第6話 走る以外の事
長身金髪の男は私へ近付き見下ろすといきなり平手打ちをしてきた。そして私がその衝撃で倒れると
「オマエ女やから殴られんとでも思うたんかコラ。」
と言い放った。
私は悔しくて涙が出てきた。
「はい! そうです。時ヶ浜東中学校です。はい。3人組です。急いで来てください。」
そう言いながら瑞穂は私へ駆け寄り、不良達へスマートフォンをかざして
「あんたたち今から警察が来るけんそこを動きなんな! 」
そう大きな声で言った。すると長身金髪の男は
「ちっ!めんどくせークソ女が。おいオマエら帰るぞ。」
そう吐き捨てて帰って行った。私はいつものんびりとしている瑞穂のこんな姿を見て呆気に取られていた。しかし瑞穂は緊張が解けたのかヘナヘナと座り込み
「あ〜怖かった〜。」
と私へ抱きついた。
「なん?警察ん電話したん?」
「いやしとらんよ。なんとなく思いついてやってみたんよ。」
「なんそれ! ようそげんこつしきったね。」
「ねっ。」
と瑞穂は他人事のように笑いだした。私もそれにつられて笑うとそこへ柔道部の国東くんが柔道着姿で現れて
「お前らどげんしたん? なんや叫び声が聴こえたきん来たけど。ん? お前は隣のクラスの臼杵やんどうしたん? 」
そう言うと臼杵くんは何も言わず立ち上がり走って消えていった。瑞穂は座り込んだまま国東くんへ
「来るの遅いっちゃ。不良のイジメを止めようとして大変やったとに。」
「マジか!? どげな奴やった? 」
「金髪で背の高いのとほか二人。」
「ほうか。なら部活終わったらソイツら探してみよ。」
そう言うと坊主頭をポリポリ掻きながら武道場へと戻って行った。瑞穂は立ち上がりスカートをはたくと
「ほんと頼りんなるんかならんのか判らん男ちゃ国東くん。」
「いや間に合わんで良かったよ。喧嘩にでんなって謹慎やらなったら部活できなくなるやん。」
「そう言われりゃそやねぇ。」
そうなんとか瑞穂をなだめて、私たちは当初の目的である時計塔へと向かった。解決したかに思えたけれど、未来で臼杵くんが時計塔から飛び降りた事を知っている私は少し気持ちが引っ掛かった。瑞穂は歩きながら
「こんな田舎の人が少ない町でんイジメちゃあるんやね。」
そう言った。私達からすれば無意味な事に思えるのだけれどそう言ったことをする人達を私は不思議に思った。前と違い走る事以外のことを考えている自分にも少し違和感を覚えだした。
「うん。そやね。」
軽く相づちを打って直ぐに私達は例の時計塔へとたどり着いた。ペンキで白く塗られた時計塔はお昼前の陽射しを受けて白く輝いている。
しかし瑞穂と私の期待を裏に時計塔の入り口は鉄格子の門が有り鍵が掛けられていた。私はそれを疑問に思った。
「ねえ瑞穂、私の未来ではこんな扉は無かったんよ。やから足の悪い私でも簡単に入れたんやし。」
瑞穂は私の話しを聞いているのか聞いていないのか解らない感じで扉を入念に調べていた。そして扉の基礎部分のコンクリートを指でなぞり
「巴ちゃんの話しは本当やと思う。この扉作られてすぐやん。コンクリートもまだちゃんと乾いとらんし。この感じやと昨日〜今日に作られとる。」
「さすが左官屋さんの娘やね。コンクリートでそんなん判るんや? 」
「小さい頃から父ちゃんの手伝いしよるき判るよ。しかもこれだけの材料と工事をこんな直ぐにやれるなんてどんだけやん。」
瑞穂はそう言うととりあえずスマートフォンのカメラで周囲の写真を撮り始めた。
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