第14話

 ナターシャが支度したお茶請けは、どれも私の好きなお菓子、ケーキだった。


(リチャード殿下は私の好きな、お菓子を買ってくれたのね)


「ここの苺のショート大好き、こっちのマカロンも好きです」


「そうか……俺も、本をたくさん借りて悪いな。ミタリアが選ぶ本はどれも俺好みだ。まだ、読みたい本がたくさん本棚にあるよ」


「えっ」


(自分が個人で選んだ本を好きだと、言ってもらえるのは正直嬉しい)


「気に入ってくれて嬉しい。リチャード様、いつでもいらしてください……(あっ!)」


「また来てもいいのか? ミタリア、その言葉を俺は本気にするよ?」 


(ううっ……)


「ええ、来てください。両親もリチャード様にお会いできて喜びますわ」


「じゃ、ミタリアは?」


(私?)


 殿下の青い瞳に見つめられて"ぼっ"と顔が熱くなるのを感じた。私は頬が真っ赤になる前に席を立った。


「……ミタリア?」

「…………」


 その私の姿にリチャード殿下も、テーブルから立ち上がる。


「逃げるなんてずるいぞ、ミタリア。逃げるな、言えよ」


「言いません」


 殿下にプイッと背を向けた。外そうとして、カチッと腕輪に手が当たるけど、これはリチャード殿下しか外せない……


「今、少し頬が赤くなっていたろ、ミタリアの照れた顔を俺にだけ見せろよ!」  


「嫌です」


 強く手を手首を引かれて振り向かされるが、偶然にカチッと腕輪が外れた。私の猫の姿になりベッドに逃げると、すぐ自分の腕輪を外して、姿をオオカミの変えてベッドに飛び乗ってきた。


 不機嫌がわかるほど"グルルルッ"と低く喉が鳴っている。


 そこから逃げようとしたけど、殿下の動きの方が早くて、むぎゅっと捕らわれた。私を捕まえた殿下は力強くスリスリ顔を擦り寄せた。


「俺はお気に入りは逃さん」


 お気に入り?


「ピャアァ――? リチャード様、おやめください」


「逃げた、ミタリアにはお仕置きだ!」

「そんなぁ!」


 リチャード殿下の顔が近い『やだ!』と、両手を前に出して、オオカミの顔をムニッとさせてもリチャード殿下は離れない。


「フッ、そんな可愛い手じゃ、俺には気かねぇ」


 またスリスリされて、ペロンと大きな舌で顔を舐められた。


「きゃっ、そこは口です!」

「別にいいだろう、ん? 甘い苺の味がする」


 ――ペロン、ペロン。


「リチャード様、甘いのは……今食べた苺のケーキです」


「うん、知ってる」


 ――か、確信犯!

 ――エッチだ、殿下はえっちだ!


「黒猫の姿だから見えないが、ミタリアの苺のような頬を食べてしまいたい」

 

「……! 食べないでぇ!」


 リチャード殿下は帰りの時間まで、私を離さなかった。


 


 帰り間際。


「ミタリア、明日の早朝に迎えに来るから」


 ご機嫌なリチャード殿下と。


「……はい、お気を付けてお帰りください」


 くたくたな私。


 夕飯の後に出た、デザートの苺のショートケーキを見るだけで、さっきの光景を思いだして私の頬が赤くなる。


 うう……しばらく、苺のケーキ食べられないよ。

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