第13話

 ハハッ、なんだよ『その返事』と、笑った。


「さて、ミタリアの部屋に行こう」

「……分かりました。本当に何にもない部屋ですわよ」


 応接間の外に待っていたナターシャに、庭に出しっぱなしのお布団の回収と、後で部屋に紅茶と茶菓子をお願いした。

 

 私はリチャード殿下を屋敷のニ階にある私の部屋へと案内した――中は白と水色のインテリアで統一された部屋で、ベッドはダブルでふかふかお布団だ。


 彼は部屋の中を見渡すと、すぐに本棚を覗き始めた。


 今年の誕生日に渡した本は古書で、なかなか書店では扱っていない本。リチャード殿下が求めるのは歴史書、古事記などが置かれた王城の書庫にもない恋愛の本だから、他の古い本も読みたくなったのだろう。


 彼は本棚から、一つの本を取り出して私に聞いた。


「ミタリア、この本はどんな本?」


「その本は――庶民の男性に恋をした王女の話です。どんな内容の話かと言うと……」


「ダメだ!」


 リチャード殿下に言うなと、言わんばかりに手で口元を押さえられた。


「この本は借りていくから、ネタバレはやめてくれ。次はこの本を教えて」


「ふが、ふふ(分かりました)」


 リチャード殿下は私の本棚から、内容が気に入った本を選んだ。次に手にした本は……私が見られたくない本だった。


「ミタリア、このタイトルって俺にくれた本と同じだな」


「あ、そうですけど。それはダメです、リチャード様は見ないでください」


 その本を返して、とリチャード殿下に詰め寄った。


「おいミタリア、手を離せって」


「見ちゃダメ! ……わっ、えっ、リチャード様……あ、きゃっ」


「うわっ、グッ」


 彼に本を返してと、周りを見ずに揉み合いをして、殿下を自分のベッドに押し倒してしまった。

 その絶妙なタイミングで部屋の扉が開き、ナターシャがお茶を乗せたカートを押して、ニコニコ笑顔で部屋に入ってくる。


「失礼致します。ミタリアお嬢様、お茶をお持ちいたしました。まあ……これは、すみません」


(……ナターシャ、ノック忘れてる。なんて、わざとらしい登場の仕方。絶対、ナターシャには聞こえていたはず。ん? ナターシャの後ろに両親もいるわ?)


 お母様は微笑み、お父様は渋い顔……ナターシャは私達を横目にニコニコと、お茶の準備をテーブルに始めた。


「すみません。お茶を出しましたら、直ぐに帰りますので」


 テーブルにお茶をセットし終わると。


「お楽しみのところ、失礼しました」


 パタンと音を立てて扉がしまった。

 部屋に残された、押し倒した私と押し倒されたリチャード殿下。


「すみません。リチャード様、大丈夫ですか?」


 覗き込むと殿下は『重い!』と言うどころか。


「これくらい平気だ……ミタリア悪かったな、俺に見せたくない本だったのだろう?」


 謝るリチャード殿下に、私は首を振り。


「見せたくなかったんじゃないんです。……その本をよく見てください……紙がふやけて、ボロボロでしょう?」


 私は殿下の上からコロンと、彼の横に転がった。


(その本が好き過ぎて、毎回……同じ話で泣いてしまうから……中の紙がふやけてボロボロ)


 ――それを、みられたくなかった。


「ん、紙がふやけているな、……この場面で泣いたのか?」


「……はい。もう、泣きすぎですよね。でも、その話が好きで、何度も読み返ししてしまうんです」


「一緒だな、好きな本にはそうなる。この本に涙ぐんだと前に言ったろ……ミタリアにいい本を貰ったよ。俺もあれから、繰り返し読んでいるよ」


「ほんとですか? 私も寝る前に読んでいます」


 フフと笑い、優しい瞳にみられ、リチャード殿下の手が伸びて、頬を撫でられる。――ムズ、お腹がムズムズしてきて、その場所が熱くなってきた。


「なぁミタリアに、一つ聞いてもいい?」

「はい、なんですか?」


「今、お腹がムズムズして、熱い?」

「えっ?」


 どうして、それを知っているのですか? と、聞こうとしたとき、扉の向こうで"コトッ"と音が聞こえて、ナターシャと両親の話し声が聞こえた。扉の向こうで、ズッと聞き耳を立てているようだ。


「度々……すみません。リチャード様」

「ハハハ、いいや、お茶にするか」


「はい、お茶にしましょう」


 私たちはテーブルに用意された、お茶を飲むことにした。

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