真相


「…カモくんが、ゆ、幽霊?」


信じろというのか、そんなSFを。


「だって彼は、そこにいるじゃないか」


だって幾度となく触った、抱きしめた、声を聞いた。

彼は明らかに存在している。


「そうだよ!カモくんは足だってあるし…!」

「幽霊は足がないというのはただの迷信だ」


カレンの言葉をばっさりと切り捨てた。


故に信憑性が高まる。

ふざけてる場合ではないのだ。


「…そうだ、私はこの世にもういてはならない人間だ」


初めて声を聞いた。

まだ俯いたままで、全く目を合わせてくれない。


「…いつ、死んだんですか?ここら辺で子供が死んだなんて話を聞いてませんが」


ヒナちゃんが聞くと、ひぃふぅみぃと手を折って。


「ざっと400年くらいか」


「「「400年!?」」」


見事にはもった。

よ、400年って!

「だいたい関ヶ原あたり…」

「せ、関ヶ原!?…てなんだっけ、明治?」

「戦国時代ですよ!」

カレンが盛大にぼけてくれた。

「…戦国時代って織田信長とか豊臣秀吉とかの!?」

ようやく思考が追いついたらしい。


たしかに彼は古風な言葉を選ぶ。

現代の子供らしからぬ雰囲気ではあったが。

「…にしては魔法少女とか戦隊ヒーローとかに詳しかったけど…」


「あれは勉強をしたのだ。玩具屋ではテレビも見れるからな。ヒーローが颯爽と敵を倒すのが心地よくって、つい見入ってしまったのだ」


こ、子供だ。

容易に「赤レンジャーがんばれー!」と拳を振り上げるシーンが想像できた。かわいい。


「私は勉強家なのでな」


どやぁってされたけど、そのお勉強に至っては完全に楽しんでる気がする。




「まあそれは本当みたいだなぁー

お前んちは結構勉強勉強!だったっぽいし」


黒庵さんがまるで古くからの隣人のように言ってきた。


まあ黒庵さんは幽霊じゃないだろうし、400年も生きてる隣人なわけないんだけど。


「当然だ、努力の末に掴んだ地位なのだから」

「それを横取りされちゃあむかつくよなぁ」


ぴくん、と眉毛が動く。


横取り?


「かと言ってやっていいことと悪い事がある。

いくら餓鬼でもそれくらいはわかんだろ?」


「……承知の上だ」


そんなに幽霊としてここにいるのがいけないのだろうか。

幽霊なんてそこらへんの写真に紛れてるし、さほど警察が来るような事態とは思えない。


「俺ら警察が来たのは、こいつが勝手に幽霊として存在してるからだけじゃねぇんだ。

…んーーと、まああれだ。

こいつはやっちゃいけないことしたんだよ。

…言い出しにくいっちゃにくいんだよなぁ」


ポリポリと頬をかく。

何が言い出しにくいんだ、と問おうとして。


あの黒髪スーツの眼鏡男が手を挙げた。


「黒庵さま、脳がないのは十分存じてますが、今はそれどころではありません。

ご説明ができないのならば私が致します。脳まで筋肉になってません」


やけに丁寧な言葉遣いにどSな発言。

黒庵さま、とか主従関係がうかがえる物言いに驚いた。


「てめぇ喧嘩売ってんな?

