第10話 部活にて


 部活の顧問である高輪たかわ先生がベンチに座り、ピーッーッとか弱くホイッスルを吹いた。高輪先生は昔は『鳥人高輪』と呼ばれた走り幅跳びの名選手だったらしいが、今は高齢であまり話さずいつもベンチでホイッスルを吹くだけである。そのホイッスルが鳴ると3年生でキャプテンの嶋村さんが


「集合! 」


と元気よく掛け声を上げた。すると女子陸上部は全員円陣になり準備体操を始める。そして準備体操が終わると2キロメートルのランニングをして、そこから『持久組』と『瞬発組』に分かれてストレッチを始める。そしてそれから各種目毎に分かれて練習を始めた。


 嶋村キャプテンと私は50メートルを何本か交互にやって、その後にフォーム確認をした。その隣で香我美が投擲の練習をしていた。香我美は長身で中学2年でありながら160cmを超えていた。スタイルが良く手足も長いので私は自分の手足と見比べパタパタ動かしてみたが実に短い。


 香我美の様なスタイルだったらもっと記録を伸ばせるのにと羨んだが、まあそれでも私は誰にも負けない速さがあるので良しとした。


 そして陸上部の練習が終わり部室へ戻り制服へ着替えると香我美が先に着替えて部室の外のベンチで待っていた。


 香我美は待っている間に自動販売機でパック牛乳を買ってきてくれていた。そしてそれを


「はい、これ巴の分。」


と手渡してきた。私は「ありがとう」と受け取り、ストローを取り外して牛乳パックへ刺した。そして香我美の隣へ座ると牛乳を飲んだ。部活で疲れた身体へ冷たい牛乳は染み渡るように美味しくて「く〜っ」と唸ってしまった。


 香我美はそんな私を笑いながら牛乳を飲むと


「そういや巴はなんで臼杵に怒ってたんだ? 好きなのか? 」


私は牛乳を吹き出して


「あんななよなよしたの好きんなる訳ないやん。」


「そうか。なら柔道部の国東とかか? 」


「いや、誰も好きやないよ。私は恋愛ようわからんし今は走る事が一番やから。」


「そうか。恋愛の話しでは無かったのだな。」


「初めから恋愛の話しやないよ。」


私はそれから臼杵くんがイジメを受けていてそれに出くわした話しを香我美にした。香我美は目を瞑り背筋をピンと伸ばし腕組みをしてウンウンうなずきながら私の話しを聞いた。そして私が話し終わると


「それは巴や瑞穂が関わるべき事では無いな。明日にでも私から担任の先生に話しておこう。それは犯罪だからな。」


香我美はそう言うと、長いくて綺麗な黒髪を束ねてゴムでポニーテールにすると夕陽を背に立ち上がり私に笑顔を向けた。ハッキリした物言いや長身で姿勢の良い香我美はいつも私よりも大人びて見えた。それから私と香我美は陸上について話しながら歩いて帰った。




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