第7話 時津姫神社で
―――私と瑞穂は時計塔の調査を諦めて時津姫神社へと向かい、その途中のドンコ
「ドンコ婆ハム玉2つちょーだい。」
「巴あんたもう中学生なんやから、ちゃんと
「ドンコ婆さん私はあんことカスタード。」
「瑞穂ちゃんまで! え・い・こ・さ・ん! 」
「昔っからやきそんな急に変えきらんよ。」
そう私と瑞穂が笑うとドンコ婆は鼻で笑いながら
「はいよ。ちゃんと言えるようになるまで来ないよ。」
紙袋へ入れた回転まんじゅうを手渡した。ドンコ婆は鋭子の『鋭』の字を『鈍』ともじって言っているのかと思っているが、本当は顔が魚のドンコに似ているからであったが誰も言えずにいた。
まあそんなドンコ婆の事は良いとして焼き立てのドンコ婆の回転まんじゅうは表面がサックリとしていていつも美味しかった。途中で私のハム玉と瑞穂のカスタードを交換したりもして簡単な昼食を終えると時津姫神社へと向かった。
ドンコ婆の店から数十メートル歩くと小さな山が在りそこに時津姫神社が祀まつられている。
入り口は古ぼけた看板が有りそこへは時津姫神社の伝説と由来が書かれていたが、何分看板が古くて所々文字が消えていてあまり読めなかった。石造りの鳥居をくぐり小さな石段を登るとそこには小さな石の祠が在った。
瑞穂は巾着袋から5円玉を取り出して賽銭箱へ投げると手を合わせて目を瞑ったので、私も瑞穂のマネをして小銭を投げて手を合わせた。そして目を瞑ると真っ暗になった視界の影響もあり、木々の葉が風に揺れてかすめる音や土の香りが私の周囲を包んだ。
そのうちに日々の中での雑音が止み、まるで短距離走のスタートラインで集中した時のように静かに。
するとまぶたの裏の暗闇の中に眩い光が広がり、一人の女性が見えた。白い木綿の服を幾重にも重ねて首に大きな勾玉を下げた長い髪の女性が。そしてその女性は光の中をゆっくりと歩いて私へ近付くとフフッと微笑み私の胸へと手を当てた。
「巴、巴、大丈夫? 」
目を閉じたままの私を心配して声をかけていた。我に返った私は急に現実へと戻された。自分でも今見えたものが何かは理解できずに
「ごめん。ボーッとしちゃってて。」
と答えるのが精一杯だった。瑞穂は
「大丈夫なら良かけど。」
と言って祠の周りを調べながら写真を撮り始めた。特に何もない神社だったので私達の調査は終わり見晴らしのよいベンチに座り私達の住んでいる町を眺めた。
神社の下には住宅街が並び、その向こうには私達の通う中学校と時計塔が、そしてその先には陽を反射して煌めく海が広がっていた。
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