第17話 国東くん



 私は廣井達が帰るとようやく意識がハッキリとして国東くんが起こしてくれた。私が国東くんへお礼を言うと続いて後ろからか細い声で臼杵くんも


「助けてくれてありがとう…… 」


と言った。国東くんは不思議な顔をして


「臼杵、お前は何も助かっちょりゃせんぞ。俺がアイツ等を倒したかもしれん。でもそりゃお前が助かった訳やない。」


「…… 」


私には国東くんが何を言っているのか解らなかった。国東くんは廣井達を倒して臼杵くんも私も救われたじゃないかと思った。しかし国東くんは真っ直ぐ臼杵くんを見て


「臼杵、お前なんで自分がイジメられよるんか解っちょるか? 」


「見た目がキモいから…… 」


「違う。」


「上手く喋れなくてウザいから…… 」


「違う。弱いからや。イジメる奴等はイジメめてる意識何か無いぞ。ただ自分より弱いからイジメるんや。猫が小さいネズミとか虫とか捕まえるんと一緒や。動物の本能で自分より弱いのを弄んで楽しんどるだけや。頭の良い奴は頭の悪い奴を、力の強い奴は力の弱い奴を、群れとる奴は孤独な奴をただそれに屁理屈付けとるだけや。」


臼杵くんは国東くんの自分へ向けられた強烈な言葉に何も言い返さずポロポロと涙を零し始めた。


「じゃあ弱い僕はずっとイジメられ続けられなきゃいけないの…… ?」


「そうや。」


国東くんはそう冷たく言い放った。臼杵くんは下を向いて「ウェッ、ウェッ」と餌付きながら泣いた。国東くんはそんな臼杵くんへ近付き、胸へトンっと拳を当て


「ただしそれはお前が弱いままやったらや。柔道部へ入らんか? お前が柔道部の仲間なら強くなるまで俺が守っちゃる。そして強くなりゃ良いんや。」


その国東くんの言葉に臼杵くんは肩を震わせながら涙を拭いて


「僕、弱いから柔道なんて強い人がやるもん無理でしょ? また柔道でイジメられるんでしょ? 」


「アホ、先ずは受け身の練習からや。そっから怪我せんように身体鍛えてやっと乱取りやらの実践稽古や。初めから強い奴なんかおらんわ。」


国東くんは臼杵くんの肩を叩いてカラカラ笑った。そして腕を掴むと


「お前、腕細いなぁ。先ずはこの近所の道場へ連れてっちゃるから来い。」


と強引に臼杵くんの腕を引っ張って歩きながら


「柔道はええぞ。精力善用、自他共栄の精神やから敵も味方も無い。皆が共に強うなる最高の武道や。」


そんな事を上機嫌で臼杵くんに話しながら私を置いてどんどん遠ざかっていった。私は堤防の下に置いてある国東くんの自転車を見て


「国東くん自転車忘れちょるよ! 自転車! 」


と叫んだが国東くんはお構いなしに臼杵を連れてどんどん遠ざかってって行った。私は堤防から降り、国東くんの自転車に乗って二人を追い掛けた。そして幾ら話し掛けても国東くんは臼杵くんへの柔道の説明に夢中になりとうとう私まで道場へたどり着いてしまった。

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