苦手なんだよこーゆー説明

…まあじゃあ頼むわ、ちっ、あとで覚えてやがれ」


バカにされたのが気に食わないのか、舌打ち。

それでも彼に任せるのが適任と判断したらしい、あっさり身を引いた。



「…初めまして。私は御先と申します」



丁寧に頭を下げられ、こちらも頭を返した。


「まずは貴女方がカモくんと呼んでいる、この少年の本名から話しましょう。




彼は賀茂在秋(カモノ ザイシュウ)という名前です

陰陽道2大流派の一派、賀茂家最後の血縁在信の孫にあたります」


結構、今確信的なことを言ったのだろう。

御先さんもそんな感じの顔をしてるし、カモくんも言われちゃった…みたいな表情だ。


だけれど。


そんな教科書に載っていないような内容を言われたところで、僕たちは知るよしもなく。



「え、お?お??うほ?」

「カモノハシ…」


カレンとヒナちゃんに至っては、意味のわからなすぎる現実に脳みそが逝ってしまった。


「すまないけど、御先さん、歴史の知識の薄い僕達にもわかりやすく話してくれないか?」


「承知しました」


大体予想できていたのか大した反応もせず。

御先さんは指を立てて話してくれた。


「陰陽道というのは一種の宗教であり、研究機関です。


もともとは中国から伝わったのですが、独自の進化を得ました。


政治や吉凶、暦をみる専門機関。


当然政府の心の拠り所となり、政を決める際の目安としたりしました。


陰陽寮という専門の機関が天武天皇により創立され、かれらは天文道と歴道その他を統合した研究をしていました」


ここまでは前にカモくんに聞いた話と概ね同じだ。

飲み込みやすい内容。



「しかし、逸材が現れた」


立てていた指をピョコピョコと動かす。

その指が逸材なのだろうか。


「安倍晴明。

これくらいは聞いたことあるでしょう」


「ああ…漫画とかで見たことあるよーな」

「小説とかにも良くなってますよ」


「はい。

彼は天皇の食堂を司る大膳大夫の一門の息子として産まれました。

そう、陰陽道とは無縁の格下の家系だったのですが、彼には一つ特徴があった。


妖狐とのハーフだったのです」



「妖狐…狐か」


「はい。その通りです。

葛の葉という狐を母に持った彼は、常人が一生かかってようやく得る量の霊力を湯水のごとく使えました。

父親はこの天才を埋もれさせるのはいけないと、当時陰陽道を司っていた賀茂家の当主に彼を託しました」


ここでようやく賀茂がでてきた、長かった。


「賀茂忠行は彼の才能を愛し、伸ばします。

そして最終的に、清明と自分の息子に家を譲りたいと考え、愚かなことをしてしまいます。


天文道を安倍晴明に、歴道を息子の賀茂保憲に分けて譲ったのです」


一つのものを二つに分けて譲った?


「それから、二つの家は陰陽道二大宗家として活躍することになるのです。


しかし当然、二つも宗派があれは派閥争いなどがどうしても生まれます。

だんだん衰弱していった賀茂家に止めを指したのは、在種という跡取り息子が暗殺されたことです」



「暗殺って…そんな、中二病みたいな、」


「恐縮ですがカレン殿、あなたはこの脳内筋肉男と同じような発言をしているのをお気づきですか?今後発言には充分な注意を払った方がよろしいかと」


「うぇえ!?は、はい…」


御先さんがイラついてる!?

カレン殿とか言っちゃって、なんだか武士のような威圧感。武士会ったことないけど。


「話を戻しましょう、 聡明なる貴女方にはもうお分かりでしょうが、暗殺の犯人は安倍家です。

跡継ぎのなくなった賀茂家を継いだのは、安倍家の当時14歳の子供。

安倍家との両立に耐えられず失脚し、結局勘当した在信の息子が継ぎましたが途絶えました。


実はその息子には隠し子がいました。

在種の二の舞にはしたくないと願った彼は、存在を隠していましたが、ある日それがバレます

安倍家は遠巻きにその隠し子を殺そうと企みました。


家のある村に『あの家は呪われた家だ』と物事の吉凶を専門とする役職の家が噂を流した。


当然皆信じ、その家を忌み嫌います。

息子の家庭は職を失い、食うものに困る生活を送ることとなりました」


「引っ越さなかったのか?

村から逃れればよかったじゃないか」


「引っ越しても、またその進展地で噂は流れるんですよ

しかも引っ越したから余計に信ぴょう性は高まる」


認めたことになってしまうのか。

噂が本当だから逃げたのだ、と思われてしまうわけだ


「彼らは結果、餓死という最後を遂げることになります。


そのとき、直接賀茂家の血を継ぐ子供へ、家族はすべてを託しました。


“どうか賀茂家が耐えませんように”

“どうか安倍家に復讐を”

“安倍家がしたように、私たちも安倍家を征服できますように”」


「……当然の恨みだよね」

カレンが忌まわしそうに言う。

3本の指を立てて説明してくれてた御先さんが頷いた。


「はい。当然です。

死をもっての願いというものは強烈です。


常人が普通なら死にたくないと本能に思うものをねじ曲げるほどの願い。


願いは信仰


しかも陰陽師という霊力を有する家系の信仰ともなれば、それは凄まじいものとなります。



くわえて、彼らは全く信仰されてないわけではなかった。

書物に記され、神社も少ないながらある。微量ながらも霊力は得られた


時さえあれば、大量の霊力が集まる環境にはあったわけです」



賀茂家自身の信仰と、一般人からの信仰。

時さえあれば、塵も積もれば━━強大な霊力に。



「賀茂家がしたことは、それらすべての霊力を一人にしか集まらないように術をかけた。


結果、最後の血筋たる彼が━━賀茂在秋が復活したわけです」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る