第11話 干物になった2016年
2016年2月より始めたひとり暮らし。
なんだい、自分ひとりの家計なのに、生きるってこんなに金がかかるのか。
爪に火を点すような生活とまではいかないが、それなりに節約しながらやり繰りしないと、貯金はおろか村に回す資金すら無いじゃないのさ。
まだ入社一年目なので、昇給も望めない。
なので当面の目標は質素倹約だ。
本当にお恥ずかしながら洗濯機の回し方も、料理でお出汁の取り方も知らなかったボンボンの私。
生きる事はすなわちサバイバルなので、全てこの時に学んでいった。
さて、その頃の村の様子である。
幸いにも職場の近くに吉野家さんがあったので、優待のお食事券で昼食代を節約できた。
リコーリースさんのようなクオカード系優待もありがたい。
マツキヨさんで日用品を買えるからだ。
逆に、実家を出たばかりにカタログギフト系優待を持て余してしまう始末。
最初は家族のためを思って全て米にしてきたというのに、一人暮らしならそれほど米は要らないんだよな。
仕方ないので、バスタオル、洗剤セット、玄関マットを貰う。
節約のために週末に楽しむ晩酌のウイスキーも選んだ。
これはモルトとグレーンの混合酒。
いわゆる焼酎の甲乙混合みたいなものだ。
死ぬほどマズかった。
どこの会社でどの値段のカタログギフトかは申し上げないが、優待は生半可な商品を選んではいけないと察した『お勉強』であった。
しかしこれら優待のおかげで、初期費用やランニングコストを抑えられた側面もあるのは間違いない。
ちなみに、この頃に私は今の投資スタイルである『現物保有で優待と配当利回りが3.4%超えたらOK』ということにした。
かの桐谷さんは上記4%をご自身に課していらっしゃるようだが、なかなかに配当利回りに優待利回りを足しても4%という銘柄を探すのは一苦労。
私の3.4%という数字は、
「30年経てば配当金と優待で元本をペイできる。その間にもし上場廃止か非公開化が起きなければ、それ以降は全て儲けになるし、必要に迫られて売却したとしても、いくらかは優待と配当を貰えたので、大きな損でなければ構わない。仮に損になっても損益通算できれば節税になるのでオッケー」
というスタンスだ。
これは投資を始めた時の自分の年齢、三十代前半から健康寿命とか就労年齢を逆算してみて30年くらいならいけるだろ、ということ。
まだ当時はFIREとか考えてなかったし。
でもこのくらいなら銘柄探しのハードルも少し下がるだろうと思った。
なので大儲けしても売らないから利益確定しないし、大損してても売らないから損にもならない、という私の現物保有至上主義に到達したワケ。
最近は優待が廃止か縮小されても、増配による還元が行われる、もしくは含み益が出ているのならばと、すぐに他に乗り換えたり売らなくなった。
強靭な握力でとにかくホールド。
私が投資家仲間からゴリラと言われる所以が、この頃から形成されていった。
しかし改めて思うんだけど。
この投資用語で強握力を指す『ゴリラ』って考えてみれば中々に失礼だよなぁ。
いやもちろん端的かつ的確な表現でゴリラなんだけどさ。
他に言い方無いのかな?
