第16話 海辺の乱闘


 しかし近付くにつれてあの長身で金髪の男に叩かれた事を思い出して、私は怖くなり足を止めようかと思った。走る速度は少し緩やかになったが、自分の心が弱くなっていくのを許せなかった私はもう一度加速して走った。


 近付くとしゃがみこんだ臼杵くんは金髪の男に蹴られている。私はそこからの記憶は曖昧で金髪の男へ私は体当たりをして相手は転がったはずだった。しかし私は他の二人の男達に蹴られたのか殴られたのだとかしたのだと思う。その時に瑞穂の「無茶したらつまらんよ」と言っていた姿が浮かび


「瑞穂ごめん。」


と呟いて倒れた。倒れた先には臼杵くんが怯えながらしゃがみこんでこちらを見ていた。


「廣井!お前らそこまでや! 」


私が倒れてすぐに国東くんの声が鳴り響いた。国東くんは自転車を乗り捨て私と臼杵くんの居る前へ堤防を駆け登ってきた。そして私の前へ立つと長身の金髪の男は立ち上がり


「国東! にしゃ関係なかろうが、この女が体当たりしてきたんやろうがい! 」


国東くんへ凄んでみせた。廣井の後ろ二人、青地と戸中も国東くんを知っているらしく身構えていた。国東くんはそんな彼らへ臆さず


「中学に入って柔道部を辞めたと聞いたがこんなくだらんことしよったんか。道場の師範方が心配しよったぞ。」


静かに言った。すると廣井達は国東くんへ掴みかかり、3人同時に掴みかかられた国東くんは青地と戸中の袖口を掴み引っ張って堤防から二人を落とした。そこへ残った廣井の両袖を掴むと背負い投げでクルリと投げた。廣井は咄嗟に受け身を取ったがコンクリートの上なので痛そうにしている。


 そうしている間に落とされた青地と戸中は堤防へ戻って来た。すると国東は青地の胸元を掴むと足払いで倒し、倒れた青地を蹴って堤防の下へ転げ落とした。


 戸中は転がる青地の身体にぶつかりまた堤防から一緒に落ち、そこで廣井が立ち上がると国東くんはまた袖を掴み背負い投げで投げた。


 そんな事を繰り返していると廣井達は立ち上がるのが精一杯でよろよろと起き上がり


「お前は柔道だけしよきゃ良かろうもん。俺達に構うなや。」


「よう立ち上がったな。相変わらずタフやな。」


「うるせえ! 」


時ヶ郷中サトチューの奴等にきいたぞ、お前等中学の柔道部で全然勝てなくなって辞めたちな。」


「ずっと勝ち続けちょるお前にに何が解る!」


最後の力を振り絞って廣井は国東くんへ掴みかかったが投げられ続けて弱った廣井では国東くんに勝てるはずもなく、国東くんは転がす様に体落としで廣井を投げ腕を引っ張り廣井が受け身を取る形で終わった。


「良い受け身やないか、それなら怪我もしちょらんやろ。お前が柔道部から逃げたちゃ身体に柔道が染み付いちょろ。雑念が多過ぎるんや、柔道家は精力善用、自他共栄の精神だけが有ればいいんや。」


そう言うと国東くんは腕を引っ張り廣井を起こしてあげた。廣井は最後に掛けられた国東くんの情けに黙り込んでいた。


 そして廣井は黙って青地と戸中を引き連れて帰って行った。国東くんは最後に


「廣井、青地、戸中、お前ら悔しかったらもう一度勝負しちゃる。そん代わり柔道でやぞ。」


そう言った。廣井達はチラッと国東くんの方を見るとまた振り向いて帰って行った。




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