第2話 カフラ王の一族

「そろそろ本題に入ってもよいかな?」


 アフマド少将が二人に話しかけるとマナミが恐縮して答える。


「も、申し訳ありません、今回はミイラのイレイスと伺っておりますが間違いないでしょうか?」


「ああ、その通りだ。観光・考古省が五月末にエジプト・カイロ近郊のサッカラ遺跡から約二百五十体のミイラを発見した。その際、古代神の銅像百五十体や様々な副葬品も掘り出された」


「はい、棺などはカイロ近郊のギザで建設が進む『大エジプト博物館』に移され、所蔵される予定だと伺っております」


 うむ、と答え少将が言葉を続ける。


「当然発表はしていないのだが、その中の一体のミイラが動き始めた」


 そう聞いた途端、二人の顔つきが変わる。


 マナミは驚きながら、サトルは面白そうにそれぞれ違う表情を浮かべていた。


 サトルはマナミの顔を見てニヤリと笑い、マナミはそれに気付きムッとしたような顔をしたが、次の瞬間にはマナミは真面目な顔に戻る。


 しかしサトルは相変わらず笑っている。


 二人を見比べながら少将は続きを話し始める。


「エジプトの古王朝であるカフラ王の墓に納められ、長らく眠り続けていたミイラが目覚めてしまったらしい。我々が発掘したうちの一体が、だ」


「カフラ王一族のミイラ…… あの伝説の?」


「そうだ。マナミ殿も知っているだろう? あの有名な『死者の書』を書いたファラオだ。彼は生前からミイラを造り上げていた。死後もその遺志を継ぎ、王の一族はミイラの製作を続けたと言われている。その一族が製作した最高傑作こそが今話した動き始めたミイラ、カフラ王の息子というわけだ」


「なるほど。私もカフラ王一族の作成したミイラを拝見したことがありますが、まるで生きているかのような精巧な作りでした」


「そう、まさにそれだ。それが今回の依頼主からの希望でね」


「ああ、『死者の書』か、そりゃまた面倒そうな依頼ですねえ」

「サトルは黙ってて!」

 と、マナミのツッコミが入る。


「へ――い」


「すみません。で、依頼はそのミイラのイレイス、ミイラはそのままに憑き者だけを落としたい、と」


「そういうことだ。もちろんこの件はエジプト政府から内々に日本政府に伝え了承を得て動いている。日本の防衛省が君たちを推薦してきた」


「はい、確かに我々は防衛省国家情報保安局の指令を受けてここに来ました。ですがエジプトにも著名なイレイサーがいらっしゃるのでは? わざわざその動くミイラに結界を張ってまで日本に運んでイレイスする必要はないのではないですか?」


「もちろん我が国のイレイサーにも依頼をしていたのだが」


「あ、やられちゃったんですか?」


「もう! サトル! いいかげんに」


「いや、実はその通りなのだ」


「え? マジかー」


 サトルはやった当たったと騒いでいる。


 少将の話では、ミイラが発見されてすぐにエジプトのイレイサーをサッカラ遺跡に集めイレイス作業を行ったそうなのだ。


 そしてその時点ですべてのミイラ、古代神、副葬品のイレイス作業は滞りなく終了し、移送まで終わらせたのそうだ。


 しかし『大エジプト博物館』の建築が終了するまで保管しておく予定の倉庫内で異変が起こったという。

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