第二話 華の村へ
さあさあ――、彩花なる土蜘蛛に、助けを乞われた道摩少年。
その導きに従い、華の村への道を急ぎ歩む。
果たしてその先にあるものとは――。
様々な準備を手早く行った道摩は、華の村へと彩花の導きに従い急ぐ。
しかし、その道は本来なら一日もかからぬはずが、なぜか華の村の入り口にすら到達できなかった。
さすが彩花も、何事かとその顔を青くし始めたころ、道摩は一息ため息をついて言ったのである。
「――うむ、当然そうなるとは思ってはいたが……、やはりな」
「道摩さま? それはどういう……」
いまいち事態が飲み込めていない彩花が、心底困った顔で道摩に問う。
道摩は、いたって涼しい顔で答えた。
「これは――、華の村へと向かっても、そこに至れぬのはまさしく、華の村にかけられた結界による迷い呪によるものだ」
「それは……、このままでは華の村の入り口にすら、到達できぬという事なのですか?」
「……そうだな。このままであれば」
あまりの事態に彩花は顔を青くするばかり。そんな彩花を特に気にした様子もなく、道摩は少し鼻を鳴らして言った。
「――まあ、この程度の結界は、壊せずともどうにかなろう」
「――え」
道摩のその言葉に彩花は驚いた顔を見せる。道摩は少々得意げに彼女に語って聞かせる。
「このような迷い結界は、たいていが人の心に作用するもの。ようは迷いに心を乱されねばいいのだ」
その言葉に彩花は安堵を得る。彼がそう言うならこの結界を乗り越えることもできよう――と。
道摩は懐より糸を編んで作った輪を取り出す。それを彩花に手渡し腕にはめるよう促した。
「道摩さま? これは?」
「まあ……お守りのようなものと思え」
道摩はそれだけを彩花に答えて、自らも同じものを腕にはめた。
そうして、改めて華の村への道を二人は進んでいったのであった。
すると――、それまでとは違う風景が、道摩達の周囲に起こり始める。
「これは――」
道摩は立ち止まって、その足元に眠る狐を見た。
「皆、眠っておるのか――」
それは、まさしく異様なる光景であった。
その場に存在しているあらゆる動物が、その場に横になって眠り続けているではないか。
道摩達がその身をゆすろうとも、動物たちは眠るばかりで起きる気配も無し。
さすがの道摩も、この事態に対して険しい顔をするばかりであった。
「これは――少々まずい事態かもしれん」
そのように呟く道摩に答えを返さず、彩花はその近くの樹木に身を預けている。
その様子を不審に思った道摩が、その顔に手をやると――、彩花は目をつぶって眠りこけている様子。
それをみた道摩は小さく頷き――、そして、何やら呪を唱えたのであった。
「く――……」
そして、とうの道摩自身に対しても、圧倒的な睡魔が襲い掛かってきた。
心の中で「やはり……」と呟く道摩は、そのまま彩花の隣で座り込み、彩花と同じように寝息を立て始めたのであった。
◆◇◆
さて――、二人が目覚めると、そこは先ほどとは全く違う風景があった。
「ぬ?」
道摩が周囲を見回すと、そこに明らかに人の手によるものと思われる木でできた柵と、その向こうに木の板の壁の家々が見えた。
その光景を黙って見つめる道摩に、同じように目を覚ました彩花が言った。
「ああ……これこそは華の村。道摩さまの言うとおりに着きました」
「ふむ――、そうか」
彩花の言葉に少しも喜びもせず、道摩はただ村を見つめていた。
そんな二人に駆け寄ってくる姿があった。
「彩花!!」
「え?」
彩花は駆け寄る姿に首をかしげる。それは、彩花と同じような着物を身に着けた、白い髪をした少女であった。
「彩花!! よかった!!」
「――?」
その少女の呼びかけに、何やら首をかしげる彩花。それを道摩は黙って見つめる。
「彩花!! すでに三月――、もう帰ってこないかと心配したのよ!!」
「え?! 三月?!」
その驚きの顔に少女が答える。
「そうよ――、私たちが彩花を術で送り出して、すでに三月――。もはや帰ってはこないとあきらめかけていたの」
「待って――、三月も? それに、貴方は?」
「え?」
彩花は困った様子で少女に問う。それをみて少女は少し怒りの表情を浮かべて答えた。
「――三月も外で遊びまわって。私を忘れてしまったの?! 幼馴染の一葉を――」
「え……、あ!」
その段になってやっと少女の名を思い出した彩花は、慌てた様子で一葉に頭を下げた。
「ごめん一葉……、何か頭がぼーっとして。幼馴染の名前を忘れるなんて」
「そうだよ……。まさか本当に三月の間、外で遊んでいたわけじゃ……」
「そんなことはない! あれから、急いで助けを――、このように道摩さまを呼んで、急いで帰ってきたのに……。三月?」
彩花はうろたえた表情で一葉に答える。
道摩は顎に手をやって目の前の一葉に問うた。
「三月――か。確かにこの彩花を俺が見つけてから、三日と経ってはいないはずだが。この結界内ではそのようになっていたのか?」
その言葉に、やっと道摩の存在を認めた一葉は答える。
「貴方が――、道摩さま? その通りですよ。彩花を送り出してから、すでに三月が経ち――、我々は備蓄の食糧すら食べつくしてしまい……」
「それは……、今はどうしておるのだ?」
「それが――、食べつくしてしまってからわかったのですが。この村の中にいる限り、特にお腹が減ることもなく――、難なく生きていく事は可能で……」
「それは、今は食事をしてはいないと?」
その道摩の言葉に一葉は頷く。どうやら、彼女ら――、村の者たちはすでに食事をとることをせず、それからも一月あまり村に閉じ込めらているようで――。
「そうか――」
道摩はただそれだけを呟いて思考に入る。その姿を見た一葉は、彩花に耳打ちをした。
「この道摩さまは――。この人に任せてもいいのかしら?」
「それは――大丈夫だと。この村への道中も、助けていただきましたから」
「そう――」
一葉の不審そうな目を受けても、道摩はただ考え事をするだけであった。
――果たして、道摩はこの事態を――、華の村を救うことはできるのか?
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