『スプリングホルダー』とか『アンカーキャッチャー』とか。
そんなことは置いといて、話をアパートの暮らしに戻す。
とにかく家財道具一式を揃えないといけない。
前年に株主になったばかりで、まだ優待の届かないビックカメラさんに行った。
それでも私が購入すればビックさんの業績になる。
一番上の高層階フロアから順に降りて、全ての家電を購入してまわる。
その都度、店員さんに声を掛けてゆく。
邑楽「ぜんぶビックさんで購入するんで、いくらかお値引きできないですか?」
臆病で人見知りの私が、こんな交渉をできるようになったのだ。
やっぱりおっさんは強い。
厚顔無恥とはまさにこのこと……いや、これは加齢によるものではない。
私は逞しくなったのだろう。
うん、きっとそうに違いない。
この時に貯めたポイントもまた、マッサージチェアへの道のりとして大切にとっておいた。
まだ株主ではないが、ニトリさんでは小物類や寝具を購入した。
こっそりネットで買った株主優待券でね。
いつかこちらの株主に、と思っているうちに株価はあれよあれよと上昇してしまいおそらく今は220万円くらい必要なのではないだろうか。
もう気軽に手を出せる状態ではない。
当然ながら利回りも、言わずして然るべし。
私がニトリさんの株主になった時、村は本当にリッチになったという証拠だ。
だから失礼ですが、今もニトリさんにはおいそれと、お邪魔できない。
一市民の私の売上が他の株主に吸い取られてしまうから。
株式投資を始めると、そんな気持ちで『出資してる企業が儲かるか否か』を最優先に選択してしまうのが不思議なものだ。
といった感じでしばらくは文字通りの火の車。
ビックさんとニトリさんの家電や家具のクレジット決済も迫る。
生活費で給料もカツカツ。
証券口座に回す余剰資金なんてある訳も無い。
なのでこの年の冬~春にかけてはニプロさん<8086>しか買えなかった。
医療機器メーカー。
グループ内には製薬事業もあり。
もちろん株主優待もある。
しかも一千株。
5年以上保有していればJCBギフトカードがなんと1万5千円も貰える。
スーパーでも家電量販店でもドラッグストアでも使える。
これはありがたい。生活費の補助になる。
全部で120万円くらいかかったが購入できた。
「いや邑楽お前、いま金が無いって言ってたろ!」
もちろんそうですってば。
なので前年に3分割されていたKDDIさんの2百株を売却していた。
第7話の『ミトコンドリア作戦』だ。
KDDIさんを百株持っていれば優待のグレードは変わらない。
3月の権利取り日を前に、株価がだいぶ上がったのでまずKDDIさんを売却。
それから次にニプロさんを買い増しする。
他にも「優待が微妙だな~」と売却した銘柄等で資金作りにいそしむ。
ということで3月末の権利取り日。
KDDIさんは百株権利ゲット、ニプロさんも一千株権利ゲットした。
文字通り青息吐息だったが、なんとか金銭をやりくりできた。
一旦は買い増ししていたものの、引越し資金を作るために泣く泣くお別れしていたのが実はニプロさんだった。
でもたったひと月で寄りを戻した。
我ながら、もはや執念の一言に尽きる。
それほどニプロさんの優待は魅力的だったんだなぁ。
しかし、ニプロさんは少しでも前述の保有基準から陥落すると、優待のグレードが下がってしまうシビアな一面もお持ちだ。
つまり一千株ならば一千株をずっと5年以上、未来永劫、保有し続けなければいけない。
これも以前お伝えしたが、同一の株主番号で一千株を維持することが必須。
損が出ていたら一部もしくは全部を売却し、また買い戻して取得単価を下げる『売りナンピン』作戦は通用しない。
「はい、あなた一千株保有ではなくなりましたね」
と、ニプロさん基準でアウト宣告される。
その基準日も年4回あるらしいのだが、とにかく一千株未満にはしないようにするため戦々恐々である。
だからもし含み損が出ていたら、とにかく百株、二百株と買い増しするナンピンをするしかない。
私お宮が熱海の海岸で泣いてすがっても、貫一ニプロさんにアッサリと砂の付いた下駄で足蹴にされる始末。
なので貫一の顔色を窺うお宮なのでありましたが――。
まぁニプロさんったらこの8年間、業績も株価も配当も乱高下したのよね。
医療機器や製薬の技術は日進月歩だし、研究費用もかさむ。
我々庶民がそのありがたい技術の恩恵を享受しているのも日頃のご苦労の賜物だと理解はしているものの。
そのたびに何度金策し、何度ナンピンしたことか。
まさに夜叉のそれ。
ちなみにニプロさんは後に入門編として、
「3百株を一年持ってくれたら同ギフトカードを千円ぶんあげてもいい」
という優待を新設した。
新NISAと共に個別株の投資にも興味があるというお宮の皆さんは、このあたりのソフトモード貫一あたりから攻略していくのがオススメである。
ただし先述のとおり貫一は株価や業績の乱高下も辞さない。
今は株価も一本調子で昇り続けるが、いつまた夜叉の顔を出すかわからない。
おまけにNISA口座では損益通算できないのも、お伝えしたとおり。
さて、お宮の皆さんは貫一をどう攻略されますでしょうか?
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