呪法奇伝ZERO~蘆屋道満と夢幻の化生~
武無由乃
第一話 道摩少年
さあさあ―――、物語を語り聞かせよう―――。
それは、いまだ大半の民にとって”歴”などどうでもよい―――、知らない者の多かった時代―――。
それゆえに、もはや”かの者”がいつ生まれたのかもわからぬ時代―――。
”その者”は下級の民の内に生まれながら、恐ろしいまでの才をなした少年―――。
彼は自らを”
「道摩様!!! 道摩様!!!!」
はなを垂らした少年が一人、森の中に佇んで瞑想をする少年の元へと駆けてくる。
「……」
「道摩様!!! 道摩様ってば!!!」
「……ち」
瞑想する少年―――、”道摩”は一つ舌打ちすると、目を開いてはなたれ小僧の方を見た。
「なんだ?! うるさいぞ!!
リク!!!」
「すみません!! でも、急ぎの用だったので!!!」
「? なんだ? 何があった?」
「いえ!!! 実は村に妖怪が……」
その言葉を聞いた道摩は眼を見開く。そして、その場から立ち上がると言った。
「村に妖怪とは?! 村が襲われたのか?!」
「あ……いえ……」
「なんだ?! 要領を得ん……、どうしたというんだ」
「その妖怪というのが……」
その後の言葉を聞いた道摩は、急いで村への道を走ったのである。
◆◇◆
道摩が村へと帰還すると、村の中心に人だかりができていた。
道摩がその人だかりに向かって走っていくと、村の長老である一人の老人が道摩に声をかけた。
「おお!!! 道摩様!!!! こちらです!!!」
「
「はい……そこに」
そう言った長老・権次郎は、人だかりの中心の地面を指さした。
そこには―――。
「む?!」
そこに倒れ突っ伏していたのは、人にあるまじき白い髪をした少女であった。
道摩は急いでその少女の元へと駆けより息があるか調べた。
「……まだ息がある。権次郎、俺の屋敷に彼女を連れて行くんだ」
「了解いたしました道摩様―――」
権次郎はそう言って頭を下げると、村人を促して少女を道摩の屋敷へと運んだのであった。
◆◇◆
大陸渡りの僧を先祖に頂く”蘆屋”氏。それは、ここら一体の民を統べる豪族の名である。
その術で多くの民を癒した術者の家であったのはもはや昔―――、今はその道は廃れて久しかった。
しかし、そんな家に一人の天才が生まれる。
その名を”
彼は生まれつき恐ろしいほど知恵者であり、同年代の子供はおろか、大人ですら理解できない知識を有していた。
無論、それは祖先がかつて集めていた蔵書を読み漁って得た知識であったが―――、
その知識は村では比類のないものであり、両親が若くして他界して天涯孤独となった今でも、村の最高権力者として君臨するほどの人物であった。
彼はその知恵を使って、自分の村だけでなく周囲の民も救い、一体の評判を集めていた。
だからこそ―――、
「あなたが道摩様なのですね?」
白髪の少女は、道摩の治療によって目覚めるや否や、そう言葉を発した。
「うん? そうだが……妖怪にすら俺の名は知れているのか?」
「はい……。私は……北の山の”土蜘蛛一族”の
「土蜘蛛……、都にまつろわぬ民の……」
「その通りです……。このたびは、道摩様にわが村をお救いいただきたく参りました」
「村を救う?」
「はい……。わが村は”華の村”と申します。
その村が、いつからか村の外へ出ることが出来なくなり、さらには終わらない夜が続くという、奇妙な状態が続いております」
「それにしては、お前はこの村へとたどり着いているが?」
「それは―――、異変を何とかするべく村の全呪力をもって転移術を行ったからです。
私はその反動で意識を失っていたようですが」
その話を聞くと道摩はあきれたような声を発した。
「なんと無茶をするな―――、お前の身は心も体も消耗しきっていた。
その原因は、その転移術によるものだけではあるまい?」
「そう――、かもしれません。
おそらく、何らかの結界が村に張られているのでしょう」
「―――結界か。よほどの妖怪によるものか―――、あるいは」
道摩はむつかしい顔をして考え込む。
そのような術を妖怪の集落にかける者は、たいていの場合―――。
(都の術師あたりか?)
考え込む道摩を、彩花は心配そうな表情で見つめる。
「やはり―――、私たち妖怪には、手を差し伸べてはくださらないのでしょうか?」
「―――ふ、いや。たとえ妖怪であろうが、救いを求めるモノをほおっておくわけがあるまい?」
「!! ありがとうございます!!!」
彩花は笑顔を道摩に向けて何度も頭を下げる。
道摩はそれを優し気な瞳で見つめながら、旅に何が必要になるかと思考を巡らし始めたのである。
◆◇◆
赤き月の下―――、一匹の化生が舞いを踊る―――。
その周囲にはおぼろげな光球がまとわり―――、
そして、その口内へと収束していく―――。
「眠れ、眠れ―――永遠の夢―――、
それは苦痛なき眠り―――、それは空腹なき眠り―――、
それは朝を迎えぬ永遠の幸福―――」
赤き月は一層赤く輝く―――。
それはまるで―――、舞い踊る化生の深紅の瞳のようであり―――。
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