第15話 ドンコ婆の恋バナ
茶色い屋根の家を指差したドンコ婆は遠い目をして
「あそこは昔、
「ナイスガイって…… 」
「それがある日、ある日…… 。なんの日やったか忘れたけどとにかく漁に出た二人の船は戻らんかったんよ。」
「戻らんかったんて? 」
「漁船の事故で亡くなったんよ。泰二郎さんも泰介も、泰介にはまだ小さい
「泰地って臼杵くん? 」
「ああ、そういや泰地は巴と変わらんぐらいやったなあ。あん子はなよなよしちょってホント頼りないで母ちゃんも大変やろ。」
私はなんとも言えない気分になった。そして少しでも気分を変えようと手に持ったコーラを飲み込んだ。しかしドンコ婆は話しやめずに
「泰二郎さんはホント逞しくていい男やったよ。こん町は昔、柔道が盛んで泰二郎さんは柔道部のキャプテンやった。そげん身体は大きい方じゃ無かったけどバッタバッタどけな奴でん投げて、もう花の乙女やった私ゃ泰二郎さんの試合をいつも見に行ったよ。」
「えっ…… ?」
「あれは十四才の頃やった。いつも応援に行ってた私に気付いた泰二郎さんが『なんやドンコ見にきちょるんか。これからあん大男をぶん投げちゃるき見ちょけよ』そう言ってから私に勝利を捧げちくれたんよ。大男をポーンち投げた後に私を見て爽やかな笑顔を向けてくれて。それから私ゃ泰二郎さん一筋で…… 。それをあの幸子のヤツが横から泰二郎さんへ…… 」
ドンコ婆は自分の恋愛話に夢中になり話しが止まらなくなってしまった。私は時計をチラッと見るともう10分も話していたので
「ドンコ婆、ごめん。私急いでるからその話また今度聞かせて。」
そう言ってドンコ婆の店を後にして臼杵くんの家へ行くことにした。住宅街の先に広がる海を見ながら
「臼杵くん小さい頃お父さん亡くしたんや、なら尚更やん。」
そう呟くと走り出した。茶色い屋根を目印に私は軽く走りながら向い、玄関先には確かに『臼杵』と言う表札があった。私は息を大きく吸い込んで深呼吸をして呼吸を整えると玄関の呼び鈴を鳴らした。しかし誰も居ないようだったので、私はその周辺を探してみることにした。
赤く染まり始めた空が綺麗で私は海の方へと向かって歩いた。海沿いに来るとコンクリート製の堤防が連なり、海が見えないので私はよじ登りその上を歩いた。
私の心境とは裏腹に夕陽を弾き散らす海が黄金色に輝いて美しかった。私は海を見ながらも周りを見渡して臼杵くんを探しながら歩いた。100メートルぐらい歩いた所で遠くに人影が見え、私はもしかしてと思いその先へと歩いた。
段々と近付くとハッキリとそれが誰なのか判り始めた。長身の金髪の男達と臼杵くんだった。
「あん男はまた絡まれちから。」
私はそう呟いて臼杵くん達の方へと走り出した。
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