第4話 我が家のコメ騒動
さて。
サッポロホールディングスさんの作付も二年目に入った。
だとしたら、次は何をすべきだろうか?
まだ実家暮らしであった私は、すぐにピンと来た。
そうだ。あって困らないものは米だな、と。
その頃、初めての投資で株主優待や配当金を貰った私はサッポロさん一銘柄だけで浮かれていた。
初っ端から含み損を抱えて狼狽していたのもどこへやら。
家族に「こんなに効率のいい資産運用は無い」と喧伝していたのだ。
2014年頃の普通預金の金利は、およそ0.02%だった。
現在の金利は、日銀のマイナス金利政策でずっと0.001%辺りで低空飛行していたものの、2024年8月、利上げ発表を受けてようやく各行とも徐々に盛り返してきた。
大手三行や、ゆうちょの普通預金口座でだいたい0.1%~0.2%。
ネット銀行ならもう少し良くて0.3~0.5%って感じ。
でも当時は百万円を預けても一年間で利子が200円にしかならない。
そこから税金を引かれると160円だ。
こうなると銀行に預けているのがもったいない。
昔は普通預金でも金利が7%あって、定年退職した人は退職金の金利だけで食えたらしい。
そんな普通預金が息絶えた今だったら投資して配当利回り3~4%ゲットできる方がいいじゃないのさ。
でも、投資に傾倒する私を快く思っていなかったのが母だ。
私がサッポロさんでの成功に味をしめて、定期預金を切り崩してまで株を買い増ししようとしていたので、母が苦言を呈してきた。
「それで損したら元も子もないからやめなさい」
無論、株はリスク商品ではある。
サッポロさんでもいきなり含み損を出したけどね。
確かに購入した会社が上場廃止したり、経営が傾いたり、それによって配当が無配になるとか、優待品を廃止するとか、何も起きないって事は誰にもわからない。
でもそれで素直に言われた通りに投資をやめる程、私は母に依存していない。
同居の親子だって極論を言えば、思考を異にする他人の集合体である。
私は私らしくもっと投資がしたい。
だとしたら、どうすれば母を説得できるだろう。
これは目の前でちゃんと「この額を使ったら、こういう収支になって、これだけのリターンがありました。もちろん値下がりはしますが利確(売買)しなければ損もしません。だから投資は安全ですよ」って報告するしかない。
それも目に見える形で。
私はさっそく、畑に降り立った。
サッポロさんのために作った大麦畑の隣は、稲作の準備だ。
日本人ならコメがあって困ることはない。
村には次にコメを植えていこうではないか。
2014年晩夏。
最初の田植えの季節がやってきた。
実際の農業ならばとっくに稲刈りの季節だが、投資はタイミングさえ合えば時期は関係ないのが良い。
まずは優待品として直接コメが貰える銘柄。
そして優待がカタログギフトで、選択肢からコメも選べる銘柄を選定した。
信用中央金庫<8421>(カッコ数字は証券コードという背番号みたいなもの、以下同様)。
各地にある信用金庫の親分で、全国の信用金庫を束ねるボス。
ここは優先出資株と言って経営にあーだこーだ言える議決権が無い代わりに、少しばかり利益を上乗せしてお返ししますね、というものだ。
当時の価格でも1株(口)で201,800円。かなり割高。
でもそれを3株持っていたら3千円のカタログギフトが貰える。
優先出資株の分配金も1株あたり6,500円と大きいので、これは一気に村の造成にブーストがかかるだろうと期待して3口購入。
さらに、日本管財(現:日本管財ホールディングス)<9347>。
建物の管理、運営、保守、デベロッパーまでする会社。
ここもまたカタログギフトが百株保有で2千円(3年以上保有したら3千円)の物がもらえる。オマケに日本管財さんは豪気で年に二度、3月と9月の決算の度にカタログギフトをくれるのだ。
さらに配当金も年に二度入る。当時の配当は半期で22円だった。
年間配当44円にカタログギフトの値段を足して、84~104円なら、利回りとしては最大3.7%を超える。
これはありがたい、といずれも充分な選別のうえに購入した。
あとはもう一銘柄。こちらのご紹介は次回で。
こうして出来上がったコメ畑は三銘柄。
全体として百万円近くは使った。
低所得こどおじが細々と貯めた定期預金を解約してまでの村の開拓である。
さてさて。
すっかりと株にのめり込む私を相当に訝しんだ母親であったが、その年の暮れ。
9月期中間決算を経て日本管財さんから最初の株主優待が届いた。
まずは2千円ぶんのカタログギフト。
当然そこから2キロの銘柄米を選ぶことにした。
家族みんなで食べた2キロのコメはあっという間に底をついた。
そしたら母親がある日、私にこう聞いてくる。
「ねぇ、あんたの株のお米は次にいつ届くの?」
ここで我が意を得たりと察した私は内心ほくそ笑む。
「はぁ? フツーは年に1回か2回しかもらえないんだから、次は半年後だよ。それまではガマンしなさい」
母親は若干つまらなさそうに去っていった。
しかし、その後姿を見て私は、
「計画通り」
心の中でニヤリと笑った。
こうして無事に外堀を埋めた私は、安心して村の開拓に邁進できるようになった。
何事もまずは確度の高い検証と実証、そして資料のプレゼンである。
私は社会人としても村長としても、なんとなく自信を得たような気がした。
私が家庭内でいっぱしの投資家気取りにさせてくれたのは日本管財さんのカタログギフトで貰ったお米によるところが大きい。感謝である。
しかし気づけば村で稲作も始めたおかげか、早くも1年が経過しようとしている。
それでも村全体では5銘柄(もう一社は後日売却したので割愛)。
まだまだ小さな規模だ。
しかも決められた日に保有することで権利を確定させて配当や優待が貰えるようにするには多くの時間を要する。
いったい、いつになったら、この村はメガロポリスになるのだろうか。
2014年暮れ。
この年の配当総額は税引き後7,332円。
シムの人口も未だタウンで足踏みしており一万越えのシティにはなれず。
ただし、この頃に購入した信金中央金庫さんや日本管財ホールディングスさんは、コロナショックや日銀植田ショックといった先の暴落も耐えて立派な稲に育った。
まさに新・男米だ。
仕込んだ時期やタイミングが良かったのだろう。
やはり投資は長期と負けん気、これに尽きる。
コメ騒動といえば余談だが2024年夏、昨年の猛暑によるコメ出来高の不良ならびに、8月8日の日向灘の地震発生に伴う南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発令により、スーパーの店頭から一斉に米が消えた。
保有する企業の優待カタログギフトからも米は『申込数の上限に達した』『充分な在庫が確保できない』として選択できないケースが増えているし、ふるさと納税サイトでも米らしきものは見当たらない。
9月中旬から店頭にはいくらかの米が並ぶようになったが、まだまだ世間は混乱しているようだ。だいいち備蓄と言いながら、本当に被災した時に水道もガスも寸断されていたら彼らは生米をどうするつもりなのだろう?
世間と逆張りしろとは言わないが、あまりニュース報道で右往左往するのも考え物だと個人的には思う。
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