第11話 心の中と気持ち
私と香我美が話した次の日に隣のクラスでは香我美が臼杵くんを説得していた。
「臼杵、君は暴力を受けているのだろ? それは警察に被害届を出すべきだ。」
「…… 。」
「世の中がいくら優しくても、黙ったままでは誰も気付いてはくれないぞ。」
「……。」
どのように香我美が説得しても臼杵は机に着いて下を向いたままだった。
私は偶然にもその光景を廊下から見ていた。隣で瑞穂は
「香我美ちゃんがあんなに一生懸命言ってるのに、臼杵くんは反応ぐらいしてもいいのに。」
と呟いていた。私はその光景を見て臼杵くんが時計塔から飛び降りた日の事を思い出していた。それは梅雨に入ってすぐだったと思う。雨の中で生徒は体育館へ集められ校長先生から全校生徒へ命の大切さを話していたのを思い出した。
「もうすぐやん…… 」
私はそう呟くと香我美と臼杵くんの所へ駆け寄り、臼杵くんの手を掴んで引っ張った。それからどうしようとかは考えずにただ人が居ない所を探しながら走った。臼杵くんも何がなんだか解らずに私に引っ張られながら走り、キツそうにしていた。私は校舎裏の木陰へ連れて行き立ち止まった。
息を切らしながら
「臼杵くん、あんたもう死のうって決めてるから返事もせんやったんやろ? 」
私がそう言うと臼杵くんは私の目を見てポロポロと泣き始めた。泣きながらうずくまり泣き続けた。そして泣き止むと
「僕は君みたいな人が嫌いだ。」
そう声を絞り出すように言った。普通ならそんな事を言われれば腹も立つのだが、私は自分が飛び降りた時の気持ちを思い出した。それは色んな嫌なことが心の中でパンパンになって何も入る余裕のない気持ち。
私は臼杵くんが心の中に溜まった気持ちを吐き出し、新しい気持ちを入れられるようにしているのだと思い
「それで? 」
「みんな嫌いだ。イジメるヤツ達もそれを見て見ぬふりするヤツも、こっちはやっとの思いで相談しているのに何もしてくれない先生も、親も叱るばかりで何も聞いてくれないしみんなみんな嫌いだ。」
「そっか。」
「君みたいに才能が有って誰からも認められてる人には解らないだろ? 」
「解るよ。そしてそんな気持ちでいっぱいになった自分が一番嫌いなんだよね。」
私は飛び降りた時の感情が溢れて涙がこぼれた。そして涙がこぼれて頬を伝い地面へ落ちる間に次の言葉がこぼれた。
「君は来月に時計塔から飛び降りることに成功したよ。」
私は何を言ってるのだろうと思った。親友の瑞穂ならともかく、よく知らない初めて話す人にこんな話しをするなんてと、そう思いながらも言葉は止まらなかった。
「私はその次の年に飛び降りて、失敗して今のここにいるの。」
「な、何を言ってるんだい? 来月僕が飛び降りたとか、君が次の年とか。」
臼杵くんは私の言葉に戸惑っていた。私だって戸惑うと思う。しかしそれでも起こった事実を素直に話そうと私は話しを続けた。
私は未来に起こった事を思い出せる限り細かく話した。臼杵くんも話しが進むうちにだんだんと理解していってくれた。
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