第4話 走られる喜びと疑問
どう言う理由でこうなったのかは解らなかったが、兎に角私はこの両足が無事で走れる事が嬉しくてベッドを飛び出し、走って保健室を飛び出した。
校舎の出入口で外履きに履き替える事もせずに飛び出し、雨の激しく降りだした事も気にせずにグラウンドへと走り、そのままグラウンドの直線を雨に打たれながら走った。走り終えると折り返して走り。
泥だらけに為りながら直線を三往復した時に私は泥に足を取られて転び、泥だらけになって寝転がり空を見上げて涙が込み上げてきた。
私はまた走れるんだ。
そう心の中で呟くと起き上がり、泥だらけの体を洗おうと校舎出入口の横に付けられている水道へと向かった。泥だらけになった私のショートカットの黒髪を水で洗い流している時に校舎から数人の先生が出てきて、私は強制的に自宅へと連れて帰られた。たまたま家に居た母に私が精神的に不安定なので心療内科の方に行く様に先生が説明をしていた。
私はシャワーを浴びてハーフパンツとTシャツに着替えると母の軽自動車に乗せられて、少し離れた所に在る心療内科へと連れて行かれた。
心療内科では、思春期に掛かったストレスが原因でよく有ることだと片付けられ、特に副交感神経に対する異状も見られずに私は解放された。私に起こった事を説明しようかと思ったが、きっと誰も信じてはもらえないと黙ったままでいた。
家に帰ると玄関先に、瑞穂が立って私の帰りを待っていた。私は車から降りて瑞穂の下へと駆け寄ると、後ろから母が
「瑞穂ちゃん。巴が心配でお見舞いに来てくれたんでしょ? 良かったらウチに上がってゆっくりして行ってね。」
そう瑞穂に言うと、瑞穂は丁寧に頭を下げて
「ありがとうございます。それじゃあ少しお邪魔させていただきます。」
私は瑞穂のそんな大人びた丁寧な物腰が好きで、少しそんな大人びた友達が居る事が嬉しかった。そうしていると母は玄関のドアを開けて、私と瑞穂は家の中へと入った。
私と瑞穂は私の部屋で話すことにした。私は例え信じて貰えなくても瑞穂には、きちんと説明しなければいけない事だと思ったからだ。私は瑞穂の目を真っ直ぐに見て話した。
「あのね。信じてくれんかも知れんけど。私、未来から来たんよ。」
その唐突な言葉に瑞穂は固まり、時間を置いて笑い始めた。思った通りの反応ではあったが私は真剣に話して居るのに笑われたのには少し腹が立ってしまった。付き合いの長い瑞穂はそんな私の表情を覚って
「ごめん。ごめん。あんまり突然変な事を言い出すき。なら巴ちゃんが未来から来たとして、どうやって証明しようか。もう笑わないから来年有った事を話してん。」
「・・・・・・。 あのイケメンの芸能人が結婚したよ。」
「・・・・・・。 来年結婚するってニュースで言ってたもんね。」
「あっ、あれだ。あの有名人の女の人が離婚したよ。」
「そうなの? でも未来の事はわたしが判らんし。」
思いの外、未来から来た事を証明する事は難しくて私は、どう説明すれば良いのか少し考え込んだ。すると瑞穂は思い付いた様に話し始めた。
「なら巴ちゃんは今にどうやって来たん? わたしSFとか好きやから何か解るかも。」
「たぶん。学校の横の時計塔から飛び降りたのが原因かもしれん。私、来年事故で怪我をして走れんくなったんよ。それで何もかんも嫌んなって飛び降りたんよ。」
私のその話しに瑞穂は少し真面目に考え出して、自分の鞄から一冊の本を取り出して見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます