ボトルシップ部と第二模型部
「あら。また新入部員を連れてきてくれたのかしら?」
中央の作業台から凛と通る声がした。すらりと立ち上がる狐目の少女。襟章は青。
「はじめまして――」
少女は
「子猫ちゃん。第二模型部の部長を務めさせて頂いています、
「じゃ、ジャス、ミン……さん」
もの凄く言いにくかった。
動揺する晴海に代わるように、もこが言った。
「ジャスミン様! この子、晴海ちゃんって言って、部活に迷ってて……!」
「落ち着いて、ウィステリア。ほら、深呼吸」
「――スゥー、ッハァー……」
言われるままに深呼吸するもこ――を、見つつ、晴海は内心で叫んだ。
(もこちゃん、ウィステリアって呼ばれてるの!?)
できたばかりの友人とはいえ、自分の知る世界とはまるで別のところに暮らしているように思えていた。
息を整え終えたもこは、茉莉に言った。
「ジャスミン様。晴海ちゃん、ボトルシップ部に入ろうとしてて――」
その言葉を聞いた瞬間、晴海は慌てて声をあげた。
「え!? もこちゃん、私まだ決めてな――」
「なんですって!?」
しかし、声は茉莉の叫びにかき消された。
茉莉はもこの髪を撫でて言った。
「よくやったわ、ウィステリア。あとは私に任せて、作業に戻りなさい」
「は、はい! ジャスミン様!」
もこは去り際に振り返り、小さな声で言った。
「信じてるよ……! 晴海ちゃん……!」
(……何を!?)
心中で叫ぶ晴海の手を、茉莉が取った。
「――ひっ!?」
「晴海さん……いえ、キティと呼ばせてもらうわね」
いやです、と言える気配ではなかった。
「キティ。ボトルシップなんて、時代遅れよ。あんなもの時間を溶かすばかりで何も得られるものはない。これからは……これ!」
茉莉が部室を見せつけるように手を広げ、そっと晴海を誘いこむ。
「ボトルフィギュアの時代よ!」
「……び、瓶に詰めるのは変わらないんですね」
晴海が思わず口走ると、茉莉は吊り目をさらに尖らせた。
「ぜんぜん違うわキティ! ごらんなさい!? ボトルフィギュアは瓶の中に魂を閉じ込めているの! 玩具の船を浮かべて喜ぶのはもうお止しなさい! 私が、私たちが、あなたに、これがどれほど素晴らしいものか教えてあげる……!」
ぐん、と晴海が手を引かれた瞬間、
「止めろ! 茉莉!」
聞き覚えのある声。晴海は肩越しに振り向く。
「――部長……えと、
ボトルシップ部部長、美舞がドア枠に足をかけるようにして立っていた。
美舞は親指も立てたピースサインで小さく手を振り、晴海に言った。
「大丈夫? 晴海ちゃん。助けにきたよ」
「えと――し、失礼します!」
晴海は勢いに流され茉莉の手を振りほどいた。扉に駆けると、伸ばした手を美舞が掴んで引き寄せた。
「茉莉……いつまでこんなこと繰り返すつもり?」
「……それは私のセリフよワルツ!」
「変な名前で呼ぶなぁ!!」
秒の間もなく美舞が言い返した。
(い、言って良かったんだ――!?)
戦慄する晴海の肩を、ボトルシップ部の面々が撫でた。慰め、励まされている。なぜかは分からない。
美舞は言った。
「晴海ちゃんは返してもらう。闇のボトルシッパーの好きにはさせない!」
「や、やみのぼとるしっぱあ?」
困惑する晴海をよそに、美舞と茉莉が睨み合う。
「――フン。なるほどね、ようやく、五人揃ったっていうわけ……?」
「ええ。晴海ちゃんを入れて、五人よ」
(私も勘定に入れられてる!?)
「いいわよ。やってあげる。私がかったら、キティは私のものよ、ワルツ」
「変な呼び方すんな! ――私たちが勝ったら、その子たちの魂は返してもらう!」
「よろしくってよ!」
茉莉が両手を広げた。
「ウォー・オブ・ボトルシップ……
瞬間、世界が音を立ててつくり変わった。
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