臼杵くん
第9話 成長していく中で
それからと言うもの私は部活と勉強を両立させる日々が続いた。瑞穂の教え方が上手なこともあって2週間程で授業の範囲まで追い付き、部活の短距離走では未来での知識もありグングンと記録を伸ばした。
気付けば私のタイムスリップは順調に成功へと向かっていた。しかしタイムスリップやタイムリープする漫画やアニメでは過去をいくら変えようとしても同じ結果をたどる話しが多くて私の中に不安な気持ちが残っていた。
その気持ちが逆に私を成長させていることにも、私は気付いている。例えまた怪我で走られなくなったとしてもこのまま勉強を続けていれば高校へ行けない事も無いし、そして早起きして朝食やお弁当作りにもチャレンジしていた。
最初は目玉焼きの作り方もよく解らずにカリカリの目玉焼きになってしまっていたが水を注いで蓋をして蒸らす事も覚えた。ウインナーを切って細工をすることも覚えた。前の人生でやって来なかった事は私の中で初めての事ばかりで、それを覚える度に成長している自分に嬉しくなった。
―――ある日の教室での休憩時間
「瑞穂〜、さっきの数学のここんところがよく解らんのやけど。」
「あ〜これね。対頂角は等しくなって合計は360度になるからね。それを…… 」
と数学の事を教えてもらっていると、会話を割るように
「川村さん、こないだから体調悪そうだったけど大丈夫? 無理しちゃ駄目だよ。」
そう言ってクラス委員長の時枝くんが話し掛けてきた。時枝くんは爽やかな風貌ふうぼうで成績優秀でスポーツ万能と人気者でいつもリーダー的な存在である。誰にでも気さくに話し掛けていつも気遣いを損なわない人だ。
そんな時枝くんは私を気遣い
「川村さんは今度の県大会の短距離走代表だよね。なにか気になる事があったらいつでも相談してね。」
そう言って手を振り、次は居眠りしている柔道部の国東くんを起こして次の授業の準備をさせていた。
授業を終えて部室へ向かうと途中で以前イジメに遭っていた臼杵くんが渡り廊下を歩いてすれ違った。数メートル通り過ぎた後で、私は彼が気になり
「ねえ、臼杵くん。」
と振り向いて声を掛けた。臼杵くんは私の方をチラッと振り向いたが、直ぐに向きを戻してそそくさと走り去って行った。臼杵くんは小柄でよく見ると可愛い顔をしている。そしていつもおどおどしているので素行の悪い人達に目を付けられるのだ。
しかし声を掛けてこちらへ気付いたのに無視して逃げていくのは心外であった。私は部室でユニフォームへ着替えながらそのことを思い出し
「あんな態度だから嫌われんのよ。イジメは悪いけど臼杵くん自身も変わらないとさ。」
腹が立ってそう独り言を呟くと
「臼杵ってうちのクラスの気の弱いのだろ? 」
その声に私はビクッとなってロッカーにぶつかった。それを見て笑いながら
「私に気付かないとはよっぽど気になる事が有ったんだな。部活終わったら聞かせろよ。」
そう言って着替えが終わると部室から出て行った。私も急いで着替えて香我美を追いかけてグラウンドへと行った。
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