。
さらに牛・豚・鶏・魚のいずれか。
煮えてきたらアクを取って、最後にヒガシマルのうどんスープの素。
これだけ食べてきた。
もはやお出汁を取るとか、冷蔵庫に調味料をたくさんラインナップしておくというのすら無駄だと気づいてしまったのだ。
でもズボラも言い換えれば節約ってことでいいじゃない。
いっぽう仕事中のランチは、まだ吉野家さんしか保有銘柄が無い。
私は外回りがあるし、昼食の時間も客先のアポイントや現場の状況によって変わるのでバラバラだ。だから手作り弁当を持参するというのも難しいし、既にズボラ飯のスキルを得てしまったから、凝った弁当は作れない。
今後はランチ事情も鑑みて、お食事券系の優待銘柄を揃えていくか。
そんな中で細々と貯金を続けて、どうにか購入できた新規の銘柄がある。
マツキヨさん等で使えて、日用品の支出を抑えるクオカード銘柄だ。
明光ネットワークジャパン<4668>。
学習塾でおなじみ『明光義塾』のあそこ。
百株だと500円のクオカードを貰えるが、これが三年以上保有しているとプラス千円で、1,500円となる。
こちらもまた生活費の削減になるであろうと購入したものだ。
それでも当時の購入価格で99,000円である。
一人暮らしをした途端に、給与からの余剰資金も目減りするものだから、入金力もガクッと下がり、投資に回せるお金はほとんど生まれない。
だからこんな(と言っては明光さんに失礼だが)中小型株しか買えない。
快適な一人ライフを満喫しているものの、肝心の村の開拓では如何ともしがたい現状を突きつけられて、なんとなく停滞していた。
だが、ここでじっと我慢が肝要。
焦って投資手法を変えたり、妙な手を打って失敗してもいけない。
動かザルことゴリラのごとし。
最初のサッポロさんでの冬枯れ相場を耐えきったゴリラ村長は、平常時は気にせず開墾を続けるのみと自身に言い聞かせて、村役場で機が熟すのをじっと待ち続けた。
さて、これまでご紹介した株取引は、基本的には優待株を中心に現物でホールドするという前提で書いてきたが。
私だって欲が有って少しは投資スタンスがフラフラしてきた。
株価の上下や売却益を狙って、短期の商いをしたことだってもちろんある。
そんな中で自戒を込めてご紹介する銘柄がこちら。
カナミックネットワーク<3939>。
自治体、医師会、介護事業者向けクラウドサービスを手掛けている会社。
有料会員登録した医療関係者に向けての情報発信サービスをしている。
まさに父母の団塊の世代がいよいよ高齢化・終末期を迎える社会に向けて、
「これからはきっと『医療×IT』やろ!」
と思って、すぐに買ったんだ。
そして2016年当時、26万円が29万円になったので売った。
3万円の儲けだ。
だがカナミックさんは時流に乗り拡販を続けつつも、強気に、
・2016年11月に株式を2分割
・2017年8月に同3分割
・2018年4月に2分割
・2019年9月に3分割
つまり当時の百株が2,400株にミトコンドリア大分裂したのだ。
テレビ番組『クイズダービー』で司会の大橋巨泉さんが「倍率ドン、更に倍!」って感じに増えた。もしくは土居まさるさん司会の『ヒントでピント』で16分割的に分かれていったとも言える。
これをガチホールドしていたら、当時の26万円は今135万円になっていた。
それをたった3万円の利益で私はホクホクと売却していたのだ。
まぁカナミックさんは当時、優待は無かったし(現在は買収した系列スポーツジム利用券と、抽選で10名の株主に20万円分のギフトカードが貰えるという宝くじ的なもの)。
そりゃ短期売買に似た行為なんだから、利益が出たら売るよね。
なので、カナミックさんは自戒を込めて今も百株だけ保有している。
総発行株式は4,800万株と芙蓉たんより分裂しまくったので、もうミトコンドリア分裂する可能性は低いだろうし、今は業績拡大に向けて頑張っておられるだろうから、私は百株だけ保有して、自身への戒めとすると決めた。
ゴリラならば短期売買するな。
買ったのならばカナミックさんになるな。
なのでカナミックさんは優待枠とは違う別枠扱いで今も保有している。
損も益も気にしない。
もう分裂しないかもしれないけど、なんとなく保有しておく。
そして保有することで当時の自分を叱責するという意味で。
ま、開拓という意味では村のシムにも、お医者さんが居てもいいでしょ。
売買で損が出たりお得な情報を見逃して機会損失していたときに、治療してくれる心の医者ってことで。
などと多少の回り道はあるものの、一人暮らしで細々と貯金をしながら、どうにか金融資産を増やせないものか、生活費を浮かせて村への入金力を増やせないものかと四苦八苦していたんだ。
それでも会社の規定で夏休み(別に夏じゃなくても、定められた期間内に大型連休を取ってもいいよというもの)はある。
幸いにも前職、現職と一週間ぐらいの休暇は問題ない風潮だった。
それまでも私は年一回の楽しみとして、本州各地を旅してきた。
地獄の24回払いローンをした愛車、トヨタのラクティス『ラク太郎』と共に。
今回もそれができそうだが、なにせ一人暮らしを始めたばかりの身。
投資に回す資金も欲しいが、夏休みだって欲しい。
せっかくの休暇をアパートでゴロゴロするのは勿体ない。
なので旅をしながら、節約できる良い休暇は無いかと思案していた。
「旅をするにもガソリン代や宿代がかかる。だったら食費を抑えればいいんだな」
しばらく悩んだ私は、その年の夏休み休暇を長野県と決めた。
そう。
『アレ』を食べ続ければ節約になるだろう、という軽い思いからであった。
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