全ての真実


…そういうこと、だったのか。

なるほど、すべてがつながった。


本当の賀茂家の最後は、彼。

カモくんは一族の願いすべてを背負った幽霊で、400年経ってようやく復活した。


そうだったのか。


「…幽霊…」


こんな可愛い子が、もうこの世にはいないのだ。


「…だから髪の毛が灰色なのか」


闇に紛れることのできない髪色は、栄養が行き届かなかった故のもの。

彼の壮絶な生前が伺えた。


よく考えれば当てはまる箇所はいくつもあった。


彼の手が驚くほど冷たいのも、色が白すぎるのも。

隠れたがる性質は、もしかしたら生前

村人とかに迫害されてたのかもしれない。


呪われた家だから出て行け、と。



「そうだ、サチちゃん…」

「え?」

「サチちゃんの発言、気にならなかったか?」


カレンが首をかしげ、あっ!と目を見開いた。


『お友達とこれからどこか行かれるんですか?』


あの時あった時、彼女はそういった。

普通小さい男の子を連れていれば、弟か何かかと聞くだろう。

しかし、彼女は不思議なくらいカモくんを意識しなかった。


見えてなかったのだとしたら。


彼そのものに気付かなくっても無理はない。



「…さて、ここまでが彼の過去の話です。

これからは彼の罪の話をしましょう」



ぱん、と手のひらを叩いて、話を切り替える。


罪の話。


「まず、在秋に託された願いはなんだったでしょうか?」


「賀茂家の復活と、安倍家への復讐と…」

ヒナちゃんが指で数えながら唸った。

あともう一つはなんだったか。


「あともう一つは、安倍家を乗っ取る━━━いわば、征服です。

在秋はこれらを叶えるためだけに復活した。

一族から託された限られた霊力をいかに上手く使い、目的を達すればいいのか考えた


そして考えたのが、“ヒーローになる”ということ。

安倍家に襲い掛かる敵を賀茂家たる自分が倒せば、一般人のみならず安倍家すらも手の内にできます。


幼い彼は、きっとトイザらスとかのテレビコーナーでそれを決意した」


か、可愛すぎるだろ!!!

想像したら鼻血が出そうなくらいに萌え光景だった。

お花畑な発想が幼い彼らしい。


「しかし、ここで問題が発生します」


「…問題?」

カレンが問えば、こくりと頷く。


「敵がいないということです」


「…ま、まあそうだよねぇ」

「いまの時代、敵はテストと受験くらいしかいませんもんね」


かなり現実的な敵だな。


「いないなら、作ればいい。

そうして彼が頼ったのは、この地に300年くらい前に封印された怨霊の存在でした」


綺麗な指で、地を指差して。




「おわかりになりませんか?


━━━辻斬りは彼が復活させたのですよ?」



ここに眠っていたのをね、と。


御先さんは、綺麗な無表情で言い放った。



「……うぇ?辻斬りって…うそ」


「な、何を言ってるんですか?

だ、だって辻斬りを倒したくって、カモくんはヒナたちを頼ったんですよ?」


「カモくん…が?」


信じられなかった。


辻斬りを倒して欲しい

男である自分では無理だから。


そう頼ってきたのは、すべて、すべて…



「自作自演…だったというのか」



足元から崩れ落ちそうになる。

騙されてたというのか。


『私には…無理だ…』

あの胸を締め付けるような切ない声も。


『ありがとう…!』

やってよかったと思える嬉しそうな顔も。



すべて、自作自演だというのか。



「…残念ながら本当のことです。

実際、先程この黒庵さまが倒したのにまた復活したでしょう?

それは死んだはずの辻斬りに、主たる彼がまた霊力を入れたからですよ」


そうだ。

死んだのにまた生き返ったのは、誰かの手があったからだ。


それは、このカモくん━━━



「…私たちを騙したっていうの!?

カモくん!」



カレンが叫んだ。

相変わらずカモくんは頭を下げたまま。

表情は伺えない


「そんな願いのためだけに、ヒナたちを危険な目にあわせないでください!」

「そーだよ!私なんか切りかかってきたんだからね!」


二人して批難する。

もちろん僕も怒りたかったが、とにかく呆然とした悲しみが大きかった。


僕は出来うる限り、味方になろうとした。


それはすべて無駄で、彼の狙い通りで。


「…だから、選んだのか?」


「クミ?」


「僕が子供に弱いのを知ってて選んだのか?

思い通りになるだろうと見込んで!」


ならば、許したくない。


このふたりを巻き込んだのは僕だ。

それは子供に甘い性格が招いたこと。


騙されたのはカレンたちじゃない。

僕だ。


ならば、僕を許したくない。


危険な目に合わせた責任は、僕にあるといえよう。


「………私は、クミの優しさに漬け込んだ訳じゃない。

もちろんクミやカレンたちの優しさを知った上で選んだのは事実だ

だが漬け込みたかったわけじゃない…」


初めて喋った。

だけど、意味が理解出来ない。


「何言ってんの!?」


カレンが怒ると、今まで黙っていた黒庵さんが制した


「まあまあまあ、女の子がそんなふうに叫んじゃいけないぜ?」


イケメンに制されたからなのか、渋々と引き下がった。単純である。


「コイツにも事情があんだよ、頭ごなしにしかんな。知ってから意見いえ」


ぴっ、と親指でカモくんを指して、ぶっきらぼうに言い放った。




「このがきんちょはなぁー、ひとつ失敗犯したんだ」



「失敗?」

カレンが聞くと、黒庵さんが頷いて。

やけに優しい声で言った。



「…できなかったんだ。復活させた辻斬りのコントロールが」



できなかった?


「こいつは餓鬼も餓鬼。

お前らより餓鬼だ。


一族の願いを背負ってるとはいえ、やろうとしたことは身の丈が合わなすぎた。


復活させて早々、辻斬りが暴れたんだ」


まだ小さい彼だ。

うまく使役できなかったのだろう。



「そして、辻斬りはがきんちょに切りかかった」



でも彼は幽霊だ。

死ぬことはないだろうけど。



「そのとき、たまたま幽霊が視えたんだろうなぁ…通行人ががきんちょをかばった。

自分が切られるのも厭わずに。

そいつの友達も視えてねぇのに必死に辻斬りを止めようとして、その姿に通行人も足を止めて参戦した。



結果、そいつらは死んだ。






━━━━もうわかんだろ?

思い出せ、そりゃぁお前らだ」






…同時に、カモくんの頬に涙が伝ったのが見えた。

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