第12話

 昼過ぎの、王城――リチャードの執務室。

 俺は陛下から任された、書類を黙々と片付けていた。


 ふと、書類を持つ手が止まる。


「リル、ミタリアの登城は……あ、いや、今日は来ないんだったな」


 昨夜、3日後と自分でミタリアに伝えておきながら、失念していた。しかし、彼女と今日を含めて2日も会えないのか。


 ――ふうっ、つまらんな。

 リルは執務の手が止まったままの俺に。


「リチャード様。3日後、朝から晩までミタリア様と、お過ごされるのでしょう?」


「……そうだな」


 そうだ朝から晩までか――ミタリアと長い馬車の中でどう過ごす。たくさんの話をして、可愛い寝姿、笑顔……が見たい。


 一向に進まない書類に見かね、リルが再び話しかけてきた。


「お会いたければ、本日と明日の執務をさっさと済ませて、明日にでも会いに行けばいいのではないでしょうか?」


「俺から、ミタリアに会いに?」

「リチャード様の婚約者でしょう」


(リルの言う通り、俺から会いに行けばいいのか)


 やる気が出て、書籍にサインを落としチェックを始めた俺を見て、リルも自分の仕事を始めた。



 ――ん? もしかして、今、俺はリルに乗せられたのか?



「クク、俺をやる気にするのが美味いな、リル」

「何年、リチャード様と一緒にいると思っているのですか」


「(5歳の頃からだから)約10年か」

「えぇ、10年です」


 俺はいい友を腹心に持ったな。明日、会いに行くぞミタリア。そういや、昨日のミタリアは物凄く可愛かった――また、見たいな。


「なぁ、リル。前に注文した馬車用の布団は届いたか?」


 王族専用の専門店に注文した、俺の布団と同じ素材の生地と綿で特注したミタリア専用布団。


「今朝、専門店から品をこちらに送ったと連絡があったので、明日には着くと思います」


「そうか」


(クク、喜んでくれるといいな)



 ん? ムズムズ――またか、お腹がムズムズし始めた。




 ♱♱♱




 それはバレたお昼過ぎのこと。

 私は庭先にお布団をだして、日向ぼっこをしていた。


「フカフカのお布団って気持ちいい!」


  天日干しされた、お日様の香りは眠気を誘う。

 フカフカ、お布団の上でまったりしていた。


「クク、ミタリア嬢は本当に布団が好きだな」


 この声はリチャード様? これは夢か、幻か、私は夢うつつに返答する。


「好きですよ、お布団と結婚したいくらい」

「布団と結婚? それは困るな、ミタリア嬢は僕と結婚するんだから」


 ムギュッと、お布団が沈む感覚と。

 ホロに、チュッと柔らかいものが触れた。


「きゃっ、だ、誰?」

「ミタリア嬢、こんにちは」


「え? リ、リチャード様、こんには? ……執務がお忙しいのでは?」


 お会いするのは3日後――明日で、まだ2日目ですが?


「今朝、執務が全て終わって暇になったから、ミタリア嬢に会いにきた」


「このような遠くまで? 明日になったら会えるのですよ」


「そう、釣れないことを言うなよ。僕はミタリア嬢に会いたかった」


(僕……リチャード様が私に会いたかった?)


 驚きと照れで、何故が顔がへらっと笑ってしまう。


「ぷっ、変な顔」


「へ、変な顔ですって? ……リチャード様、酷い」


 私が怒っても、リチャード殿下はご機嫌なのか、ずっと笑っていた。そこに、ナターシャが屋敷から私を呼びにでてきた。


「ミタリアお嬢様、そろそろお布団を邸の中に入れますよ。……あらっ、お客さまでしたか、いらっしゃいませ……」


「お邪魔させてもらっている。リル、土産を渡してやってくれ」


「はい、かしこまりました」


 近くの馬車に控えていた側近リル。――そのリルから、ナターシャはたくさんのお土産を渡されて驚いた様子で、ちらちらと私に視線を送った。


「リチャード様、たくさんのお土産ありがとうございます」


「いいや、来る途中に菓子などを買ってきただけだ、みんなで食べてくれ」


 屋敷に訪れた人物が、リチャード様だと気付き。


「まぁ旦那様、奥様、お嬢様の婚約者の方がいらしました。ただいまお茶の準備をします」


 深々と礼をした後、ナターシャは大声をあげて屋敷に戻っていった。


(これは嫌な予感しかしない)




 ♱♱♱




 私の考えは的中した。

 直ぐに、お父様の執事が応接間に私達を案内した、中で待っていたお父様とお母様は満面の笑みで、リチャード殿下に挨拶を済ませるとすぐに席を立ち。


「リチャード殿下、ごゆっくりしていってください」


「ミタリア、リチャード殿下のお相手をしっかりなさい」


「はい、お父様、お母様」


 応接間に残された私とリチャード殿下。

 隣ではゆったりと、ナターシャがいれた紅茶を飲むリチャード殿下。


「リチャード様、庭で日向ぼっこをしますか?」


 そう聞くと、コトッと飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置いた。


「日向ぼっこか……それも捨て難いが、僕はミタリア嬢の部屋を見たい」


「ええ、私の部屋ですか? ……見るものが何もない普通の部屋ですよ」


「いい、僕が見たいんだ」


 案内しろと言わんばかりに、リチャード殿下は立ち上がり。紅茶を飲んでいる私に、エスコートをする様に手を差し伸べた、そのリチャード殿下の手に応えた。


 私を見て、リチャード殿下の瞳が優しげに細まる。


「その、ブレスレットを家でも使ってくれているんだな、嬉しい」

 

 眩しすぎる、リチャード殿下の笑顔を面と向かって見られず『は、はひっ』私は変な返事を返すことしかできなかった。

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